表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/48

陽暦1476年1月1日〜年越し③ 渡る世間は善人ばかり

連投してすいません。

今回、村の中で、セキサイとリョウは薬師と出会います。

 村に入ると、灯りが点いている家がいくつか見える。


 新年は大体どこもかしこも休みになり、皆で寝ずに酒を飲んだり、遊んだりして年を越す人もいるので、この時間に人が起きているのは珍しくはない。


 セキサイはまず村長の家を目指した。


 村長の家兼村の駐在騎士の事務所は、灯りが点いていた。


「セキサイだ。すまぬ。誰ぞおるか」


 中に入ると、村長はおらず、駐在騎士スミスが一人、普段着で椅子に座ってうつらうつらしているところだったが、「おっ」と言って立ち上がった。

 どうやら当直中に居眠りしていたようだ。


 暖かい屋内に入り、セキサイの顔面は血が通い始めて、少しむず痒くなる。


「こんな時間に、どうしましたか」


 スミスは、まだ少し眠そうで、ちょっとだけ迷惑そうに聞いてきた。


「リョウが熱を出してな。新年早々のおかしな時分と知りつつも、薬屋があったと思い、取り急ぎ来たのだ」


「えっ、それは大変でしたね。ありますよ薬屋、サイラーさんの店。村の外れにあります。案内しますよ」


「助かる」


 セキサイの胸元で顔を赤くしているリョウを見ると、スミスはすぐに親身になって、セキサイを村外れまで案内してくれた。

 この村には善人が多くてとてもありがたい、とセキサイは思う。



 テオの村は人口80人。

 医者はいないが、病気などは薬師(くすし)のサイラーが診ている。


 サイラーは薬学に通じ、医学も多少かじったことのある人物で、以前は王都で宮仕えしていたらしい、とスミスはセキサイに説明した。


 セキサイとしては、リョウが元気になってくれれば、誰が診てくれようが全く問題ない。


 

 サイラーの薬屋は、普通の木造の家に見えたが、看板に薬草の絵が書いてあった。

 今、屋内は灯りが消えており、サイラーは寝ているようだ。


「サイラーさん、居ますかー!駐在のスミスです」


 スミスは、まだ日の出前の暗い時間であるにも構わず、ドアをノックして呼びかけた。


「……………………………」


 家の中でゴソゴソと人の気配がする。


「………………………………なぁにぃ〜?」


 少しして、気だるげな、低めの掠れた女性の声がした。

 ドアが少しだけ開き、金色の瞳がこっちを見ている。


「サイラーさん、朝早くすいません、赤ちゃんの急患を診てくれませんか?」


「いいよー……」


 サイラーと呼ばれた女性は、もこもこした寝巻きの上に、ダボダボの地味な灰色のガウンを羽織っていた。


 サイラーは、青く長い、緩くウェーブした美しい髪で、表情はあまり豊かではないが、すらっとした美人だ。


 20代半ばくらいに見えるが、実際は35歳らしい。


 サイラーはセキサイたちを屋内に招き入れた。


 屋内は暖房で暖かい。


「うう寒っ」


 サイラーは外から入ってきた風に身震いする。


 そして、濡れたセキサイの外見と、切れて血が出ている唇に気づいた。


「寒くて大変だったでしょ。温まってね」


「誠にすまぬ、こんな時間に来てしまって」


「心配いらないわ。子供の急患はたまにある事よ。その唇の切れてるところ、気になるから、薬塗っていい?」


「ワシか、ワシはいらん……と言いたいところだが、なかなか血が止まらんのでな、頼む」


 セキサイのその返事に、サイラーは頷く。

 戸棚から小さな器を、取り出して中身の塗り薬を右手人差し指に付けて「じっとしてね」と言い、セキサイの唇に塗布した。

 

「しばらくこの布を当てておいてね」


 サイラーは、塗り薬を戸棚に戻すと、セキサイに薄い白い布を渡した。


 そして、リョウの診察を開始した。


 一旦布団の上に寝かされたリョウの脈を手で測ったり、目を覗き込んだり、口を開けたりしていたが「うん」と言って頷くと


「重病ではないわね。……多分ただの風邪だと思う。熱冷ましあげる」


と言った。


「そうか、それはありがたい」

 

 セキサイのホッとした返事の後に、サイラーは続ける。


「でも、気になるわ、とっても」


 そう言うと、サイラーはなぜか目を閉じた。


 しばらく傍目にものすごく集中すると、カッと眼を見開いてリョウを凝視する。


 サイラーの珍しい金色の瞳が、うっすら光っているように見えるが、気のせいか。


「まぁ病気は良いとして、この子、とっても不思議なシマーの色してるわ。こんなのこれまで生きてて初めて見た」


「シマーとは耳慣れないが、何だ?」


 初めて聞く言葉にセキサイは問い返す。


「シマーは、人や、生き物などが持つ、生命力の輝きみたいなものよ。集中したら私にはそれが見えるの」


「お主、魔力持ちであったか」

 

 このヘリオス世界では、魔力を持つものはほとんどおらず、10万人に1人くらいの割合とされている。


 そのため、ほとんどの人が、魔力の存在は噂などで知りつつも、魔法と無縁の人生を送り、一度もその奇跡を見ずに一生を終えることになる。

 

 セキサイは以前王都に住んでいた事があり、その時に宮廷魔術師を何人か見た事があるので、魔法の奇跡は少し見知っている。


 一般的には、何らかの形で魔力が有るのを見出された者は、すぐに国から目を付けられて王都に呼ばれ、その才能に応じて、魔法を研究をしたり、軍事利用等されたりしながら、多少の栄誉と引き換えに、一生国に囲われて過ごすことになる。


 なので、王都以外で魔力を持つ人間に会うのは、極めて稀なことだ。


 サイラーは続けてセキサイに説明する。


「この子のシマーは、青。とっても珍しい高貴な色で、青い炎みたい。また、中心に深い闇のような黒をたたえているわ。でも全体的に眩しいくらい輝いているのよ」



 

近く、また続きを上げますね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ