第136話 地球圏の協力者たち
「それにしても『廃帝』がフランスと協定を結ぶとは意外だったな。地球圏でもあそこは法術には並々ならぬ関心を持っているが米帝に比べて技術も法術師の数も少ない。潰すなら一番だと俺は踏んでいたのだが」
日本酒を飲みながら桐野はそんなことを口にした。
「あのネオナチの爺の口利きらしいですよ……でもフランスですよ!フランス。なんと言ってもあの国は革命の国だ。俺みたいな革命家が子を残すにはふさわしい国だ!フランス美女が俺を待っている!いやあ、楽しみだなあ」
そう言う北川にはいやらしい歓喜の表情が浮かんでいた。
「下品な表情だな。それに貴様は行ったところで誰にモテると言うわけでもあるまい?その面では」
桐野は冷たくそう言い放った。
「舐めちゃいけないですよ。おれはあの『近藤事件』の英雄『光の剣』の使い手を軽くあしらった切れ者の法術師と向こうじゃ喧伝されているんだ。毎日のように俺の子を欲しがる女共の相手をするとなると……今から楽しみで楽しみで……」
ニヤニヤ笑う北川を不気味そうに見ながらパートの女店員が山盛りの鶏のから揚げと鶏の刺身を運んで来た。
「向こうとしてはそれが目的なんだろうな。覚醒した純血の遼州人の法術師と異星人の間の子は確実に覚醒した法術師になる。地球圏では法術師の数を一番揃えているアメリカに対抗する手段としてはそれが一番手っ取り早い。要は貴様は選ばれた種馬と言うわけだ」
一切、目の前の料理には関心も見せない様子の桐野はそう言った。
「なんてったって俺は大学でフランス語を第二外国語として学んでましたからね。大学を除籍されても革命の日を夢見てフランス語の学習には余念が無いんですよ。女を口説くことぐらい朝飯前ですよ。向こうも俺に抱かれたくてうずうずしている女達ばかりだ。こりゃあ楽しい一年間になりそうだ」
北川はそう得意げにそう言い放った。
「種馬が偉そうなことを言うものだ。どうせ妊娠可能な女を無理やりあてがわれて毎晩子作りをさせられることになるんだ。面倒な話だ。俺ならあって即座に斬り殺してから犯すがな」
無関心そうに桐野はそう言った。
「まあ、冗談はさておき。俺の目的は向こうの条件である俺の子を沢山あちらの女に孕ませることに有るんじゃない。あの神前誠と言う生意気な餓鬼に対抗するためにシュツルム・パンツァーパイロットになることに有るんですよ。この年でパイロット訓練とは……ずいぶんと遅いデビューかと思いますが、用は機械だ。俺も公安に追われて逃走期間中に飯場巡りをしていた時に土木機械の運転を任されることが多かったんでね。その延長だと思えば大したことじゃないですよ。あれはあれで結構コツが要るんで。まあ免許センターとかには指名手配されていたんで免許は無いですが、その分腕には自信がある。今度は正規のパイロット養成課程を受けるんだ。エースの称号を持って帰りますよ」
そう言うと北川は旨そうに鳥の刺身を口に運んだ。
「そうだ。貴様はパイロットとしてあの茶坊主の切り札の餓鬼を始末できる技量を身に着ける。そしてフランス政府は貴様の不細工な餓鬼を法術師として戦力に組み込む。これが貴様のフランス行きの目的なんだ。それを忘れるな」
桐野は相変わらず料理に手を伸ばすことなく酒を飲み続けた。