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第3章 無色の終わり

以下は、クリアカラー《透明》と交戦した精鋭部隊の最終記録である。

瓦礫の隙間から、まだ熱を帯びた風が吹き抜けていた。

焦げた匂いと血の鉄臭さが混ざり合い、呼吸をするたびに肺の奥に沈んでいく。


最前線に立つ、全身を黒に染めた男が低く息を吐いた。


「……なんだ、アレは……」


問いかけというより、現実を受け入れるための時間稼ぎだった。


その背後、色彩の壁を幾重にも展開していた白の女が肩をすくめる。


「バケモンッスね」


軽口。

だが、その声は僅かに震えている。


さらに一歩下がった位置で、赤紫を帯びた若い隊員が視線を上げた。


「……さっきは、ありがとう……」


肩で息をしながら、黒の背中を見る。


「……引っ張ってくれなかったら……溶かされてました……」


「礼は後だ」


黒が短く遮る。


「突っ込む前に分析しろ。仮にも無色だろ」


「いやぁ、参りましたねー……」


白が壁を補強しながら笑おうとするが、口角は最後まで上がらない。


「こっちの攻撃、全部相殺されてる。……あれ、学習してますよね?」


黒は視線を敵から外さない。


「画彩能力を捨てる。物理に切り替えるか……」


「……難しいと思います」


赤紫が即答する。


「対応が……速すぎる。……多分……」


一瞬、言葉を選び、視線を伏せる。


「……貴方よりも」


「……」


黒の肩が、ほんの僅かに揺れた。


「……最速だけは、誇りだったんだがな……」


「……ありゃ」


白の視線が止まる。


「……一気に……二人……」


言葉が続かない。


「…………」


「どうした」


「……話したことある人達だったんで……」


それだけで、十分だった。


「……残ってるの……私達だけですね……」


静寂が落ちる。

爆音よりも、ずっと重い沈黙。


「……酷い状況だ」


黒が言う。


「だが……悪くない」


「……へ?」


「覚悟が決まる」


振り返らずに続ける。


「五感の感応を一般人レベルまで落とせ。その分、身体に寄せる」


「はいはい」


白が即座に応じる。


「色彩の壁で覆います。……【紫】で」


「上等だ」


「……私も行きます」


赤紫が一歩踏み出す。


「新人は足手まといだ」


拒絶ではない。

生かすための言葉。


「分析内容を共有します」


「……若い。才能もある。だから……」


「行きます」


即答だった。


「……」


「……」


「……仲間の仇です」


「……悪くない」


白が空を仰ぐ。


「はぁ……ろくな日じゃないっスね……」


一拍。


「……でもまぁ」


前を見る。


「仇討ちなら……一発、派手にいきましょうか」


「……醜く殺す」


「……同感です」


三人の視線が、重なる。


「……」


そこにいる。

何も語らず、何も拒まず、ただ“在る”。


「……行くぞ」


それは号令ではない。

覚悟の確認だった。


次回は物語の中心となる

色彩機関『最大戦力』の1人が欠けた『最大戦力』3人の会話パートを描きます。

それぞれが「完成」された存在、それでも「人」なのです。

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