第113話 『廃帝』の影
「地球圏の法術師スカウトキャラバンの連中は無視するとして……最近聞く……例の『廃帝』ですか?」
誠の言葉に一同は沈黙した。
法術の威力は明らかになればなるほど恐るべきものだと言うことが知れ渡ってきていた。各国の政府機関や軍がそれぞれに法術の研究を行っている。だが、そんな中、司法局に提供される資料の中で法術師の互助会的な組織の存在が指摘されることが増えてきていた。
政府機関関係者の間で『廃帝ハド』の組織はすでにタブロイド紙に目的不明のテロ行為を行う団体が存在すると言う記事を書かせるほどの活動を始めていた。
「『廃帝』だけだと思う?法術師を欲しがってるのはこの遼州圏内でも五万といるのよ。そのくらいのこと忘れた訳じゃないでしょうね?」
いかにも含むところがあるというようにアメリアのつぶやいた。彼女も直接は口にはしないが地球諸国や外惑星のネオナチ組織、さらに以前の同盟厚生局のように同盟組織内部でもこの事件の主犯の力に関心を持っているのは間違いない事実だ。そう思うと誠はこの事件の捜査が極めてデリケートに行われなければならないと言う事実を痛感した。
「つまりだ。アタシ等の仕事はこの15人の全員の身柄を安全に保ちつつ、その中でこの前のアストラルパターンを持った人間を特定して生きたまま逮捕することだ。分かるだろ?」
かなめの言葉に誠はつばを飲み込む。要人略取や暗殺を主任務とする甲武陸軍特殊部隊出身のかなめにそう言われるとさらに事件の解決へのハードルが上がるような気分になる。
「この人数で15人を……無理じゃないですか?」
誠にもどうやってそんな離れ業をやってのけるのかという疑問が沸き上がった。
「無理だろうが何だろうがやるしかないの。わかる?」
アメリアはそう言いながら味噌汁をすすった。それにうなずきつつカウラはおかずの鰯を口に咥えていた。見た目は緊張感の無い光景だが、周りの隊員はすべて誠達の話を聞きながらいつでも捜査協力に立候補するようなそぶりを見せているのが誠にもわかった。
「とりあえず測定可能な場所まで近づくのが一番だろうな。今回の違法法術行使はすべて同一犯の犯行と言うことはアストラルパターンデータで分かったんだから」
茶碗の中の茶を飲み終えたかなめは覚悟を決めたようだった。




