第101話 腹が減ってはなんとやら
「あ……」
よく見ればかなめの一撃を受けたのは部隊最年少の整備班員の西高志兵長だった。出勤時間間際。食事を終えて安心しきっていたところへの一撃に思わず西はうずくまった。
「ごめんね……馬鹿が暴れて」
アメリアの謝罪にはまるで誠意の感じられない。
「ええ、大丈夫です……鼻血も出ていないみたいですし」
西は顔を抑えながらもなんとか自力で立ち上がった。鉄の規律と結束で知られる整備班員はその様子を見ながらもニヤニヤ笑って見せるだけ。まるで助ける様子も無い。そこには日ごろの西への整備班員の嫉妬があった。
部隊一の人気者、部隊付き看護師の神前ひよこ軍曹と彼が付き合っているのは公然の秘密だった。当然、嫉妬に狂う技術部員達は西を目の敵にしている。
「誰か助けてあげなさいよー」
そんな技術部員の感情をよく知っているアメリアの明らかに助ける気の無い言葉が響いた。
「べ……別に大丈夫ですから」
西はそう叫ぶとそのまま鼻を押さえて食堂を飛び出して行った。快かなとそれを見送る古参兵達をアメリアは白い目で眺めた。
「それじゃあ行くか!」
元気よく食堂を出て行こうとするかなめの肩をカウラが叩いた。
「後で西に謝って置けよ」
カウラは釘をさすようにかなめにそう言った。
「アタシは上官だぜ……面倒くせえ」
かなめがつぶやくようにそう言うとアメリアもカウラも呆れたような視線で見上げた。
「かなめちゃん謝りなさいよ。大人でしょ?」
そんなアメリアの一言にかなめの顔がゆがんだ。
「分かったよ……後で謝っておくから」
言い訳がましくかなめはそう言うと頭を掻いた。
「ちゃんと謝るのよ!これが隊内の話だから良いけど豊川署で同じことをしたらサーバとの連絡を切られる程度じゃすまないわよ」
アメリアはそう言うとそのまま立ち上がった。手にはどんぶり。誠も今度はアメリアの手を煩わせまいと自分のどんぶりを手に取った。
「行きましょ」
そのままどんぶりをカウンターに返すとそのままアメリアは出口へと向かった。
「そうだ、ラーナ。飯は食ったか?」
いつの間にか手に湯飲みを持ってくつろいでいたラーナにかなめが話題を振った。突然のことに戸惑うように視線を泳がせた後、静かにうなずいた。