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第122話 オレンジのショットガン

 杉田の視線は興味深い機械に向けられていた。ただ黙り込み、じっと考えを巡らす老刑事にとってアメリアの提案は呑めないものでは無い。それでもそんなに簡単に十五人から一人の犯人を特定できる装置が開発されていたなどと言う寝耳に水の話を信用していいのかどうか。


 沈黙は長く、永遠に続くかに思えた。そしてその一つを手に取るとようやく心を決めたというように杉田は立ち上がった。


「それでは警邏の担当者と話を詰めますので……この機材は……持って行ってもいいんですか?」


 杉田は興味深げに機械を見つめながらアメリアに尋ねた。 


「すべてお持ちいただいてもよろしいですよ……なんでしたら運びましょうか?警邏課まで」 


 アメリアの表情にはいつものアルカイックスマイルが浮かんでいた。


「いえいえ……警邏課の若いのを呼んで運ばせます」 


 アメリアのサービス精神に杉田はきびすを返すとそのまま部屋を出て行った。先ほどまでイライラを溜め込んだ表情をしていたかなめがにんまりとタレ目をさらに酷くしていた。


「なに?その顔」 


 歪んだ笑みを浮かべるかなめを見てアメリアは不機嫌そうにそうつぶやいた。


「いいじゃねえか……それにしてもオメエにしてはよくやった。愉快痛快って奴だ」 


 かなめとアメリア。二人ともニヤニヤしながら席に戻った。カウラは何とか乗り切ったと言うように慣れない東和警察の襟の形を気にしながら席に戻った。


「これで一段落……と言うかしばらくはすることがなくなるわね。これからはあのアストラルゲージがいつ反応するかをこの部屋の端末で見てるだけ……退屈でしょ?かなめちゃんは特に」


 アメリアはかなめを挑発するようにそう言った。 


「そうか?いきなりドカンと本命にぶち当たるかもしれねえぞ。それにしてもこの機械……本当に使えるのか?」


 かなめはあまりに話が上手く行きすぎているというような顔で機械を眺めていた。


「さあ……」 


 首をひねるアメリアにかなめは呆れた表情を浮かべていた。


「使えるかどうか分からない機械で何する気だ?」 


 思わず叫んだかなめの肩をアメリアが叩いた。


「いい?かなめちゃん。相手は今回これまでのいたずら以上のことをやってのけた。違う?」 


 アメリアの表情がふざけたものから真剣なものに一瞬で変わった。


「まあな。人が一人死んだんだ」


 しぶしぶかなめはそう言った。

 

「じゃあこれまで以上に警戒感が強くなってるわよね。当然身を守るべく法術を発動する可能性は高くなる。これも理解できる?」


 子供をなだめすかすような調子のアメリアの言葉。かなめも筋は通っているアメリアにはうなずくしかなかった。 


「そんなハリネズミのような心を武装した法術師が能力をビンビンに発揮して歩き回るところを地道な市民との協力関係を築いている豊川警察署の皆さんの情報網を使って目星を付ける。折角お世話になってるんだから県警を少しはあてにしましょうよ。そして十分な事前調査をした後には……あれの出番が来るかもしれないしね」 


 そう言って先ほどの箱の隣の黒いケースを指差すアメリア。そしてその姿から誠も中身が大体想像がついた。


「ショットガンですか?例の変な弾を撃ちだす」


 誠はかえでのセクハラを思い出しつつそう言った。 


「そう、それよ。低殺傷性のね」 


 誠の質問にあっさり答えるアメリアを見るとすばやくかなめが立ち上がった。慣れた調子でその一番上のケースを運んできてテーブルの上でふたを開いた。


「相変わらず派手な色ね。警察のも」 


 その蛍光オレンジで染め上げられたショットガンにアメリアは苦笑いを浮かべた。


「実弾入りと区別がつかないとどこでも困るんだよ。元々低圧の制圧弾やゴム弾を使用するんだ。実弾入りのショットガンと同じ色だと最悪バレルが破裂なんてことにもなりかねないからな」 


 そう言うとかなめはショットガンを取り出しすばやくそのフォアエンドを握り締めて引いた。かなめの顔が何か引っかかるようなことがあるというように曇った。そしてそのまま同じ動作を何度か繰り返してから銃をまじまじと見つめていた。


「弾はここの装備課からの支給になるな」 


 カウラの一言に手にしていた銃を抱えるとかなめは明らかに不満そうな顔をしていた。


「弾も警察持ちか?信用できるのかよ。弾のトラブルでバレルが破裂なんて洒落にならねえぞ」 


 かなめの言葉にカウラも複雑な表情を浮かべた。


「一応これも東都警察の借り物だ。違う系統の弾丸の使用許可など絶対に出ないだろうな。県警にも面子と言うものがある」 


 そう言うカウラを無視してかなめは銃を構える振りをした。その表情は冴えなかった。


「確かに技術部の連中の選んだ弾なら信用できるけど……元々こういう非殺傷銃器の扱いなんて素人の東都警察の下っ端のこの署の銃器担当者の選んだ弾でしょ?いざと言う時不発で泣くのは私達だからねえ……」 


 アメリアの表情も冴えなかった。誠はわけも分からず目の前に置かれたオレンジ色の塗装が施されたショットガンを眺めていた。


「そんなにトラブルとかが多いんですか?低殺傷性の銃弾って……」


 銃については軍人失格の誠にはそう言う事しか出来なかった。 


「オメエははじめはリムファイアの22LRのグロッグを使ってたからな。遅発、暴発当たり前のあれよりはましだと思うが……」 


 かなめはショットガンをテーブルに置くとそのまま座って分解を始めた。


「元々低圧力の稼動ということで調整されているはずだけど……場所によってはただ色を塗っただけのを支給しているところもあるのよ。そう言うのでセミオートで撃てばバレルの破裂は大げさとしてもガス圧が安定しなくて……」 


 アメリアはまるっきり銃を信用していないというようにそう言った。


「排莢不良ですか?それとも……不発?」 


 ただでさえ射撃にアレルギーのある誠には銃の誤作動などもってのほかだった。


「両方だね。銃で問題になるような出来事はいくらでも起きうる。うちのメンテナンススキルは伊達じゃないんだ。お前さんのグロッグもモーゼルパラベラムも気難しい銃のわりにしっかり動いてるだろ?奴はその程度のことはやってのけるのさ」 


 珍しく人を褒めるかなめを見て誠は小火器担当の下士官のごつい顔を思い出していた。


「それじゃあ今回もうちに持ち帰って整備してもらうんですか?警察の銃器は信用できないですから」


 誠は射撃訓練すらろくにしていない県警の実情が分かってきていたのでそう尋ねた。 


「神前。そんなに気にするな。とりあえず手動で対応すれば不発はそのまま無視して排莢すれば問題ない。たしかにうちに持ち帰って動作確認くらいはした方が良いかもしれないがな」


 カウラはすっかり警察の銃器を信用する気は無いようだった。 


「カウラ。甘ちゃんだぞ。相手は必死の演操系法術師。どうなるかなんて読めないんだからな。こんなもんで足りるかどうか……県警も港湾施設警備や空港警備の機動隊はサブマシンガンを使ってるはずだ。そっちを借りるか?」 


 かなめの顔はいつもの残酷さを帯びたまま銃を解体していく。


「どう、かなめちゃん」 


 アメリアは銃器に関してだけはかなめの事を信用していた。


「油はちゃんと注してある……っていうかこいつは一回も撃ってないな。グリスに汚れがまるでねえ……しかも部品のエッジが立ってやがる。慣らしでもやらないとどうなるか分からねえぞ」 


 かなめは不安げに銃をなんどかドライファイアしながらそう言った。


「勘弁してよ……こいつをセミオートで撃ったら絶対トラブル起こすわよ」 


 あきれ果てたというようにアメリアは天を仰いだ。


「ならポンプアクションのみで対応しろ」


 カウラはどこまで行っても合理主義者だった。


「冷たいのね、カウラちゃんは」 


 アメリアはそう言うと自分の銃をまじまじと眺めた。


「犯人の特定は人任せ。特定できても獲物はこれ。できれば今回の犯人も本当に自首とかしてくれないかしら」 


 アメリアはそう言ってポケットから取り出した銃器用の携帯工具入れを取り出した。そしてそのままかなめが指でこじ開けた銃身の下にある弾倉部分を開きにかかった。


「そんなに簡単に話が済むなら警察はいらねえな」 


 警察官の制服を着ているかなめがつぶやくと誠から見てもかなり滑稽な光景に見えた。



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