第153話 怪しい反応
「ほら見ろ、またすぐに出やがった……特徴的なベータ波と……アストラルゲージは常に反転限界点で進行中だ」
得意げなかなめだがカウラがまじまじと画面を見た後ですぐに横からキーボードを叩いて事件現場で計測されたアストラルゲージパターンと照合した。
「似てはいるが……」
カウラは慎重にそう言った。
「だろ?」
得意げな笑みを浮かべるかなめにアメリアが冷たい視線を向けた。
「馬鹿ねえ、かなめちゃんは。似てるから即犯人とは限らないでしょ?」
アメリアの言葉に頬を膨らませながら一人自分の端末のキーボードを叩いているラーナに目をやった。
「東寺町……3丁目。古いアパートが多い場所っすね」
淡々とつぶやくラーナの言葉が終わる前にかなめはそのまま腰の拳銃を確認するとそのまま部屋の奥にかけられたコートに向かっていった。
「西園寺!」
慌ててカウラはそう言ってかなめを止めようとした。
「なんだよ!犯人かどうか片っ端から訪問してそいつが怪しいかどうか確かめれば済むことだろ?」
相変わらずの無茶な理屈でかなめはそう言ってカウラをねじ伏せようとした。
「そんな警察国家の甲武じゃないんだから。そんな事東和でやったら即職権乱用でお払い箱よ」
アメリアの言葉に含まれた『甲武』と言う言葉がかなめの暴走を止めてくれた。コートに伸ばしていた手を引っ込めるとかなめはそのままラーナのところへと歩み寄った。
「西園寺大尉も分かってるとは思うっすが、政治犯が山ほどいる甲武なら予防検束はできるっす。でもここは東和っす。何度も繰り返し申し合わせをしたとおりアストラルパターンデータは証拠としての力ががないっすから……」
手を止めずにラーナはつぶやいた。誠も彼女が何をしているのか気になってそのまま立ち上がりかなめの横に立った。
「ここで例の不動産関係の資料を生かすわけね」
納得がいったようにアメリアはうなずいた。ようやく自分の行動を理解してくれる人物が現れたことに安心したようにラーナは椅子に座りなおした。
「まず……情報士官共からもらったキーワードで……」
ラーナは落ち着いてキーボードを叩いていた。
「なんだ?アイツ等はラーナにはそれを教えてたのか?」
不機嫌そうなかなめの肩をアメリアが静かに叩いた。その様子を見て切れそうになる自分を治めるためのようにかなめはゆっくりと深呼吸をした。
「出ました。直近の転入者の名前は……水島徹……この前の十五人には入ってない名前だな」
画面に一人の人物の戸籍謄本が映し出された。
「前科無しか……別件で引っ張るわけには行かないか?」
相変わらず逮捕しか頭にないかなめはそう言って舌打ちをした。
「西園寺。貴様は逮捕することしか考えていないんだな。それに例の十五人はどうする?無視か?」
カウラの諦めたように一言にかなめは舌打ちで答えた。
「例の十五人は東和警察の皆様に調べていただくとしても……法術犯罪は現行犯が基本よ。とりあえず身辺を探ることから始めないと」
そう言うとアメリアはすぐに先ほどかなめがコートを取りに戻った場所へと向かった。
「制服着てか?それこそ現行犯は無理になるだろうが」
今度はかなめは現行犯逮捕を提案してきた。
「かなめちゃん……すぐに身辺に張り付くつもりなの?ラーナちゃん!水島とかいう人の以前の住所は分かるかしら?」
冷静にアメリアはそう言ってラーナに指示を出した。
「ええ、……城東区砂町……」
事件のあった都心部からの転出者。それだけで十分に怪しかった。
「なるほど、まずは都心の事件の裏づけを取るのか」
納得したようにかなめもコートに手を伸ばす。ラーナは二人とは別に再びキーボードをたたき始めた。
「それでは水島の動向についても警邏隊に把握してもらう必要があるな。ラーナ、頼む」
カウラもそう言うと椅子にかけていたジャンバーを引っ掛ける。誠も遅れまいと同じくジャンバーを着た。
「寺町交番には資料を回しておくっす。それとデータ再確認の為にアタシはここに残るっす。十五人の動向も気になるっすから」
そう言うとラーナは再び端末に集中した。
「じゃあ行くか」
かなめの一言でうなずいた誠達はそのまま倉庫のような部屋を後にした。




