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第140話 定時前の珍客

「よー!仕事は順調か?」 


 定時丁度。どう見ても小学生のピンクのダウンジャケットを着た少女の声で誠は我に返った。


「姐御……隊は良いんですかね。アタシ等が居ないんでしょ?仕事も溜まってるんじゃないですか?」 


 豊川警察署の古びた建物の奥の暗い部屋。そんな場所には似つかわしくない満面の笑みの上官クバルカ・ラン中佐にかなめが声をかけた。


「おー。問題児がここに集まってくれたからな。静かなもんだよ。かえでの奴がリンとあの変なことをするためのトイレに入ったっきり戻ってこないのが気になるくらいのもんだ。ラーナ。調子はどうだ」 


 昼過ぎに帰ってきてからラーナはほとんど画面から目を離さずにじっとしていた。何か本局で分かった事実があるのかどうか。誠達は気にはなったが声をかけられる雰囲気では無かった。無表情を顔に貼り付けたまま黙って各移動車両データを検索していた。


 緊迫した表情のラーナを見つけたランも、ただ苦笑いを浮かべるばかりだった。手にしていた袋からカップ酒を取り出したあと、静かにプルタブを引いて口に運んだ。そんな小さなランの視線の先では画面から目を離さない緊迫したラーナの姿があった。


「いいのかよ、餓鬼が部下の出向している警察署で飲酒してるぞ。ここは警察署だ。治安を守る場所だ。そこでおこちゃまが酒飲んでたら示しがつかねえだろうが」 


 かなめは責めるような口調でそう言った。


「余計なお世話だ馬鹿野郎!アタシは34歳!立派な成人だ!酒の一杯や二杯飲んで何がわりーんだ!」 


 かなめにチャカされてもランは上機嫌にごくりごくりと日本酒を飲んだ。誠は彼女が戸籍上は34歳であることを以前書類で見せられたときの衝撃を思い出した。確かに物腰や貫禄はその年齢の方がふさわしいところがある。


 そんな誠の考えとは別に相変わらずランはにやにや笑いながらラーナを眺めていた。


「何か良いことでもあったんですか?」 


 さすがにこういうことには厳しいカウラがさらにバッグから二本目の缶ビールを取り出すランを見て苦笑いを浮かべながら声をかける。


「まあー隊長との賭けに勝ったからな。おかげで隊長のとっておきのカップ酒を取り上げてこうして飲めるわけだ。良い気分だな」 


 そうランは得意げに切り出した。


「あの駄目人間と賭け?そちらはずいぶんと暇そうだねえ」


 相変わらずかなめの視線は冷めていた。


「そりゃあオメー等が居ないのはでかいよ。特に西園寺が問題を起こさないからアタシの仕事も減ってアタシも自分の仕事がはかどって……毎日定時退勤だ。いーだろ」


 ランはそう言ってカップ酒を飲み切った。


「うらやましいねえ……こっちは夜までこのつまらない画面を目を皿のようにして見つめる毎日だって言うのに」 


 かなめが思わず本音を口にしていた。戦闘用に調整された義体のサイボーグのかなめもその精神まで強化されているわけではない。戦闘用に遺伝子操作で生み出されたアメリアやカウラも、慣れない『待つ』と言う任務に疲れてすでに集中力の限界を迎えていた。誠が目を向けても三人とも憔悴しきっているのが分かる。それを見抜いたとでも言うような笑みを浮かべたランは二本目のカップ酒のプルタブを引いた。


 それを見て恐らく嵯峨は勝利を確信してその酒を賭けたのだと誠は理解した。



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