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陽暦1475年12月末日〜年越し① 熱が出ておる

2人の生活は日々続いていきます。

 リョウがセキサイの小屋に突然現れて、やがて最初の年越しをする頃になった。


 厳しい冬に入り、外では、雪も積もり始めている。


 標高が高く、積雪が多いため、今は農閑期に入っており、セキサイは農器具や柵の手入れ、リョウの世話、武の鍛錬などをしながら過ごしている。


 ヤギや羊たちは、それぞれ子が1匹ずつ産まれた。


 今は寒い時期なので、小屋を増設した離れに住まわせ、家畜達は人の暖房のおこぼれにより、比較的ぬくぬくと過ごしている。

 子ヤギと子羊は、夜は母屋にまで入らせており、気づけばリョウと一緒に布団で寝ていることもある。



 リョウは明らかに成長が早く、喃語も言うが、「めぇめぇ」、「んまんま」、「しーしー」等、意味のある言葉を話し始めている。


 あの時の夢で、女神は、リョウは異世界から魂が渡ってきたと言っていたが、話す表情や内容などから察するに、リョウには前世の直接の記憶や知識はどうやらなさそうな気がしている。


 急に大人のようにペラペラ喋ったりするようなことはない。


 おかしな点は、赤ちゃんにしてはすごく頑張り屋なことだけだ。


 今日は、リョウは小屋の中で(めぇめぇ)を笑いながら追いかけ回している。


 そして、夕方前、ひとしきり羊とヤギを追いかけているうちに、リョウは疲れて寝てしまった。


 ぽかぽかと体が温かい。


 セキサイはリョウを布団に寝かせた。

 こうなった時は、リョウは数時間は起きないのを知っているので、セキサイは、外に狩りに行くことにした。


 最近ではリョウも結構肉を食べるので、残りが心許なくなり、補充しなければならなくなってきた。


 普段、リョウが一人で外に出たりするのが心配で、セキサイはあまり家から遠く離れることはなくなっているが、今日はすこし遠出してスノーウルフの1匹でも狩ろうかと考えている。


 セキサイはいつもより長めの槍を握り、防寒対策を充分にして外出した。


 外は雪がチラついているが、風はそんなに吹いておらず、視界は悪くない。


 北の崖を上がれば、何かしらモンスターはいるはずだ。



 3キロほど離れた場所にある傾斜のキツい崖を登り、辺りを見回すと、200メートルほど遠くに巨大な動物の影が見えた。

 

 体高4メートル、体長5メートル、体重2トンにもなる巨大なモンスター、バイオレントムースだ。

 こいつはウォーベアも近づかない、草食ぽい見た目だが、怒れば鋭いツノを向けながら突進してくる、恐怖の戦うヘラジカである。


 今、やつは雪の下の地面に生えている植物を食べている様子だ。


 セキサイは、バイオレントムースを狩るのは得意ではない。

 まずこいつは警戒心がとても強い。


 虚を突かねば一撃で仕留めるのが難しいのに、せっかく頑張って近寄っても強力な跳躍力で逃げることが多い。


 いつもの棒では、動き回るこのモンスターの分厚い筋肉を貫くことは難しいが、今日は幸いにして長槍を持参しているので、上手くすれば仕留めることができるかも知れない。

 

 セキサイは枯れ木に身を隠し、そこで雪に伏せ、起伏のある地形を目指して匍匐前進し始める。

 

 さっきから雪が少し強く降るようになっている。


 相手がこちらにまだ気づいていないので、視界が悪くなるのはありがたい。

 幸いにして風下にいるので、匂いでも察知されないはずだ。


 セキサイは雪の降り積もっていく雪原を、思わぬ速度でするすると静かに進んでいく。

 

 それでも、集中力を使いながら、次の起伏、次の起伏へと目指して少しずつしか近寄れない。


 延々と回り道しながら、相手と15メートルほどの距離まで近づくのに50分ほどかかってしまった。


 セキサイはさすがに寒さに焦れてきて、槍をそろそろ投げてしまおうかなどと考えていたところ、急に風が逆に吹いた。

 

 すると、その気まぐれな風により、バイオレントムースはセキサイの匂いに気づき、頭を振って周りを見回すと、雪に半ば埋もれて隠れていたセキサイの姿に気づいてしまった。


 セキサイは一瞬タイミングを逃しつつ、立ち上がりざまに渾身の力で槍を投げたが、その前にバイオレントムースは大跳躍しており、槍はビョウっと音を立てながら外れていった。



 バイオレントムースは、あっという間に見えないところまでジャンプしながら逃げていった。


 セキサイはがっくりきつつ、遠くまで飛んでいった槍を回収して、家路に戻る。


 時間を無駄にしてしまったが、自然相手だとこんな日もあると割り切る。



 家に戻り着いたのは、もうすっかり暗くなってからだった。


 屋内は静かだ、リョウはまだ寝ているようだな、とセキサイは安心する。


 小屋のかんぬきを外から外し、セキサイは軒下で体についた雪を払い、屋内に入った。


 リョウの布団のそばには子ヤギがいて、リョウの顔を舐めている。


 セキサイは、その光景を微笑ましく思いつつ、まず防寒着と靴を脱いで、暖炉のそばにかけて乾かした。


 そして布団に寝ているリョウを見る。


 目を瞑って眠っているが、様子がおかしい。


 息が荒く、顔が赤い。


 ハッとしてリョウの手を握ると、とても熱かった。

 脈も早くなっている。


 ほとんど毎日健康に過ごしてきたリョウが、いきなり熱を出したので、セキサイは自分でも驚くほど狼狽えてしまっている。


 とにかく、まず熱を下げねば。



 



 



 


 

子供が熱を出すと焦りますよね。

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