第110話 毎朝の恒例行事
軽い打撃音が何もない意識の中で大きくなるのを感じていた。それが次第に具体性を帯び、そしてそれが寝ている自分の部屋を叩いている音だと気づいた。そんな中、誠は目を覚ましていた。
「なんだよ……」
相変わらず寮の誠の部屋のドアを叩く音は続いている。だがすぐにそれがカウラが誠を起こそうとしているのだと直感した。誠も半年近くあの三人と暮らしていればかなめやアメリアならこういうときは怒鳴り込んできているはずだと言うことくらいわかっている。
「すみません……ちょっと待って……」
そう言って布団を払いのけて立ち上がったところでドアが勝手に開いた。
「のんびりしやがって……」
呆然と立ち尽くすカウラの隣のかなめが怒鳴りつけてきた。誠もいつものことながら憮然とした表情でかなめを見つめていた。すでに二人とも出勤前の身支度は済んだという感じで、パジャマ姿の誠を見下すような感じで見つめていた。
「……技術部の情報将校の皆さんの調査が終わったんですか?」
誠はまだ半分眠っている頭に浮かんだ言葉を口に出してみた。二人とも顔を見合わせて大きなため息をついた。
「まあ、そんなところだ。とっとと着替えて食堂に来い」
かなめはそれだけ言うと立ち去った。カウラは黙ってそのまま立ち尽くしていた。ようやく布団の上にあぐらを掻いた誠の間に気まずい雰囲気が漂った。体がまだ睡眠の余韻に浸って言うことをきかない誠は何とか立ち上がろうとした。
「まあいい、ちゃんと起きてから食堂に来い。それに……そのパジャマ。ちゃんと洗濯しろ。臭いぞ」
それだけ言い残しカウラは食堂へと消えていった。
「ドアぐらい閉めてくれても……洗濯か……寮備え付けのコインランドリーは西園寺さん達が来てから多少マシになったけど古くて良く止まるんだよな……面倒だな」
誠は直感でそのままドアに伸ばした手を止めた。すぐにその手は何物かに強く握られている。
「クラウゼ少佐……」
ドアの影のアメリアの紺色の長い髪に誠はため息混じりにそう口を開いていた。
「びっくりした?」
アメリアはいかにも嬉しそうにそう言った。
「いえ、慣れましたから」
アメリアのこんないたずらはいつもの事なので誠は完全にスルーすることに決めていた。
「そうつまらないのね」
誠の手を離してアメリアはそのまま消えていった。誠は仕方なくそのまま戸を閉じると着替えることにした。とりあえず黒い量販店で値段だけを見て買ったパジャマを脱いで美少女戦隊モノのTシャツに袖を通した。
「はあ……情報将校さんの検索結果か……」
ため息をつくと今度はジーンズに足を通した。そのまま寒さに耐え切れずにセーターに袖を通した。一月も終わり。地球と同じだと言う公転周期を持つ遼州の日差しもなぜか冷たかった。