第114話 特徴的な法術
「でも本当にそうなの?このデータ自体に問題が無いと言い切れるわけ?今回だって私達のところに演操術の存在が知らされるまでタイムラグがあったわよね」
アメリアの何気ない指摘に突然かなめの表情が変わった。彼女の言葉で味噌汁を飲んでいたカウラの顔色も変わる。
「能力演操のデータは少ないっす。それが同じ人物によるものかはなんとも……」
ラーナの言葉に全員が言葉を呑んだ。これまで同一犯と思っていた事件が複数による犯行なら……そう考えるとすべての捜査が無駄になるように思えてきた。誠達は黙り込む。この人数で事件解決することはできない。その結論が出ようとしているときだった。
『そりゃあねえな。自分の調べたデータだろ?もう少し自信を持てよ』
突然端末のスピーカーから聞こえてきたのは嵯峨の声だった。いつもの嵯峨の監視癖を思い出したが誠が周りを見渡せばかなめもアメリアもカウラも救われたような顔をしていた。
『島田から聞いたよ。演操術系の法術のデータなら今そちらに送ったぞ。これはかなり長期の研究の成果だからな信憑性が高いからな。まあこちらも証拠としては使えない某国の秘密実験データのコピーだから犯人の特定以外の役には立たないがな。つまり犯人を逮捕して自白させない限りこの事件は解決しないわけだ』
嵯峨の誠達を馬鹿にするような不敵な笑みを想像して誠は嫌な気分になった。
「叔父貴!アタシ等を踊らせて楽しいか!」
腹に据えかねたようにかなめが叫んだ。顔にこそ出さないがカウラもアメリアも同意見というようにラーナの端末に映る部隊指揮官の顔を睨み付ける。
『怖い顔するなって。お前等も俺やクバルカが支えてやらなきゃならねえほど餓鬼じゃねえだろ?自立してもらわねえと俺も困るんだよ……じゃあ期待してるから』
そして突然のように嵯峨の言葉が終わった。
誠にも意味は分かった。状況証拠が揃っても意味が無い。犯人を特定するだけでも無駄。すべては生きている犯人を逮捕して自白をさせ、それにあった承認や証拠を別にそろえなければ事件は解決しない。
「蜂の巣にはできないわけだな。結局は自白させなきゃ解決しないわけだから」
かなめは私服を着ても懐に下げている愛銃を叩いた。その滑稽な動きにカウラが微笑む。
「そう言う事っす。多少の捜査の工夫が必要になると言うこって……ちょっとこのデータを嵯峨茜警部に送りたいんすけど……」
遠慮がちなラーナの言葉にかなめとカウラが大きくうなずいた。ラーナはそれを見ると再び端末にかじりついた。
「茜のお嬢さんの調査が終わるまで……時間が惜しいな。どうする」
かなめが周りを見渡した。すでに彼女の言葉が分かっているカウラとアメリアがうなずいた。
「とりあえず15人の現在の住所を確認。見つからない程度にその現状を観察していつでも調査結果に対応できるシミュレーションを行なう」
カウラの決断は早かった。
「カウラ。それだけわかってりゃ十分だ。神前。飯を食え」
かなめは満足げに握りこぶしを向けてきたカウラの右手に自分のこぶしをぶつけた。誠は一斉に出勤準備を始めた隊員達を後目に自分の朝食を取りに厨房の前のカウンターに向かって歩き出した。