第106話 ついに訪れた状況
「ついに死人か……意外と早かったな」
突然の着信があった通信端末をのぞき込んでいたかなめの顔が緊張した。
司法局実働部隊豊川基地。そのコンピュータルームに着いた誠達はそのニュースに眉をひそめた。
「いつかは出ると思っていたけど……かなめちゃんが言うように本当に早かったわね……日々あの法術師の攻撃性は強まってる……」
アメリアは最悪の状況をまるで予想していたかのように平然と受け入れていた。
「クラウゼ、そういう問題じゃないだろ。それじゃあ……西園寺。そのまま普通に東都警察警備部機動隊第三中隊にアクセスしろ」
アメリアの緩んだ笑いもカウラの緊張した言葉に吹き飛んだ。ラーナと誠が見守る中、かなめはそのまま端末の前に腰掛けると首筋のジャックにコードを挿して端末を起動させた。
「普通にそのままログインすればいいんだな?」
かなめの目の前で端末の画面は生身の人間には判読できない速度で展開していく。
「安心しろ、エルマも今日は非番だと聞いているが本庁のサーバーに張り付いていてくれているはずだ。多少はサポートしてくれる」
そんなカウラの言葉にかなめはにやけた笑みを浮かべた。その目の前の端末がとても追えない速度で切り替わり始めた。
「機動隊……第三中隊っと」
かなめのつぶやきと同時に飾り気の無い画面が映し出された。青い地に数字と枠。この画面について知識のない人間の入力を拒むかのような画面だが、かなめにとっては慣れたものだった。
「そのまま右下の空欄に……」
かなめはここで初めてキーボードに手をかけた。
「8954356か?アタシでもパスワードが拾えるんだからかなり楽勝なんだな」
慣れた手つきでかなめはパスワードを入力した。
「そう言いながら枝は残さないでよ。見つかったらそれこそ私達全員諭旨解雇よ」
アメリアに茶化されたのも気にせずかなめは本庁の資料室にアクセスした。
「法術系の……アストラルゲージ……とりあえず配置でもみてみるか?」
かなめはそう言うと相変わらずの無愛想な画面にキーワードを入力していく。画面が急に地図と言う個性を持つとようやく誠も安心できた。
「ずいぶんと数だけはあるのね……半年でこれだけ配置するなんて準備がいいこと」
東都と関東一円を示した地図には満遍なく設置されたアストラルゲージの位置が示しだされた。それはほとんど一つの町内に一個と言う数のものだった。確かに準備が良すぎるが誠達は警察もまた法術の存在を隠蔽してきた組織の一つだと思って納得していた。
「これだけ設置して犯人が捕まらないのか?職務怠慢だろ、警察は」
かなめは東都警察の無能を嗤った。
「法術適正がある人が通ればある程度反応しますから。同じパターンのすり合わせなどの技術は同盟司法局も千要県警には教えてないっすから……」
黙って様子を見守っていたラーナは専門捜査官らしく警察の現状を語った。
「縦割り行政の弊害って奴か?少しはサービスしてやれよ。一地方公務員相手とは言え東都警察との待遇の差は後々問題になるぞ」
ラーナの言葉にかなめは苦笑いを浮かべる。彼女はそのままこれまで演操術による法術暴走が起きた場所近くのアストラルゲージを指定していった。
「とりあえずパターンが読めれば何とかなるか?」
素早くすべての指定を終えるとかなめはパターン検索の指示を出した
「かなりノイズがあるんじゃないのか?」
ラーナもまた手元の司法局のデータベースにつながる端末で照合を行なっていた。証拠になるのは昨日の殺人と変わった法術暴走事件の現場で取れたアストラルパターンデータ。そこで採取されたアストラルパターンデータはすでに法術を乗っ取られた掃除のおばさんの空間干渉能力発動の時に発生した波動を取り去ったものがすでに採取済みだった。
かなめの操作していた画面にそれぞれの事件当時のアストラルパターンデータが表示される。まるで共通点のないグラフの波にかなめは顔をしかめた。
「こりゃ……共通項を見つけるのはかなりの手間だぞ」
ラーナももう少しそれぞれが似た波形をしていると思っていたようで難しい表情で再び自分の端末に視線を落とした。