第157話 リアリストの感じるもの
水島徹は第六感というものを信じないリアリストだと自分を思っていた。
今日は自習の為に訪れた図書館にも例のクリタ少年は現れなかった。そしてその帰り道、自転車で走っていても特に彼に注目する人などいないことは分かっていた。
だが明らかに何かに監視されているような感覚はあった。
『まさか……法術絡みの件となれば現行犯逮捕が基本のはず。これまで法術発生と俺の関係は立証されていないはずだから捜査が俺のところまで及んでいるわけがない。たとえ法術の発生と俺の因果関係が立証できても起訴まで行くかどうか……警察もそこまで馬鹿じゃないさ』
商店街の上のアーケードが冬の北風を受けてばたんばたんと唸りを上げた。だが気にすることなく水島はペダルをこぎ続けた。
周りには法術師の気配は無かった。そのことが水島の不安をさらにかきたてた。
『力がある人間がいなければ俺も無力なんだな。俺自身には何の力もない。人の力に依存するだけの存在。まるで寄生虫だ』
自分の能力を思い出し、少しばかり自虐的な笑みを浮かべた。
その時だった。
一瞬だが明らかに以前の法術暴走で死んだ被害者と同じ力のある法術師の存在を感じた。背筋に寒いものが走りペダルを踏んでいた足がずれて思わず転倒しそうになるがなんとか自転車の体勢を立て直した。
『法術師の気配……いや、残像だ。この付近に強力な法術師のたまり場がある……これだけの力……初めてだ。こんな力の持主が居るとは……俺も知らなかった』
水島はそう直感して身体を竦めた。
『こいつは俺の力の及ぶところでは無いクラスだ……あの米軍の手先の餓鬼くらいに……どうする?俺はどうしたらいい?逃げるか?いや、挙動不審に思われるだけだ。ここは普段通りを装った方が良い』
水島の脳裏を焦りと不安が支配した。