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ジョアンナ・ヴァン・ヘルシング ――The Vampire Queen  作者: 青い水


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12/30

ロンドンに拠点を

これだけ仲間がいると役割分担を任せられるから作戦が楽になります。

 ロンドン、メイフェア。気鋭の事務弁護士ジョナサン・ハーカーは瀟洒な館の呼び鈴を押した。中から金髪の小柄な女性が現れた。


「こんにちは、オンブリー・ウェステンラさん、事務弁護士のジョナサン・ハーカーと申します。きょうは相続の件で伺いました。」ジョナサンは帽子を脱いで頭を下げた。

「こんにちは、ハーカーさん、今日はわざわざご足労いただきまして,ありがとうございます。どうぞお入りください。」オンブリーはジョナサンにソファを勧めた。

「ケンジントンの屋敷の件ですが、ウェステンラさんが第1相続人なのです。もし相続をご希望なさるのでしたら、ここにサインを頂くだけであとは私のほうですべてお手続きを済ませますのでご安心ください。」ジョナサンは書類を渡した。

「そのことなのですが、姉があんな目に遭った家ですので....」オンブリーは目を伏せた。

「ご売却を希望なさると?」

「はい…正直なところ、あの家を見るのも辛いのです。もし可能でしたら、すぐにでも売却してしまいたいと思っています。」オンブリーの声はわずかに震えていた。


 ジョナサンは彼女の心情を察し、穏やかな声で答えた。「承知いたしました。ウェステンラ様のご意向を尊重いたします。売却の手続きについても、私が責任をもって進めさせていただきますのでご安心ください。まずは、正式な相続手続きを完了させる必要があります。こちらの書類にサインをいただければ、私が管財人として、売却の手続きを進めることができます。」


 オンブリーはジョナサンの言葉に安堵した表情を浮かべ、書類に目を通し始めた。丁寧に内容を確認した後、彼女はサインをしたためた。


「ありがとうございます、ハーカーさん。あなたにお願いして本当によかったです。姉のことも、これで少しは気持ちの整理がつきそうです。」オンブリーはわずかに微笑んだ。


 ジョナサンは書類を受け取り、丁寧にファイルに収めた。「お役に立てて光栄です、ウェステンラ様。それでは、今後の手続きについてご説明いたします。まずは、相続登記を行い、正式にウェステンラ様がケンジントンの屋敷の所有者となる手続きを進めます。その後、不動産業者を選定し、売却の手続きに入ります。できるだけ早く、そしてウェステンラ様のご希望に沿えるよう、尽力いたします。」


「ありがとうございます。すべてお任せいたします。」オンブリーは深く頭を下げた。


「それでは、本日はこれで失礼いたします。進捗があり次第、改めてご連絡差し上げます。」ジョナサンは立ち上がり、丁寧に別れを告げた。



「金塊を駅留めにしておくわけにはいかないわね。」ジョアンナは顎に手を当てて考えている。「私たちはしばらくホテル住まいだとしても、金塊を運び込む倉庫が必要だわ。」

「ならば目立たない郊外が良いのでは?」ロンドンをよく知るバイロンが言った。

「パーフリートはどうでしょう?ここから約30km、エセックスです。」これまたロンドンをよく知るワイルドが提案した。

「あそこにはドラキュラを追い詰めた精神科医の病院があったわね。あまり関わりたくないわ、殺すとき以外は。」

「そんな経緯があったのですか。ならばパーフリートは却下しましょう。」


 彼女は再び地図に目を落とし、指でゆっくりと円を描いた。「もっと西の方角がいいかもしれないわ。テムズ川を遡って…そうね、チズウィックあたりはどうかしら?比較的落ち着いた住宅街で、大きな倉庫もいくつかあるはずよ。」


 バイロンは地図を覗き込み、「チズウィックなら、騒がしさもないですし、テムズ川を利用しての移動も可能です。倉庫を見つけるのも比較的容易かもしれません。」と同意した。


 ワイルドも「チズウィック…悪くない選択だと思います。美しい庭園も多く、隠れ家には最適かもしれませんね。もっとも、私たちの場合は倉庫ですが。」と付け加えた。


 ジョアンナは頷いた。「よし、軍資金の隠し場所はチズウィックにしましょう。カロリーヌとエイダ、あなたたちは今夜のうちにチズウィックへ飛び、倉庫をいくつか目星を付けてください。広さ、セキュリティ、周辺の状況…詳細な報告を頼みます。」


 二人はいつものように静かに頷き、コウモリの姿へと変わって夜の空へと飛び去った。


 翌朝、ホテルの1室に集まった一行は情報を共有し、行動予定を確認した。エイダはチズウィックへ行き、現地の不動産屋で目星を付けた倉庫を借り上げる。ワイルドは運送業者を見つけて、駅からチズウィックの倉庫まで荷物を運ぶ手配をすること。残りのメンバーはピカデリーの大規模な不動産を手分けして回って、新たな拠点となり得る物件を捜すこと。すべて日中の作業になるのでヴァンパイアの身には堪えるが、これらを午前中に済ませてホテルに戻り、カーテンを閉めて眠り体力を回復する。


「くれぐれも目立たず自然に行動するように。」ジョアンナは念を押した。「何もしていなくてもあなたたちは悪目立ちする外見なんだから。」そう言ってから笑顔で付け加えた。「美しいということですけどね。」


 エイダはチズウィックの不動産業者と交渉を始めた。「ある程度の広さがあって床が頑丈な倉庫で、防犯に適した場所にあるものが理想です。」エイダの慎重で理路整然とした指示に従い、不動産業者は次々と候補物件を提示した。その中で最も条件に合うものをエイダは選び、契約手続きに取り掛かった。


 一方、ワイルドはパディントン駅の周辺で何軒かの運送業者を訪ね歩いていた。丁寧で迅速な対応をしてくれそうな業者を見つけ、「木箱が3個で、それぞれ約50kg、合わせて150kgです。内容は金属原料の見本です。割れ物ではありませんが丁重な取り扱いをお願いします。チズウィックまでできるだけ目立たない経路で運んでいただきたい。」と慎重に言葉を選んで依頼した。


 ジョアンナ、バイロン、フランツ、ジョージは、ピカデリー周辺の大きな不動産業者を手分けして精力的に回った。長期間滞在できる安全な拠点となり、館と呼べる広さがある堅牢な邸宅が狙いだった。さすがロンドンの中心部ともなるとかなりの高額物件ばかりだが、150kg近くの金塊があるので全く問題にならない。情報を集め終わった4人はカフェに集まり、候補を吟味し始めた。そして、候補のうちで最も目的にかなう物件として、ケンジントンのウエステンラ家を選んだのだった。


 正午が近づき、強い日差しが照りつける中、ヴァンパイアたちはそれぞれの任務を終え、指定されたホテルへと戻った。拠点とするケンジントンの邸宅へは,明日にでも入居できるという。日光のダメージを回復するため、彼らは厚手のカーテンで光を遮りながらしばしの休息を取った。ジョアンナは情報を整理しながら計画の進行を振り返り、すべてがスムーズに進んでいることを確認していた。




今回は1つも荒事がありませんでしたね。次回は荒れましょう。

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