第148話 反則級シュツルム・パンツァー
「でも……『武悪』……あんな機体。本当に使うんですか?地球侵略でも始めるなら別ですけど。アレのスペック。見ましたけど異常すぎますよ。スペック表と隊長の法術データを突き合せたらアレ一機を相手にするには宇宙艦隊一個艦隊が必要になる」
そう言う島田の視線は司法局実働部隊ナンバー2であるランへと向けられることになった。
「島田……出動関係の事例集。見てねーのか?」
ランは鋭い口調で上司として島田に向けてそう言った。
「そりゃあ甲一種出動は使用兵器の制限が無くなりますが……反則ですよ、あの機体は」
島田の言葉に自然と誠はうなずいていた。誠の愛機の05式乙型も法術対応のシュツルム・パンツァーだが『武悪』は桁が違った。法術師の展開する干渉空間にエネルギー炉を転移してメイン出力を確保する構造はエンジンの出力を上げる際にエンジン自体の強度の限界を想定せずにパワーを出すことができる。そんなメインエンジンを搭載した上に現在の技術の最先端クラスでとても一般部隊では運用不可能な高品位パルスエンジンでの驚異的な機動性を確保した機体には正直勝負を挑むのが馬鹿らしくなるほどだった。
「反則だろうが失格だろうが関係ねーんだよ。アタシ等は司法実働部隊だ。兵隊さんと違って勝たなきゃならねーし、勝つときは圧倒的じゃなきゃならねーんだ。わかるか?」
どう見ても小学生が飲んだくれているとしか思えない光景をランは展開していた。言っていることの理屈が通っているだけに誠は一人萌えていた。だがその萌えを我慢できない存在がこの店にはいた。
「ランちゃん!」
立ち上がるとアメリアはそのままずかずかとランに近づいていく。
「お……おうなんだ……!くっつくな!」
不意を付いてアメリアはランに抱きついて頬擦りを始める。
「なんてかわいいの!萌えなの!」
誠から引き離されたストレスを解消しようとアメリアはランを弄ることに決めているようだった。
「うるせえ!離れろ!」
必死になってランはアメリアを引き離しにかかる。
「慕われていますのね、クバルカ中佐は……ちょっと妬けますわね」
ふざけた口調で芋焼酎を飲む異国情緒あふれた金髪美女の和服の茜の姿は誠にはあまりにシュールに見えた。
「茜!くだらねーこと言ってねーで助けろよ!」
ばたばたと暴れているランを横目に見ながら笑顔の春子が料理を並べ始めた。
「いつも申し訳ありません」
ようやく気が付いたカウラが立ち上がりランに抱き着くアメリアを引きはがした。
「カウラさんが気にすることじゃないわ。それに本当にいつもごひいきにしてもらっちゃって。うちは司法局実働部隊がいなくなったらつぶれちゃうかも」
そう言いながら春子は頭を撫でる程度に譲歩したアメリアの愛情表現に落ち着いてきたランの目の前にアンキモを置く。
「でもクバルカ中佐は本当にかわいいですものね。クラウゼさんもつい暴走しちゃうわよ」
ふざけた調子で茜はもうすでに芋焼酎のグラスを空にしていた。
「アタシは一応上官なんだけどな……そこんところの上官の威厳と言うモノを考えろ!」
アメリアに撫でられながら仕方が無いというようにランは日本酒を飲み干した。
「じゃーん!来ましたよ」
小夏が突然のように現れて手にした料理を配っていく。
「やっぱりここは良いねえ」
葉巻をくゆらせながらかなめはしみじみとそう言った。
「そう言えばかなめちゃんは甲武よね。あそこは結構火の使用には厳しいんでしょ?二酸化炭素を出すエネルギーだとか言うことで」
アメリアはようやくランをその手から開放すると満面の笑みで誠の豚玉を勝手に混ぜ始めたかなめの正面の自分の席に腰掛けた。
「まあな。あそこはどうも息苦しいところだからな。そのくせ平民は電気も無しで蠟燭とランプの明かりの下で暮らしてるんだ。妙なところで矛盾していやがる。そんな国の事を思い出したら特に東和に来たら帰りたくなくなるよ……」
ネギまを食べ始めたカウラにそう言うとかなめは手を止めてグラスのラム酒に手を伸ばした。
「どうしたの?かなめちゃん」
アメリアの顔が真剣なものへと変わる。それはかなめの脳内の通信デバイスが何かをつかんでいることを悟っての態度だとわかって誠もかなめに視線を向けた。