第四十五話「逆転の策」
ケビンは人形と鍔迫り合いをし、エレンは深手を負い動けず、ジャックとポールはレンヌから遠い所にいて、おまけにフェリスが盾にされていた。控えめに言って崖っぷちだった。それでもポールは笑った。白銀級になるまでに、この程度の窮地なぞ何度も越えてきた。”あの時”程ではないと思えば、いかほどのものであろうか。
ポールは薙刀を下ろし、ゆっくりとレンヌたちの方へ歩み寄る。
「止まりなさい?」
残り二十歩の位置でレンヌが冷たく言い放った。
「あなたたちの負けは決まったわ。 あとは降伏か死しかないわよ?」
レンヌの言葉にポールはあえて笑った。
「おいおい、お嬢ちゃん。俺たちが負けたって?」
そう言いながらポールはジャックに目配せをする。
「そうよ? もうあなたたちにここから挽回の手はないでしょう? 私も人形の半分を失ったけれども、残り半分と主力は無事だもの。戦力差は明らかだわ?」
ポールは余裕の笑みを浮かべた。まるで「手ならあるぜ?」と言わんばかりの顔である。レンヌははったりだと思った。しかし油断なく、残りのメイド人形を、一体は剣をエレンの首元に当て、もう一体は弓をポール目掛けて引き絞る。
「これが最後よ? 降伏しなさい?」
ポールは肩をすくめて立っていた。丁度、ジャックがレンヌの視界から隠れる位置に。レンヌが気づいた時には遅かった。
「クレストバイン!」
ジャックが叫ぶと人形たちの足元から土の腕が生えて人形の脚を掴んだ。人形たちが大きく体勢を崩す。
「くそっ!」
レンヌは自らの迂闊を恥じ、人形たちを立て直そうとしたが遅かった。
「風突塵!」
ポールの無数の風の突きが弓矢のメイドを吹き飛ばす。
「オーランド流ーー破炎十字剣!」
エレンが一瞬隙をついて剣のメイドを十字に切り裂く。
「無型二の形・飛竜!」
ケビンが鍔迫り合いをしていた大斧のメイドを闘気の竜の顎で飲み込んだ。
三者三様の形でメイドたちが吹っ飛んでいく。各々体勢を立て直してレンヌに向き直った。
だが、遠くではメイドたちがゆらりと立った。皆服は焼け焦げていたが傷はついていないようである。エレンは舌打ちした。
「何という硬さだ。軍事用航空艇の外装並じゃないか」
エレンの言葉にレンヌはピクリと眉を動かした。
「あんな可愛くもない美しさもないものと私のナイトメアドールズを一緒にしないでよ」
「それはすまなかったな。さあ続きをやろうか?」
レンヌは辺りを見回していた。最後に傷ついてボロボロのケビンたちを見やった。そしてため息をついた。
「はあ、もういいわ」
今度は一番近くにいたケビンが眉をひそめる。
「もういいっていうのはどういうことだ?」
「もう終わりってこと。あまりにも小汚いんだもの。もう耐えられないわ」
そう言って、人形たちをぶわっと自分のもとに引き寄せて窓際まで後退した。驚くケビンたちを余所にレンヌはその愛らしい口をにやりとさせて告げる。
「フェリスに伝えてくれる? 諦めたわけじゃないからって」
「待て!」
ケビンの制止も聞かず、レンヌは窓から身を乗り出し背中越しに堕ちていった。ケビンは急いで窓に駆け寄って階下を見下ろしたがそこには誰もいなかった。
背後でどさりと音がする。ケビンが振り返ると、無理やり吊り下げられていたフェリスが大地に横たわっていた。
「フェリス!」
ケビンが急いで駆け寄ってフェリスを抱き起す。遅れてエレンたちも駆けよって二人を囲んだ。ケビンが何度もフェリスの名前を呼ぶ。
「フェリス! フェリス!」
「うるさい! バカ!」
突然、フェリスの鉄拳がケビンの顎に直撃した。ケビンは目を回してあおむけに倒れていく。
「あら? ここどこ?」
今なお、拳を握りしめて状況を把握できていないフェリスと、不幸にも本日最大の一撃を食らって倒れ伏すケビンを見て、ジャックたちは大笑いしていた。
言い忘れてましたが、12月もよろしくお願いします!




