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第150話 インターバル

 気が付いた誠を襲ったのはまず頭痛だった。次に全身に涼しげな感覚があるのが感じられた。しばらくの間誠はそのままの格好で目を開けずに寝ころんでいた。


 飛び起きるとそこは寮の誠の部屋だった。布団は乗せられているが全裸だった。隣を見るとごちゃごちゃと丸められた昨日着ていた服が転がっていた。


「またか……」 


 かすかに残る記憶の断片で自分が酔っ払って全裸になったことが思い出されてきてそのまますばやく箪笥からパンツを取り出して履いた。


 そのまま寒い部屋の中で周りを見る。いくつかのお気に入りのフィギュアの並びが変わっているのが分かった。


「アメリアさん……気が付いたら止めてくれれば良いのに……」 


 誠の酒癖の悪さとの味方の下手さは同じく酒に酔うと脱ぎだすアメリアなら止めてくれたのにと後悔した。


「何か言った?」 


 突然の背後からの声に誠はのけぞった。


「うわ!」 


 突然背中からアメリアに抱きつかれて誠は飛び跳ねた。その衝撃でお気に入りの魔法少女のフィギュアが傾いた。


「いきなり部屋に入ってきて声を掛けないで下さいよ!危ないじゃないですか!」 


 誠は思わず半裸でそう叫んだ。


「今飛び跳ねたのは誠ちゃんじゃない。私は悪く無いもん!そんなに部屋に入られるのが嫌だったら鍵をかける習慣を付ければいいだけじゃないの」 


 じりじり迫ってくるアメリアの背中の後ろにはニヤニヤ笑うかなめと呆れたような表情のカウラがドアのところに立っていた。


「早く服を着ろよ。まったくオメエは飲むとすぐ脱ぐんだな。まあアタシはオメエのでかいのが見られるから面白いからそれで良いんだけどよ」 


「顔が青いぞ。シャワーでも浴びて気合を入れなおせ。それと飲む時はちゃんとペースを守れ。それが出来ないなら酒は飲むな」 


 カウラとかなめの薄情な言葉にそのまま転がっていた昨日着ていたズボンに手を伸ばした。


「昨日はすいませんでした」 


 誠は飲むと記憶が跳ぶことが多いのでついいつもの癖で頭を下げた。


「いつものことだよ、アタシは慣れた。というかそれが楽しみだ」 


 かなめは別にどうとも思わないというようにそう言った。


「慣れた?本当に慣れた?まあ、誠ちゃんの立派なアレも見られたことだし。私としては楽しかったかな」 


 これまで誠の目の前で肩を突付いたりしていたアメリアが今度は顔を赤らめているかなめの頬をつついた。当然切れたかなめはそのままアメリアの頭を抱え込むと強化された人工筋肉のおかげでレスラー並みのパワーを誇る腕でぎりぎりと頭を締め付けた。


「痛い!痛いわよ!」 


 アメリアはもがきながら必死にかなめに抵抗する。


「痛くしてるんだ。当然だろ?何ならもっと痛くしてやろうか?かえでみたいに痛いと喜ぶような身体にしてやっても良いんだぞ」 


 そんな二人のじゃれあいに呆れたようにカウラは頭に指を当てた。


「昨日の飲み会はリフレッシュの為のものだ。それを……」 


 カウラはそう言いながら誠の足元の布団に手を伸ばした。そのしぐさに思わず引き込まれそうになる誠だが、かなめとアメリアの視線を感じてカウラの前に立ちふさがった。


「布団ぐらい片付けますよ」 


 誠はそう言って乱れたベッドを片付けた。


「その前に服を着ろ。今日からいつ何が起きてもかまわない覚悟をしてもらわないとな」 


 上官にこう言われたらどうしようもない誠だった。そのままセーターを頭から被る。そしてそのままじっと誠を見ているかなめとアメリアに目をやった。


「そんなに見ないでくださいよ」 


 パンツ一丁で立ち尽くす誠をアメリアは舐めるような目で見た。


「昨日はあんなに『俺を見ろ!』って叫んでたのに?確かに誠ちゃんのアレはビデオの黒人男優にも勝てるくらいだけどあまり他の店ではしない方が良いわよ」 


 アメリアは飲むと人格が変わる誠が面白くてしょうがないというようにそう言った。


「そんなこと言ってたんですか?」 


 顔を赤くする誠にアメリアとかなめが顔を見合わせて爆笑し始めた。


「馬鹿は相手にするな。もうすぐ時間だぞ」 


 布団をたたみ終えてカウラが立ち上がった。仕方がなく誠もズボンを急いで履くとそのままカウラについて廊下へと出た。


 早朝の寮はいつものように戦場だった。技術部の士官の面々が二日酔いか何かのように頭を抱えながら短髪の髪を掻き揚げながら誠達を避けて追い抜いていった。


「技術部の旦那連。昨日は飲まされてたからなあ。もう潰れてると言うのに誰かさんが全裸で乱入していって……アイツも相当溜まってるんだな」


 かなめはそう無責任にそう言うと食堂を目指した。 


「そんなことがあったんですか?一体誰がそんなことを」


 誠も上で技術部の情報士官が酒盛りをしていたのを知っていたのでそう言った。 


「飲ませたのはオマエだろ?飲むとすぐに記憶が跳ぶ癖なんとかしろよ」 


 かなめそう言われても誠の記憶はまるで消えていた。仕方なく階段を下りながら昨日の全裸になった自分の事を思い出してみるがまるで浮かんでこない。


「じゃあちょっとアタシはタバコを吸ってくるから」


 食堂には行かず、かなめはそのまま廊下の奥に消えようとした。


「そのまま永遠に吸ってて良いわよ。かなめちゃんが居ると面倒なだけだから」 


 それを見送るアメリアの言葉にはいつも通り棘があった。


「うるせえ!」 


 にやけながら紺色の長い髪を掻きあげるアメリアに悪態をつくとそのままかなめは中二階のラウンジにある喫煙所に消えた。


「今日は……大野君が食事当番ね……体重制限の為に寮に居るのに食事当番なんか任せてつまみ食いしてたら意味が無いじゃないの」 


 技術部一の巨漢で野球部の急造キャッチャーとして、誠の変化球をぽろぽろこぼす下手な男大野が今日の食事当番だった。


「アイツがここにいる意味があるのか?味見とか言って大量に食べているらしいじゃないか。アイツがここにいる理由はダイエットの為だろ?」 


 カウラはそうつぶやきながら朝らしく忙しそうに動き回る隊員が集まる食堂へと入っていった。


「いらっしゃい!」 


 そこでは食事を済ませた島田が寮長の特権であるプリンを食べていた。


「島田、元気だな」 


 かなめが呆れるのは無理も無いような気がした。誠がノックアウトされればあのメンバーの矛先は当然のように島田に向く。だが生体機能の異常な活性化と言う技のある島田なら致死量のアルコールを口から流し込まれても平気なように誠には思えた。



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