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第151話 出勤の朝に

「さっさと食べて出勤だ」 


「そうしましょ」


 カウラとアメリアは島田を無視して厨房前のカウンターに並べられた料理のトレーを手にしていた。仕方がなく誠もその後に続く。タバコを吸い終えたにしてはやけに早く帰ってきたかなめがいつの間にか誠の後ろに立っていた。彼女もまた慣れた手つきでトレーを手に取り暇そうに食堂を眺めた。


 その様子を興味津々という感じで眺めていた島田と目が合うとかなめのタレ目のまなじりがさらに下がった。


「島田……相変わらず態度がでかいな。どうすればオマエを殺せるんだ?オメエの偉そうなところを見ると腹が立ってくる。アタシより階級も年も下のくせに偉そうにするんじゃねえ」 


 得意げにプリンを食べる島田を見てかなめは毒づいた。


「あれじゃないですか?銀の弾丸で額を撃ち抜くとか心臓に十字架を突き立てるとか……それは吸血鬼でしたね……ああ、俺も知らねえっすよ。俺がどうすれば死ぬか」 


 島田は下手にかなめを怒らすと面倒なのでとりあえず少ないオカルト知識を総動員してそう答えた。


「西園寺遊んでないで早く食事をしろ!」 


 スープを注ぎ終えたカウラの言葉に舌を出しながら厨房に向かうかなめのおかっぱ頭。


「それにしても豊川署の警邏の面々。ちゃんと仕事はしているのかしら?まるで連絡が無いじゃないの」

 

 すでにすべての料理をトレーに載せて堂々といつもの指定席に座ったアメリアはすばやくウィンナーをかじりながらそうつぶやいた。


「彼等も仕事と割り切ってくれているだろうな。確かに杉田と言うあの刑事。当てにはならないが他に手段は無いからな」


 カウラにはそう言うことしかできなかった。 


「そんな弱気で……」 


 誠は椅子に座りながらぱくぱく食事を食べているアメリアを眺めた。見られていることが分かるとにっこり笑ってすぐに今度は付け合せの茹でたキャベツを食べ始めた。


「ああ見えても東和は腐っている官僚が過半数以下と言う遼州では貴重な組織だからな。それなりの結果は期待して良いんじゃねえの?」


 遅れて席に着いたかなめが同じように手にした緑色のものをかじり始めた。よく見ればそれは四分の一に切ったキャベツだった。呆れてみていた誠達だが、かなめは気にせずそれを見る間に食べ尽くした。


「なに?かなめちゃんは芯が好きなの?」


 アメリアは冷やかす調子でそう言った。 


「食物繊維だよ」 


 かなめは食べるものにはこだわりが無いのでそう言ってキャベツの芯を食べ続けた。


「サイボーグが健康志向か?臓器が駄目になったら交換すればいいだけの話だというのに」 


 冷笑と言う言葉がぴったりくる笑顔を浮かべてカウラがそう言った。


「絡むじゃねえか。隊長殿。そんなに自分の愛しい部下の大事なアレが他の女に注目されてるのが腹に据えかねるのか?」 


 いつものようにかなめ達の話が展開しているのを見て誠は安心してスープをすすった。


「二日目……意外とこういうときに見つかるんだよな」 


 かなめはスープを飲み干すとトーストに食いついた。


「そうか?まだ全地域をパトロールできたわけでは無いんだろ?それに反応が丁度よく現れるとなると確率論敵にはかなり低い話になるぞ」 


 かなめはこれまでのくだけた調子を仕事モードに切り替えていた。


「そうよね。まあ節分までには決着が付くといいわね」 


 カウラとアメリアはそれぞれにトーストとソーセージをかじりながらそれとなく誠の方に目をやりながら食事を続けていた。


「捜査なんて……よく分からないですけど……西園寺さん。そんなものなんですか?」 


 スープの味付けが少し濃すぎたのを気にするように舌を出しながらつぶやく誠にかなめは手を広げて見せた。


「すぐにターゲットが見つかるなら本当にすぐに見つかるもんだ。見つからない時は……」 


 かなめは非正規部隊時代の勘でそう言って見せた。


「それはあるかもしれないわね。アニメキッズの景品も欲しいと思っているときはスクラッチの点数が低くてもらえなくて、これは興味が無いから当たったらサラにあげようとか思っているときは結構いい点数が出て交換するかどうか迷うことが多いもの」


 アメリアの例えはいつもそう言う感じだった。 


「その例え……適切なのか?私にはまったく理解不能なのだが」 


 アメリアの独特の話題についていけないカウラが突っ込みを入れた。周りでは時間に厳しい技術部部長代理の島田の部下達がすばやく食事を済ませてトレーを返しに行っていた。


「じゃあ、がんばってくださいね」 


 本当は自分も捜査に参加したい島田が励ますようにそう言った。


「オマエこそ潰されるなよ!『武悪』はただのシュツルム・パンツァーじゃねえんだから。それに使うのはあの叔父貴だぞ。エースに恥じない機体に仕上げろ」 


 島田が苦笑いを浮かべながら立ち去る背中にかなめが声をかけた。


「それにしても……他人任せってのは……」 


 かなめは伸びをしながら立ち上がった。


「そんなに豊川署の警邏隊が信用できないならかなめちゃんが計測器を持って走り回れば良いじゃないの」 


 アメリアはいつものようにかなめを冷やかす。


「アメリア……テメエ一回殺してやろうか?なんでアタシがそんな面倒なことをしなきゃならねえんだ?」 


 かなめは苛立ってそう答えた。誠も二人の気持ちを察しながら静かにパンをかじった。もうすっかり二人の喧嘩に慣れたカウラはため息をつきながらデザートの温州みかんの皮を丁寧に剥いていた。



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