第120話 恫喝するアメリア
「現在、私達同盟司法局でも他者の法術適正を発動させると言う今回のような能力を持った例を確認してはいません。我々にとってもまた今回の容疑者の能力はきわめて興味深いんです。それはどの組織にとっても同じことだと言うのが専門家の一致した見解です」
『専門家の一致した見解』と言うアメリアの言葉に鬼の形相だったかなめが思わず噴出しそうになった。単にここに座っている誠達と嵯峨の意見をそれらしく修飾した『専門家』と言う言葉。その意味を知って必死に笑いをこらえているかなめの姿がおかしくて誠は思わず噴出したが、冷酷そうに見えるアメリアの細い目ににらまれて誠はそのまま黙り込んだ。
「つまり……法術に関心を持つ組織が本当に実在するとして、彼等がこの十五人との接触を図ると言いたいんですね」
さすがにここまで言われて杉田は苦々しげに話しの序の口に当たる前提条件をようやく認めてみせた。彼も警察組織の一員である。法術師を研究対象として集めている組織が多数あることも杉田は知っているだろう。集める手段も多額の報酬を払っての自発的協力から誘拐まで様々あることも十分分かっているはずだった。
それでも治安の守護者である警察が勝手気ままにテロ組織や他国の工作員に自分の庭を荒らされている事実を、身内ではない司法局に認めるわけには行かない。そして組織人である杉田もまたその事実を自分の口から吐露することだけは避けたいというように表情をゆがめて座っていた。
「本当にそんな組織が実在するかどうかだって?認めたく無いのは警察だけだろ?」
また怒りがふつふつと煮えてきたのかかなめがつぶやいた。その言葉に杉田は不快感を隠そうとしなかった。カウラはかなめの肩に手を伸ばすがかなめは心配するなと言うようにそれをふりほどいた。
「別にそれらの組織に対する警察の内偵の実情まで知りたいわけではありませんから。それに警察お得意の別件逮捕や予防検束をお願いするつもりは無いですよ。人手を必要とするような戸別訪問も必要ありません。我々に与えられた時間は少ないですが……司法局は警察の面子をつぶすのが仕事ではありませんから」
アメリアの言葉に杉田は大きく安堵のため息をついた。それを見てまたかなめが噴出しそうになっているのが誠の腹筋を刺激した。




