第123話 頼りにならない噂話
「奴等もかなり本質に近づいてきたみてーで……ひと安心だよ」
それは見た目がどう見ても7,8歳の小柄な少女が言う言葉では無かった。ただし彼女の着ているのは同盟司法局と同型の制服。その襟章に中佐の階級章と胸にいくつもの特技章を見れば軍の人間なら彼女がただの少女ではないことはすぐに分かるはずだった。
特にそんな勲章の中でも今は無き遼南共和国十字騎士章の略章のダイヤモンドが光っているのは誰もが目にするところだった。その勲章の受章者はたった一人。共和国のエース、クバルカ・ラン中佐本人以外にそれを付けて許される人物はいない。
「クバルカ中佐。こちらこそラーナにはいい徹強をさせていただいておりますわ。感謝しなければならないのはこちらの方かも知れません。法術専門の捜査官が急に増えることは考えられませんもの、ああ言った捜査指導はこれからのラーナには必須になりますから」
こちらは東都警察と同じ制服。襟の階級章は警部。ここが東都の遼州同盟司法局ビルの最上階の食堂のラウンジでなければ誰かが声をかけるだろうというようなヨーロッパ系の美貌の持主だった。そんな警部、嵯峨茜はゆっくりとコーヒーを啜った。
ふと気が向いたように茜が街を眺めた。昼下がりの東都の街並み。二千万人という人がうごめく街は地平線の果てまで続いていた。ランもまた和やかな表情で街並みに目を遣った。
「話は変わるが……それにしても例の辻斬り。やっぱり見つからねーか。うまく隠れているもんだな。まあ、こんなに広い街だ。すぐに見つかる方がどうかしてる」
ビルの続く東和共和国の首都の街を二人は眺めた。ビルと道路とそこにあふれる車と人。ランの故郷である遼南の低い建物が続く街並みに比べて明らかに無機質で複雑に見えた。
「確かに人が隠れるには街が一番ですものね。それにしても辻斬りなんていう古風な犯罪。できる人物が限られていると言うのに……。司法局の上層部はこんなイカレタ人間一人見つけられないのかと、私達を無能と思っているかも知れませんわね」
茜は長い髪を静かに掻きあげると再びおさげ髪の少女に目を向けた。ランは見た目とは違ってまるで自分より年下の子供を心配するような視線で茜を見上げていた。
「そんな自分を責めるんじゃねーぞ。あの化け物……桐野孫四郎か。簡単に捕まるなら司法局の出るまでもなく所轄の連中が誇らしげに連れてきているはずだろ。しばらくは我慢するしかねーよ。それにこの一月被害者が出てねーんだ。これも茜の手柄と言っていーんじゃねーのか?」
乱暴だが余裕のある言葉遣い。それが見た目は子供でもこの人物がいくつもの経験をつんだ古強者であることを証明しているように見えた。
ランは静かにコーヒーのカップを置くと平らな胸のポケットから端末を取り出して画像を表示した。
「オメーの指示であいつ等がようやく捜査に区切りをつけたらしいや」
表示された立体映像には十五人の容疑者の映像が映し出された。満足げにランと茜がうなずいた。