第112話 多すぎる調査対象
「それでもまだ人数が多すぎるんですね」
手にした冊子を手渡そうとするカウラを制して、ラーナは端末の画像を誠にも見えるようにしてみせた。そこには15人の男女の写真と経歴が並んでいるのが見えた。
「この全員に『警察のものですが……失礼ですが任意検査になりますがアストラルパターンデータの計測をお願いできますか?』と言って回るわけか……殴られるぞマジで」
かなめの言葉が食堂にむなしく響いた。そしてアメリアがため息をついた。
「でも……任意の調査でお願いすることは……」
誠の一言に全員の生暖かい視線が誠に向けられた。
「おい、この元となる資料。もしホシを検挙して証拠に使うつもりか?どれも技術部の情報将校共の違法なアクセスで見つかった資料だ。証拠どころかアタシ等が大悪人に仕立て上げられて終わりだよ」
かなめの言葉にはある種の諦めのようなものがあった。
「さすがの西園寺もそのくらいは分かるんだな」
カウラも容疑者を絞り切れなかったことに不満があるようで、いつもの鉄面皮を晒したままデータに目を通した。
「そのくらいって何だよ」
カウラとかなめがにらみ合っていた。誠もようやくこの15人を一人に絞り込むことの難しさに納得した。
「じゃあ……全員の行動を」
誠が立ち上がりかけたところでアメリアがそれを遮った。
「だから!誠ちゃん。なぜこの15人なのかを知られたら拙いわけよ。それに下手をすれば私達の行動を嗅ぎつけて他の組織が動き出しているかもしれないしね。誠ちゃんもいつも誠ちゃんを地球圏の連中が嗅ぎまわってるの忘れたわけじゃ無いでしょ?」
アメリアの言葉に場の空気が不意に冷えてきたのを誠は感じていた。先ほどは完全にかなめに拒否されて島田はへそを曲げていた。彼も『他の組織』という言葉を聞くと、箸を止めてしばらく考え事をするようにテーブルに茶碗を置いてこちらの様子をうかがっていた。
「それはあるかもな」
かなめはそう言うとほとんど食べ終わっていた茶碗に湯飲みの番茶を注いだ。食事を終えようとする彼女を見ても誠に食欲はわいてこない。極めて嫌な予感がその原因であることは誠にもわかっていた。




