第132話 いつも仲裁を期待されることに疲れて
困ったような顔でカウラが誠を見つめた。彼女も軍用に作られた人造人間である。軍務については培養液から出るまでに多くの知識を刷り込まれていたが、その中には警察の捜査活動はあるはずもなかった。たとえあったとしても今の二人には机上の空論と笑われるだけだ。カウラはただ黙っていらだつ二人が暴走しないかどうか監視するほかに手はなかった。
「でも、なんだか引っかかるんだよな……」
相変わらずかなめは冴えない表情で画面を見つめていた。豊川市の主要道路を走る警邏隊のパトカーの位置が彼女の画面の正面で展開していた。何度とないかなめのため息に誠もカウラもうんざりしたような表情を浮かべていた。
「引っかかるも何も……これ以外に方法があるなら教えてくれ」
さすがに頭にきたカウラは手を後ろに纏めたエメラルドグリーンの髪に持っていくとそうつぶやいた。かなめはそれを見て呆然と顔を上げた。その目にはこういう時らしく生気が無かった。
「アタシ等の使っている計器。当然小売はしてないよな」
他に言うことが無いから言ってみたという軽口のつもりでかなめはそう言った。
「私に聞いてるの?」
アメリアが驚いたように目を見開いた。そしてしばらく考えた後ようやく口を開いた。
「当たり前じゃないの。東和きっての財閥、菱川グループの切り札よ。そう簡単に売れる代物じゃないわよ」
アメリアの回答に画面から目を離さずに満足げにかなめはうなずいた。そしてそのまま誠の顔を一瞥すると再び画面をモニターに向けた。
「法術関連の学会とかでは話題になっているのかな、このアストラルゲージとかは」
かなめの関心はアストラルゲージが量産されているかにあるようだと誠は思った。
「それは当然じゃないの……!」
かなめの質問に気づいたことがあるというようにアメリアが顔を上げる。その様子でカウラは大きくうなずいてかなめを見つめた。
「法術関係の研究をしている国の機関ならどこでも同程度の製品は作れる。そして事件を取り上げた新聞に目を通す程度の余裕のある東都の大使館や連絡事務所の武官を抱えている国なら……」
アメリアはかなめのつまらない一言から最悪の事態を想定していた。
「私達より先にターゲットにたどり着いてもおかしくないな」
アメリアとカウラ。二人の言葉に誠はようやく結論を知ることになった。
「それじゃあ……急がないと」
誠が立ち上がりかけたところでアメリアがそれを制した。
「だからこれが一番早い方法なの!焦っても仕方ないわよ」
半分やけになってアメリアはそう言い放つと椅子の上で伸びをした。
「クラウゼ中佐……」
泣き顔で誠はアメリアに目をやるがアメリアはかまうつもりは無いというようにそのまま画面に目をやっていた。
「後は天運だけだ。我々が犯人にたどり着くか、それとも法術師の戦力化を狙う地球圏の国々が犯人にたどり着くか……」
カウラもまた誠をフォローするつもりは無いと言うように画面を眺めながら冷えたコーヒーを啜っていた。
「いっそのことその人斬りとやらがこの犯人を見つけ出してぶった斬ってくれれば話が早ええのにな。どうせこいつは不死人じゃねえんだろ?斬られて死んでくれれば何もかもなかったことになる」
半分やけ気味にかなめはそうつぶやくと下品な笑みを浮かべた。
「不謹慎なことを言うわね、かなめちゃんは」
アメリアがかなめの暴言にぽつりとつぶやいた。しかし誰も本気で反論する気はない。
「でも警邏隊の人達の忍耐には感服しますね。これだけ何もなくても順路を着実に循環してる……警察に入らなくって本当に良かったな」
すでに二日目で誠達は警察官僚の忍耐強さに感服させられていた。それを素直に口に出しただけなのに誠はかなめから殺気のあふれた視線で睨まれた。
「まあ待ちましょう。他に方法は無いもの」
アメリアはそう言いながら手持ちの端末で乙女ゲームを再開した。