第四十四話「人形使いの隙」
四方八方から刃物を持った人形がケビンたちに襲い掛かる。その数は優に五十体を超えているだろうか。
「多すぎるだろう!!」
あまりの数の多さにポールが毒づいた。
「おっと? もう弱音ですか? 先輩?」
それを聞いたジャックが皮肉る。二人ともすでに切り傷だらけだった。やはり一撃一撃は大したことないが、手数の多さで後手に回ってしまう。
そして、ちらりとケビンたちの方を見やった。そちらでもケビンとエレンが剣を振るって戦っている。しかし、開戦当初よりもジャックたちから大分離れた位置で交戦していた。
ジャックはポールの背中を守りつつ、魔導で土の壁を作りながら、ポールに小声で話しかけた。
「先輩......ちょっとやばくないか?」
「ああ、分断されてるな。しかも近接戦闘と中遠距離組に」
「すると次に来るのは......っつ!?」
レンヌの横で控えていた、執事が襲い掛かってきた。屋敷では持っていなかった大刀を手に携え、小さい人形たちの隙間を縫って襲い掛かってくる。
「あら? だめじゃない? 今は舞踏会の時間なんですもの。踊りに集中してくれなくちゃ」
「それは! 悪かったな!」
ジャックは執事の大刀を弾き飛ばしながら思考を回転させていた。遠くでは庭師の婆さん人形を中心に、刃物を投げつけられて遠距離戦に持ち込まれて攻めあぐねているケビンたちが見える。
ひたすら相性が悪かった。ラミエルのように単調に攻めるのではなく戦略的にくる分こちらの方が厄介かもとジャックは感じていた。
「ケビン! エレン! お前らの炎で焼き払えないのか!?」
ポールの指示が飛ぶが二人とも渋い顔をした。エレンが答える。
「やりたいんだがな! こうも間断なく攻められると技を出す暇がない。せめて一瞬隙が作れれば......」
「隙ね......」
ポールとジャックがレンヌを盗み見た。相も変わらず余裕の笑みを浮かべている。
ポールはジャックに厳かに話しかけた。
「ジャック......打ち合わせ通り頼む」
「くっ!? 俺がやるしかないのか!?」
「ああ、お前しかいない」
「ケビンや先輩でもいいじゃないか!?」
「迫力と美しさが足らん!」
「......そお?」
抵抗していたジャックが急ににやけ面になった。エレンとケビンも何を話しているのか悟り、戦闘中にもかかわらず頭が痛くなっていた。
そうこうしている間にジャックがレンヌに向けて大声で叫んだ。
「レーンヌ!!」
「何?」
「これを......みろ!!」
そう言ってジャックはいきなり上半身をはだけた。岩のようにごつごつとした大胸筋と見事に割れた腹筋が露になる。
「そう来るのは分かっていたわ!」
そういってレンヌはにやりと笑って、ポケットから何かを取り出して顔に装着した。
「あれは!」
「サングラスか!?」
ケビンとジャックが驚愕した。こちらの作戦が読まれていたのだ。傍から見るとばかばかしいせめぎあいだったが生憎と本人たちは至って真剣だった。
「いまだ! エレン!」
「ああ! オーランド流ーー紅蓮若火!」
しかし、その空気に飲まれずにポールとエレンは動いた。ポールがタイミングの指示を飛ばすと、エレンはすぐさま業火で周りの人形を焼き尽くした。レンヌの動きが悪い。この薄暗い塔の中で、サングラスは相性が悪いのだ。
エレンがレンヌに肉薄したその時だった。レンヌがまたもやふふっと笑った。
「あらあら、これだけなわけないでしょう? おいで? ナイトメアドールズ!」
レンヌが指をくいと動かすと物陰に隠れていた三体のメイド姿の人形が姿を現わした。皆サイズは執事たちと同じくらいで、各々剣、大斧、弓を持っている。そいつらが三方向からエレンに襲い掛かった。
「ちっ!?」
エレンが舌打ちをしつつ、周囲を薙ぎ払うように剣を振るった。誰もが人形が両断される姿を想像した。しかし、がぎんと音が鳴り、人形はそのままエレンに突進してきた。
「何!?」
エレンの眼が驚愕に見開かれる。かろうじて避けたが、足と腕に深手を負った。
「惜しかったわね? この子たちは大切な人形だから特に壊れにくく作ってあるの。残念」
相手の起死回生の策が破れて、レンヌは勝利を確信した。しかし今度はエレンがほくそ笑んだ。
「油断だな?」
「え! あ!?」
レンヌが気づいた時には遅かった。いつの間にかエレンの背後でケビンが大きく飛び上がっていたのだ。ケビンはその勢いのまま縦に回転を始める。
「しまった!」
レンヌは慌てて数体の人形を差し向けたが、ケビンの身体に届く前にケビンの剣から放出される炎で燃え尽きてしまう。
「うおおおおおお!」
ケビンが吠えた。すべてはこの瞬間の為に。フェリスを救うための一瞬の隙だった。
「火型外の形・赤竜刃!」
回転の勢いのまま、ケビンはレンヌ目掛けて炎の塊となって飛んでいく。
「ええい! くそ!」
しかしレンヌは奥の手に出た。なんとフェリスの身体を持ち上げて盾としたのだ。
「外せ! ケビン!」
ジャックの指示が飛ぶ。それと同時にドガンとケビンが着弾した。辺りにもうもうと煙が立ち込める。恐る恐るジャックたちが目を開くと、そこにはすんでの所で技を外したケビンの姿があった。
「避けろ!」
ケビンがフェリスに技が当たっていないことを確認し、ほっとしているとポールの怒号が飛んだ。ケビンが気づいた時には遅かった。いつの間にか人形の内の一体、大斧を持った人形がケビンの背後で振りかぶっていた。
人形は力任せに大斧をケビンへと振り切る。
「「ケビン!」」
ジャックとエレンの悲鳴が広がった。誰もがその後の悲惨な光景を想像した。しかしそうはならなかった。
「ぐ......ぐおおお!」
ケビンはギリギリで大斧を受け止めていた。しかし大技の影響か弾き飛ばすところまではいけていない。
「ふふっ。少し危なかったわ?」
エレンは勝利を確信し、ケビンたちは窮地に陥っていた。
最近アナデンを再開しました。技名ってどうやって考えてるんでしょうね?
というか何語だろうか.......




