外伝7話 帰る場所が増えた日
ゴールデンウィークも、もう終わる。
「セラちゃん、また来てね」
母さんが言う。
「セラちゃん、いつ来てもいいからね。いつでも歓迎だから」
父さんも続けた。
「喧嘩したら、ここに逃げてきたらいいんだよ」
橙也が笑う。
「喧嘩しないから大丈夫だ」
俺はすぐに返す。
「いや、わからないだろ。いきなり出て行ったらどうするんだよ。兄ちゃん、結婚相手いなくなるぞ」
「お前な……」
「そうよ。青斗、セラちゃんに逃げられないようにね。こんなにいい子なんだから」
「結婚式、楽しみだな」
父さんが言った。
「あの……まだ早いですから」
セラが、少しだけ困ったように笑う。
「また、来ますね」
そう言って、セラと俺は家を後にした。
***
帰り道。
俺たちは、ゆっくりと歩いていた。
セラの姿は見えないのに、すぐ隣にいる気がする。
「結婚式って言ってたな」
「うん。私、見えないのにね」
「人間だったら……よかったけど」
「いや、そういう意味じゃない」
「悪魔なんだから、仕方ないだろ」
「うん」
少しだけ、間が空く。
「ねえ、青斗。
私がいたら――彼女もできないんじゃないの?」
「まあな。別にいないからいいんだよ」
「そうだけど……結婚とか、したいんじゃないの?」
「それより、相手いないだろ。気にするな」
「……そう」
小さく返ってくる。
「それよりさ……破滅ポイントって、いったいどこまで行くんだ?」
「私も……わからないわ」
「削られてるわけじゃないよな?」
「私、終わらせたいの」
「少しでも早く」
「これに縛られたくないっていうか……」
「でも……どうなるんだろ」
「セラ……いつか俺たち、離れるのか?」
「……どうかしら」
「でも……そうなるよね」
「私は、こんなだし」
「私は……何を願ったのかしら」
***
俺たちは電車に乗った。
やっぱり、異様だ。
慣れないな……。
俺の隣だけが空いている。
まるで、最初から誰も座れない席みたいに、自然にスルーされていく。
――そこに、セラがいるのに。
やっぱり、セラの座っている場所には誰も近づかない。
なかなかのホラーだった。
行きのときと同じで、やっぱり似たような感じだった。
今度は――おじいさんに、勝手に拝まれるし。
俺が拝まれているみたいだ。
何だか、怖い。
いや――セラがいるだけだ。
「このお姉ちゃん、綺麗ね。お姉ちゃん、バイバイ」
そんなふうに、子どもに話しかけられることもある。
やめてくれ……。
よく考えたら、こんなホラー現象と一緒に住んでるのか。
そして――結婚とか言われてるのか。
俺って、実は普通にやばくないか?
ちょっと間違ってる?
厄介事を抱え込みすぎてるのか?
***
それに――帰ったら、赤石のこともあるよな。
赤石か……。
あいつもあいつで、連絡してくるんだよな。
ゴールデンウィーク中も、
『青斗、何やってる?』
って、毎日来てた。
女子高生かよ、って思ったが……まあ、そんなものか。
赤石だし。
帰ったら遊ぼうって言ってたな。
仕方がないな。
俺も、友達いないし……。
***
ゴールデンウィークが終わる。
これから、またあの日常が始まる。
セラと俺の、異常な日常が。
こいつに懐かれて、暮らしている。
破滅ポイント……いつ終わるんだ?
そんなことを考えながら、電車に揺られていた。
***
家に着いた。
帰宅した家は、いつもと同じだった。
「ねえ、青斗」
「何だ?」
「もう一度、悪魔界に戻る」
「この前も行ってきたんじゃないのか?」
「あの件は、もうポイントを稼いだの」
「え?」
「実は……少し削ったから」
「ああ……そうだったんだ」
「それで、今度もできるだけ同じように行くといいんだけど」
「待っててくれるかしら」
「ここにいてもいいんだよな?」
「行くところ、ないんだろ?」
「うん」
「待ってるから」
「早く戻ってこい」
***
「破滅ポイントの件……まだまだあるのか?」
「うーん、今度の案件がどんなのかはわからないけど、内容次第で結構進むから」
「もしかしたら、終われるかも……って思ったりもしてる」
「私……本当に大丈夫かなって思ったり」
「ほら、悪魔だしね」
「ああ……そうだな」
「でも、無事に解放されることを願ってる」
「ありがとう」
***
今度は、何があるのか……。
早く終わればいい。
――そう思っているはずなのに。
ほんの少しだけ、引っかかっていた。
ゴールデンウィークが終わって、日常に戻る――
はずなのに、少しだけ何かが変わっている。
そんな回になりました。
家族に受け入れられていくセラと、
それをどこか当たり前のように感じている青斗。
でも、その一方で、
“終わるかもしれない関係”でもある。
この二つが同時に進んでいるのが、
この物語の少しだけ歪なところです。
電車のシーンも含めて、
日常の中にある違和感を楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回は悪魔界側の動きも含めて、
少しずつ“破滅ポイント”の輪郭に触れていく予定です。
引き続き、よろしくお願いします。




