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第161話 漏らされた機密

 見事な細工の石灯籠。その灰色の御影石に入る龍の文様。見るものには主張が強すぎるように見えるその空想上の生き物には眼が入れられていない。一人の着流し姿の男が剣の手入れを休めてその空虚な空洞に目を遣った。縁側をなびく冬の冷たい風が手にした紙切れをサワサワと揺らした。男はその瞳が無いことに満足したというように笑みを浮かべた後、そのままの表情で手にした刃の流れるような波紋を眺めていた。その波紋は脂のようなものでテラテラと光る。その様がさらに男の笑みを薄気味悪いものへと変えた。


「旦那……寒空の下で着流し一丁……どてらでも着ないと寒くないですか?」 


 男に後ろから話しかけた北川公平はダウンジャケットに首の周りには襟巻きを巻いて寒そうに手を合わせてさすっていた。彼もこんな男、桐野孫四郎と一緒に行動するのはうんざりしていた。昨晩は桐野の旧友だというこの家の主と飲んでいるときも居心地が悪いことこの上なかった。


 主は次々と収集したという武具やら日本刀やらを二人の前に引き出してきては満面の笑み浮かべた。桐野は甲冑や鉄砲には目もくれずにただ剣が出てくるとその一つ一つを引き抜いてしばらく眺めてみては静かに鞘に収めた。こう言う成金にはとりあえずお世辞でも言えばいいのにと思う北川だが、そんな世渡りのことなど桐野には眼中にない。時々、『これは折れる』とか『斬れないな』などとけちを付ける度に家主の顔が醜く歪んだ。最後には勝手にしろとばかりに席を立った家主を何とかなだめてこうして家においてもらっているのに、肝心の桐野は自分の剣の手入れにしか関心が無いらしい。


 桐野はしばらく北川の問いかけに無視していた。


「気合の問題だな……貴様はたるんでるから寒いと感じるんだ。そんな事では地球でも子はそう沢山は作れないぞ」 


 突然その薄い唇から言葉が発せられた。答えていると言うよりも自分に言い聞かせている。そんな様子はいつものことだった。北川はとりあえず桐野が自分の言葉を聞く用意があることを確認できてほっとするとそのまま縁側に腰掛けた。


「前置きはいい。昨日の俺の態度が気に入らないと言う愚痴も結構だ……それより……見つかったのか?」 


 自分の無愛想の自覚があるのか。桐野の妙な言い回しに思わず顔がにやけそうになるのを引き留めながら北川は懐から携帯端末を取り出した。


「豊川警察署に勤務中の同志からの情報ですが見つかったそうです。今、豊川署には司法局の局員が出向という形で常駐しているんですが、そちらより先に俺達に情報が回ってきました。ついてますね、旦那」 


 そう言うとキーを操作してすぐに一人の男の顔写真を表示させた。映し出された一人の中年男。特徴がないのが特徴というようなその顔を一瞥すると桐野はそのまま視線を庭に向けてしまった。


「ずいぶんと凡庸な男だな。所詮いたずらの末に人を殺した……いや、殺したという意識すらないだろうな」


 画面の男を見つめながら桐野はそう言い放った。


「確かにどこにでもいる面ですね。個性が無いのが個性とでもいう面だ。それでも法術師かと言いたくなる」


 桐野の言葉に北川も笑いながら同意した。



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