第126話 便利な最新機材とその登場の不自然さ
「でもアストラルパターンデータ。便利ですよねえ。こうして事務所で座っているだけで良いんだもの。戸別訪問に比べたららくちんで」
突然のアメリアの言葉に視線が彼女に集中した。
「だってそうじゃないの。確かに法術の研究は誠ちゃんが全世界的に存在を示しちゃった『近藤事件』の前から進んでたけど……それにしてもなんだかどんどん対応製品が出てきて……恐くならない?」
アメリアの言葉に一同はうなずいた。まるで『近藤事件』が起きることを予期していたかのように法術に対する研究成果が次々と発表されている事態は、法術は明らかにその存在が隠されていただけで皆が知っていた公然の秘密であったことを一堂に思い知らさせた。
「まあな。その筋の専門家は……うちじゃあひよこ軍曹殿だが……。実際法術研究はどこまで進んでるのか表にまるで出てこないからな。あいつも実際どれくらい自分が知っているのかなんて絶対に言わないからな……そんなに秘密ばっかり抱えてるからへんちくりんなポエムしか書けねえんだよ。仲間だろ?もっと腹を割って話し合おうや」
アメリアに言ったかなめの言葉の中のひよこのことを思い出して誠が噴出した。だがひよこが法術に関する専門家だと知ったのは『近藤事件』での甲武海軍の演習空域で誠が貴族主義者の近藤中佐貴下の部隊と衝突した後の話だったことを思い出した。それまではただの看護師だとかなめ達も教えられていたとことの後で聞かされた。それほど法術の存在は丁寧に隠蔽されてきたものだった。
一度気になり出すとどこまででも疑問が膨らんだ。
「やっぱりどこまで研究が進んでるのか……気になるな」
エメラルドグリーンのポニーテールの毛先を弄っていたカウラが目があった誠につぶやいた。
「あら、カウラちゃんもそういうこと気になるわけ?意外と『研究が進んでるんだから良いじゃないか』とか言い出しそうなのに」
アメリアは冷やかし半分にそんなことを口にした。
「そうでもないさ。私だって想像の範疇を超えた力が存在してその力がどのように使用されるか分からないと言うのは不気味に感じるものさ」
画面から目を離さずに仕事をしているカウラの姿はこの前連れていかれたパチンコの台を前にしてのカウラそのものだと誠は思っていた。
「ふーん」
カウラの言葉に納得してみせたアメリアの視線は自然と誠を向いた。
「僕だってこんな力は知ったのは例の事件の直前ですよ。普通の人は誰も知らなかったんじゃないですか?あんな力」
法術を公式に初めて使ったという自負も込めて誠はそう言った。
「アタシは知ってたっすよ」
モニターに目を向けたままラーナは手を上げた。その突然の行動にかなめが立ち上がる。
「どこでこいつが法術使いだって……」
かなめは『特殊な部隊』の隊員しか知らないはずの部外者のラーナが知っていたのか不思議に思っていた。
「一応トップシークレットっすから。それこそ業務上の秘密って奴です……へへへ」
そうすげなく言ってラーナは端末のキーボードを叩く作業を再開した。
「けっ!つまらねえな」
ラーナの事務的な反応に舌打ちをしたかなめを見て笑みを浮かべるアメリアだが、その目は笑っていなかった。
「ラーナちゃんが知っていたってことは……その筋の人の間では誠ちゃんて有名人だったの?」
アメリアも驚いた様子でラーナに向って訪ねた。
「さあ……アタシは一巡査ですから。他の部署の事はなんとも……」
またラーナはとぼけてみせた。相手を読めるアメリアは何を聞いても無駄だと思ってそのまま黙り込んで席に体を押し付けた。
「僕の力の話はここですることじゃ……」
誠の言葉に不思議そうな顔をするかなめがいた。面倒くさそうに一度視線を外した後ため息をついた。
「ここまでの話の流れと事件の容疑者の能力で分からないか」
カウラのその言葉を聞いてようやく誠は結論に行き着いた。
「僕を外すと言うことですか」
ある程度は誠にも分かる話だった。相手は法術師の能力を奪って暴走させることで世間に何かを伝えたいと思っている愉快犯であることが想像できる。ならばその法術師の再発見のきっかけを作った誠の能力を暴走させることが犯人の最大の喜びにつながるだろうことも想像できた。