第105話 軽犯罪者から殺人者への転落
「見てごらんよ。オジサンが能力暴走で腕を切り落とした大学生。死んじゃったよ。これでオジサンは軽犯罪者から殺人者へ格上げだ……今の気分はどう?最高かい?」
少年の言葉に水島は彼の端末も開いた。しかしそのような情報は何度検索しても出てこない。
「警察の発表はまだだからね。こう見えても僕の使ってる合衆国のネットは一応網羅している範囲が広いんだ。担当の警察官に直接指示を出せるレベルにも親切に情報を送ってくれる人がいるからちょっと検索すればすぐ結果が出てくるんだ。便利でしょ?」
淡々と少年は語った。水島は少しばかり諦めたように肩を落として少年の端末に移る箇条書きの被害者の死を知らせる文書を眺めていた。
「まあ僕は……と言うか僕達はすごく心が広いんだ」
少年はそう言うと立ち上がる。水島は被害者の死と言う事実に困惑したまままだ立ち上がれずにいた。
「オジサンのような犯罪者でも役に立つ場所がある。いいことだと思うよ。でもね。時間と言うものは有限だから。それに僕達もそれほど気が長くは無いんだ」
少年の目の前にあの女性が作り出したのよりも遥かにはっきりとした銀色の板が現れる。水島は何もできずにそれに手を伸ばす少年を眺めていた。
板の中に少年の腕が引き込まれた。あの死んだ青年のように千切れるわけも無く少年はにこやかな笑みを浮かべたまま水島を見つめていた。
「ゆっくり考えて結論をね。よろしく。まあ他に選択肢はないだろうけど。いずれ警察か司法局がオジサンの能力に気付いてここを尋ねてくるだろう。たぶん司法局の方が先じゃないかな。あそこの実働部隊は最初に魔法をこの世界に知らしめた連中だ。舐めない方が良いよ。彼等は『特殊な部隊』とか呼ばれているくらい危ない連中だから怪我くらいすることになるかも知れない」
少年はそのまま銀色の板の中に飲み込まれた。そして彼のジャンバーが飲み込まれると同時に銀色の板も当然のように蒸発した。
水島はただ自分がとてつもない出来事に巻き込まれたことを理解していた。そしてそのきっかけを作ったのも自分自身だと気付いて力が抜けていくのを感じていた。