第124話 部下達の成長を待つ辛さ
「機動部隊副長としては感無量なんじゃなくて?最近の神前さん達の活躍。ラーナから聞いてますわよ。あの人達も本格的に『特殊な部隊』の暴力馬鹿じゃなくて『有能な司法執行機関員』に生まれ変わろうとしている……歓迎すべきことなんでは無くて?」
茜は余裕のある笑みを浮かべてランに尋ねた。
「まあな。あいつ等も多少は使えるようになってきたわけだ。予定ではあと数か月前にこの状態になっててくれると楽だったんだがな」
思わずランの頬に笑みが浮かんだ。それを見て茜もうれしそうな表情を作った。
「さて、これからどう事件を纏めるか……期待してるぜ」
ランはそう言うと立ち上がった。
「あら、クバルカ中佐。何か急ぎの用でも」
デザートを前にして席を立つランに茜は驚いたように声をかけた。ランは頭を掻きながら面倒くさそうに点を見上げた後、茜の顔を見据えて笑った。
「いやあ、実はこれから古巣の東和陸軍の教導隊の連中と打ち合わせだよ。アタシの後任の教導隊長の指導が甘いとか言うことで東和陸軍のお偉いさんにどやされに行くところだ。アタシの教育方針は今でもそうだがぶっ叩いて育てるって言う方針だからな。最近のもやしっ子に色目を使う今の教官じゃ使い物になるパイロットが育たないんだと。どこでもそうだがまったく面倒な話さ、人を育てるってのはよ」
らしくないと言うように肩をすぼめた。
「本当にお互い人を育てるのは大変ですわね」
茜はそう言うとデザートのアイスクリームを口に運んだ。
「まあ気長にやるさ……事態は気長には待ってくれねーがこればっかりはどーしよーもねー話だ」
ランはそのまま周囲の関心を引きながら手にしたコートを纏めて持ってそのまま食堂から出て行った。
そんなどこかはかなげな少女を茜はほほえみで見送っていた。
「できれば人斬りと今回の事件が無縁でありますように」
茜はそんな独り言を残してアイスクリームを半分ほど残したまま立ち上がりそのままランの後を追って行った。