第125話 協力体制の不備
相変わらず暖房の効きが悪い豊川署の用具入れだった詰め所に彼等はいた。じっとしていることが性に合わないかなめがうろうろと歩き回っていた。
「どうだい」
十分に一度のペースの話だった。かなめはそう言うとラーナがじっと見つめているモニターをのぞき込んでいた。そこには警邏隊のアストラルデータの値がグラフで表示されていた。
「そう簡単に見つかれば楽できるんすけどね。演操術系のアストラルパターンは隠そうと思えば簡単に隠せるんっすよ。だから何度も同じ巡回ルートで何度も接触して、犯人が油断しているところを見つけるしか無いんっす」
そう言うとラーナは椅子の背もたれに体を預けた。軋む椅子。その音に驚いたようにラーナは背筋を伸ばした。
「ある程度絞り込めれば後は私達でもどうにかなるだろう。いや、正確につかめない方がいいな。素人の警察の連中でも分かるデータが出てしまえばこれまでの怒りの持って行き場が無いからな」
さすがのカウラもこれまでの警察のやり方には腹に据えかねるものがあったのだろう。そんな珍しい感情的な言葉にアメリアもうなずいた。いつもなら合いの手を入れる彼女が浮かない顔で黙っているのを見て、誠はアメリアのモニターを見た。そこではネットオークションで同人漫画を落とそうとしているらしい様子が見て取れた。いつものことだ。誠は大きくため息をついてつまらなそうに画面を終了するアメリアを見つめていた。
「すべては運任せ、天任せ、他人任せってのは……どうもねえ。しかもその他人に手柄を取られるのはどうしても避けたいとなるとこれもまた……こりゃあ退屈カツ面倒なお仕事になりそうだわ」
そんなかなめの言葉に全員が同意するような雰囲気をかもし出していた。誰もが部屋に閉じ込められてこうしてデータだけを与えられる情況に飽きてきていた。
「あと定時まで30分か……今日は帰りに月島屋を冷やかすか?」
冗談めかしてかなめはそう言って周りを見回した。
「それはいいんだけど……よかったのかしら。支給されたショットガンをみんな隊に送っちゃって。確かに慣らしも済んでいない銃じゃあ使えないのはわかるんだけど……でも後でチェックされたらどうするの?」
アメリアの言葉にカウラとラーナの視線がかなめに向かった。かなめは面倒くさそうに椅子に腰掛けると端末を起動していた。
「犯人に逃げられたら終りだろ?良いんだよ。名人は道具も選ぶもんさ」
かなめは気軽にそう答えた。
「誠ちゃんも名人に入れる訳?誠ちゃんも?なんで?」
冷やかすようなアメリアの声に誠はかなめに目を向けた。かなめは一瞥した後大きくため息をついた。
「そんな……僕だって多少は射撃も上手くなったんですよ!最近は拳銃なら25メートルの的は外さないし、ライフルだって100メートルぐらいならマンターゲットに当たるようになったんですから!」
射撃下手の自覚は有るものの数をこなすことで誠のその短所も何とか見られるものにはなっていた。
「多少はな……だかそれじゃあ本番にはどうなるかわからねえ」
相変わらず誠をからかう調子のかなめ。誠にも多少は意地があるむっとしてタレ目のかなめをにらみ付けた。
「そんなに気になるなら……西園寺。突入の時は神前と組んだらどうだ?下手な神前のカバーは貴様がすればいい。射撃は生身を遥かに超えるスペックを持ってるんだろ?それが自慢ならそれを活かせばいいだけの話だ」
カウラの冗談にかなめはいかにも面倒くさそうな表情を浮かべた。その顔を見て誠はいつもどおり落ち込んだ。
「それもこれも……ちゃんと犯人が見つかってからの話っすからね」
相変わらずラーナは画面に張り付いたまま手にしたせんべいを口に放り込んでいた。