第158話 法術師が居なければ役に立たない能力
「……大丈夫ですか?」
目の前の『月島屋』と言う焼鳥屋の暖簾を出していた女子中学生に声をかけられた。水島はその少女に法術の気配を感じないことに安心感を感じて自然と笑顔が浮かんでくるのを感じていた。
「は……大丈夫……大丈夫ですよ。ただふらついただけですから」
何とか言い訳をするがそこで力の源となる法術師の気配が残像であることを理解した。
『この店……法術師の気配が染みついていやがる……もしかすると司法局の法術師でも通っている店なのか?あそこの巡洋艦を一撃で撃破する法術を使う法術師……恐らくそいつがこの店の常連なのだろうな』
黙ったまま店を見上げた。実にこんな繁華街にはありがちの三階建ての店舗を兼ねた住宅があるだけ。少女は呆然と水島が自分の店を眺めているのを見つめるだけだった。
「本当に大丈夫……?顔色が悪いですよ?救急車とか呼びますか?」
少女はしつこく心配そうに水島に向けて声をかけて来る。
「大丈夫ですよ。心配しないで良いから」
少女が手を伸ばすのを振り切ると水島は再びペダルをこぎ始めた。
『確かにいるんだな……あの空間を切り裂く感覚と……死に行く恐怖の感覚……あの感覚を共有できる法術師が……ここは不吉だ……不吉な法術師の巣だ』
沈黙を続けながら水島はペダルをこぐ足に力を入れた。そしてこの通りは二度と通るまいと心に決めた。
『この街はやはり危険すぎる……俺はとんでもないところに来てしまったようだ』
水島はこれまでの自分の選択を深く後悔すると同時に自分の不幸を呪って皮肉な笑みを浮かべて自転車で雑踏の中に消えていった。