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第142話 幼女からの酒の誘い

「おいおい、根詰めすぎだぜ。これから長いんだ。今日は終りにして飲みにでも行こうじゃねーか。クラウゼも毎日九時まで残業なんて神前が潰れちまうぞ。今日くらいゆっくりしよーや」


 ランは気が変わったというようにそう言った。 


「それランちゃんのおごり?」 


 アメリアが飛び上がるようにして立ち上がった。それを見たランは満足げにうなずいた。


「ならいいか!もうこんな監視作業は飽き飽きだ!今夜ぐらいパーッとやろうじゃねえか!」 


 突然立ち上がるかなめの行動は誠達にすでに予想されていた。かなめはにんまりと笑いながら誠に絡みついた。さすがにカウラやアメリアの目があるのが気になるが暴力サイボーグに逆らう度胸は誠には無かった。


「いいわけないですよ!いつ犯人が特定されるか分からないんですよ!」 


 カウラの言葉に日和見主義のアメリアもうなずきそのまま日本酒を飲んでいる少女のように見えるランを睨み付けた。


「オメー等……自分が立てたプランをちゃんと把握しておけよ。神前、犯人が特定できたとしてどうする?」 


 ランの鋭い視線に誠は驚いて口ごもった。ため息をつきながらランは言葉を続けた。


「オメー等の資料は法的には何の資料的価値も無い代物だ。司法局のデータバンクは本来門外不出で外部に出ることはあり得ないことになっている。各自治体の法術適正結果も同様だ。オメー等が十五人を絞り込んだのはこの二つの資料をつきあわせた結果だろ?任意で出頭を求めるにしても担当は豊川署の捜査課になる。オメー等の仕事にゃならねーよ。つまりオメー等のやってることは警察の手柄にはなってもアタシ等の手柄にはならねー。そんなつまらねー仕事しててもむなしいだけじゃねーか」 


 ランは冷酷に現実を誠達に叩きつけて見せた。


「クバルカ中佐のおっしゃるとおりっすね。もし容疑者が特定されても捜査権限は豊川駅前法術殺傷事件の捜査チームの仕事っすから」 


 ランの言葉にうなずきながらラーナは端末を終了した。そして彼女が顔を上げたときに彼女の同盟司法局法術特捜での上司に当たる嵯峨茜警部が狭苦しい部屋に入ってきた。


「そう言うことですわ。今日はクバルカ中佐が私の車に乗っていただけませんこと?ちょっと捜査の事でラーナを含めてお話ししたい事がございますので」


 潔癖症の茜には薄汚れた元用具入れのこの部屋の様子は耐えられないようだった。いかにも珍しそうに古ぼけた机や痛んだ壁を眺める紫色の着物が似合いすぎる茜に誠達は見とれていた。


「皆さん……月島屋は抑えましたわよ。急ぎましょう」 


 茜の手早さには定評がある。誠達はそこまで言われたら断る理由は無かった。


「けっ!」


 明らかに場違いな格好と上品な物腰は対極に立つかなめの声と同調して全員をアフターファイブモードへと切り替えていた。


「じゃあ……ラーナちゃん。先に着替えてるわよ」 


 アメリアはそう言うと恐る恐る端末を終了しているカウラを引っ張って廊下に向かう。かなめもニヤニヤ笑いながらその後に続いた。


「クバルカ中佐、神前曹長。ちょっとラーナと話がありますから」 


 遠慮がちにつぶやく茜の言葉に棒立ちの誠の腕を撮ってランが誠を廊下に連れ出した。


「あいつ等も色々あんだよ。とりあえず着替えて来いや」 


 そう言われた誠は不承不承定時ということで更衣室に向かう事務職員の流れに続いて建物の奥の男子更衣室に向かった。


 豊川署では誠達は明らかに異物のように思われていた。それぞれに楽しそうに雑談を続ける署員から離れて一人更衣室で着替えをしていれば、さすがにホームだった司法局実働部隊の隊舎が恋しくなってきた。


「それで……うちの家内がな……」 


 嘱託職員のような白髪の男性署員が年下の巡査部長に身の上話をしていた。最年長が46歳の嵯峨と言う司法局実働部隊では味わえない空気を感じながら誠はジャケットを羽織った。そんな中で突然派手に扉を叩く音が誠の耳に飛び込んできた。


『出て来いよ!神前!』 


 あまりの激しいノックに署員達は驚いた。そしてその視線は必然的に誠へと注がれた。驚いた誠は慌てて着替えを済ませると走り出した。


「すみませんお騒がせしました……西園寺さん!」 


 完全に『特殊な部隊』の気分の抜けないかなめを誠は気弱な瞳でにらみつける。


「なんだよ遅いテメエが悪いんだろ?」 


 迫力のある面持ちでかなめは誠を見上げた。その隣には髪を結びなおす途中で出てきたと思われるカウラとコートの襟を整えているアメリアがいた。


「そんなに急いでどうするんですか!」


 誠は明らかに急いで支度をしてきた女性陣にため息をつきながらそう言った。 


「いいんだよ。ただで酒が飲めるんだから!これであのちんちくりんの気が変わったらどうするんだよ!姐御がおごると言ってるうちにきっちりおごられる。それも生きていく知恵だぞ」


 かなめは自分の酒は自分持ちと言う月島屋のルールを忘れてそうつぶやいた。 


「アタシはオメーのボトルまで頼まねーからな。いつも通りオメーの酒はオメーが払え」 


 満面の笑みのかなめにランが突っ込みを入れた。


「自分で言いだしといてそりゃないですよ。姐御もたまにはラムを……」


 かなめはなんとか自分の酒代をランに出させようと食い下がった。


「アタシは日本酒党なんだ。ラムみてーに強いだけの酒なんて飲めるかってーの!」


 ランはかなめに向けて非常にそう言い渡した。


 周りの帰宅しようとしている女性署員の痛い視線が誠に向かってきていた。どれも殺気が感じられて誠はひたすら居づらい感覚に襲われた。



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