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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件
18/60

18話【VS.】旅の途中、冒険のはじまり 魔神将ダークマター 4

刻印の円環

エングラム・リング


初回特典開放

創造者権限


モブのいない

未完の世界

「は、はいぃぃっ!? わかりましたぁぁぁぁぁっ!!」


 圧に押し切られるかたちで、受付嬢が半ば転がるようにカウンターを飛び出した。

 その勢いのまま、胸元の通行証をかざしながら施設奥へと駆けだす。


「駆けだし冒険者の皆さまぁぁッ!! 緊急、緊急ですっ! 今すぐその場で待機してくださぁい!!」


 建物の奥。儀式ホールの中央にある魔方陣の広間がざわついた。

 数十人の冒険者が円環を囲むように雑多に集まっている。

 緊急という受付嬢の叫びに、浮ついた高揚と緊張をまとって制止した。


「えっ、なになに? なにか起きたの?」


「ヒューッ! また新しい冒険者のおでましってことかい!」


 はやし立てる冒険者の中央で、煌々と青白い光を帯びて魔方陣が回転している。

 喧噪と予想と憶測が飛び交うなか、それらをすべて割るように、受付嬢が駆け入った。


「これは特例対応です!! 最優先権保持者の来場に伴い、特典開放式をただちに開始します!!!」


 ざわめきの只中、俺はようやく呼吸を整え終える。

 周囲の空気がぴたりと鳴り止むような感覚が走った。

 

「(このヴェル・エグゾディアという世界では、人生でたった1度だけ許された権利がある)」


 俺は、魔方陣の中心へ堂々とした足どりで進みだす。

 すると自然と冒険者たちは割れるようにみちを譲ってくれる。

 浮ついた者たちの間に、ざわめきが湧いた。


「え、誰……? 知ってる?」


「村の修行場で見たことないし、外からのお客さんかな?」


「わざわざこんな辺鄙な村で特典開放するか、普通?」


 装備に着られた若葉たちが、きょろきょろと不安げに見守る。

 その横では、古傷の走る老練な剣士が顎に手をやって目を細めた。


「……ふむ。あれは、戻ってきた者の歩きかただな」


「戻ってきた者? どういうことです?」


「1度終わった冒険を、もう1度はじめようと再起する者のことだ。あの目は……ただ者じゃあないぜ」


 おっさんの目は節穴だった。

 だって俺はしがないパン屋のバイトであり、いまのところそれ以上でも以下でもない。

 期待と焦れた声が広がっているのをよそに、俺は歩を止める。

 煌々と輝く《刻印の円環》の縁に立ち、ひとつ息をつく。


「で、ではっ! 準備は整っておりますのでど、どうぞ中央へッ!」


 受付嬢に促されるように光輪を踏み越えた。

 制服のスカートを押さえながらも慌てて儀式端末の起動にとり掛かる。


「高位監査詠唱……参りますっ!」


 受付嬢は胸元の証を高く掲げた。

 そして、どこか儀礼的で、けれど慣れていない独特の緊張感とともに、紡ぐ。


「――《輪よ、開け。原始を刻みし環よ、選定の扉をひらき、旅人に、その名を》」


 青白く煌く光が、円環の縁から立ち上る。

 儀式ホールに静かでかつ荘厳な圧が満ちていく。


「《汝の魂、いま1度問う。汝は誰か。なにを求め、いかなる刻印を刻まんとす――》」


 この世界には、人生でたった1度だけ許された権利があった。

 それがいま行っている《刻印の円環(エングラム・リング)》、初回特典開放。

 刻印というのは、いわば才能(スキル)である。ここで得た刻印は、身となり、肉となり、所持者の力そのものとなる。


「《刻印者(エングラミスト)、承認!!》」


 旋律が最後の一節を唱えたとたん、衝撃が走る。

 足元の魔方陣がズンッと地を叩くような音を立てた。光が咆哮するように広がり、円環が脈動する。


「(先天的に生まれ得る才能と刻印によって後天的に得られる才能。この2つがヴェル・エグゾディアの世界を彩る世界観の特殊性であり一部なんだ)」


 まあどうとり繕っても、ガチャだった。

 しょうがないじゃん、あのころまだ中2だったんだから。そういう非現実的な一発逆転能力に憧れちゃう年ごろだもん。

 しかもこの円環の刻印は、魔法、スキル、武技が混ぜこぜになっている上に、とある規則性が存在している。


「(通常なら駆けだしの冒険者は、ほぼ確でハズレを引くというクソ仕様、最初からチートを引くなんて確率はゼロ中のゼロ。魔法は下級魔法しか排出しないし、スキルがでたとしても掃除とか菜園での水やりとかそのていどのゴミ能力だけ)」


 幾人もの冒険者がこのあふれる光に希望を託しただろうか。

 しかしここに夢の欠片なんてありはしない、ただの超現実的仕様だった。

 なのになぜそのような過酷な運命を背負ってまで冒険者が(ハマ)ってしまうのか。

 その答えは、必然的。つまり当たるときは当たるから。

 1撃で巨万の富どころか伝説にまでのし上がれる刻印が生まれるから。

 そして俺はこの刻印の円環という仕組みを熟知している。ゆえに予想が正しければ、おそらくは。


「(この窮地でも逆転の術が生まれる! なぜならこの円環は、ヴェル・エグゾディア世界の知識量によって変動するからだ!)」


 次の瞬間だった。

 魔方陣の中心で、なにかがきぃんと、鳴いた。

 それは耳に届かない高周波のよう。しかし、確かに全身に迸る白熱した波動だった。

 光が、暴れだす。燐光が収束を開始する。青白いそれは瞬くように光を強める。


「に、虹色の……光っ!?」


 そしてその色は、虹、だった。

 受付嬢の瞳は、まるで星を見上げた夜の子どものようにまん丸く見開く。


「う、うそ!? こんな、まさか――」


 唇と紡がれる声のどちらもが震えていた。

 それは怯えではなく、限界を超えた理解の先で発せられる、


「ギルド創設以来、数千人、いえ、数万にのぼる冒険者がこの円環を踏みました! けれど――この色、この震え、この反応! 記録に名を刻まれた者でさえ、たったの数人単位の現象です!」


 思わずといった感じで零れた声は、憧れを帯びていた。

 しかも受付嬢の頬にはほんのり朱が差し、目尻がきらめいている。


「おい、見たか!? いま、7色に光ったぞ!」


「そんな演出、いままで1度だって見たことねぇ! 上位魔法の刻印でもせいぜい金色止まりだろ!?」


「っていうことはまさか伝説級スキルが召喚されたっていうこと!?」


 魔方陣からあふれでた虹色の燐光は、うねるように螺旋を描く。

 やがて俺の掲げた手元めがけて収束していった。


「あとはコレを習得、身体に刻みこめば……」


 だが、残された猶予はそれほど長くはないらしい。

 張り詰めた緊張を撃ち抜くように、警報のような声が斡旋所に雪崩れこむ。


「外に数え切れねぇほどのゴブリンだ!! 大群がアークフェン目掛けて押し寄せてきてやがる!!」


 斡旋所の扉が乱暴に開き、砂煙と共に男が飛びこんできた。

 片腕を引きずり、声は掠れている。どうやらすでに数戦を終えているらしい。その顔には明らかな恐怖と焦燥が張りついていた。


「チッ! もうここにまで流れこんできやがったか!」


 覚悟を決める暇すらない。

 そう、ぼやきたくなるほどの急展開に、嫌な予感が脳裏をかすめた。

 戦場は2キロほど離れていたはず。それなのに、アークフェンが襲われているということは。


「っ、まさか!? 勇者ちゃん、シセル――ッ!?」


 名を叫んだときには、考えるよりすでに駆けていた。

 置いてきてしまった彼女たちは、女性だ。男なら殴られて終わるかもしれない場面でも、彼女たちにはもっと最悪な結末が待っている。

 その想像を脳裏から叩きだすように、俺は地を蹴った。

 支援魔法の残滓が、脚に火を灯す。駆ける。風を裂き、心臓の音を置き去りにして。

 街道の端を、石畳の影を、柵を、階段を、全部、最短でぶち抜いて進む。


「どけぇぇえええっ!!!」


 凶報に惑う村人を押し分ける。

 怒声と共に、疾風のように駆け抜けた。

 そしてやがて見えてきた村の境界部分で、視界の隅に、見えてしまった。


「おっさんの荷馬車!? ここまでギリギリ逃げてきてたのか!?」


 大量のゴブリンによって囲まれた荷馬車があった。

 しかも片輪がひしゃげた状態で横倒しになっているではないか。

 その中心に、ボロボロの少女が立ちはだかっていた。

 顔は血と泥で汚れ、服は裂け、呼吸すらままならない。

 それでも、折れた槍を握りしめ、彼女はその背で、少女と御者を守っている。

 勇者ちゃんもどうやら無事らしい。死闘を繰り広げるシセルの背後で身を縮こませていた。

 目尻には大粒の涙を蓄え、声もだせず、ただ震えている。


「んんんん!! 間に合えええええッ!!」


 怒声と共に、足裏が最後の加速を振り絞った。

 地を蹴った俺の脚が、火花のように白煙を上げる。風を超え大気を透かし一閃と化す。

 そして仰向けに倒れたシセルを組み伏せるゴブリンに向かって、強烈なタックルをくれてやった。


「Gyaaaa!!?」


「ナエナエっち!?」


 間一髪だった。

 悲鳴を上げて吹き飛んだゴブリンが、くの字に折れたまま地面を転がる。

 肩に伝わる鈍い衝撃と骨ごとの手応え。倒れたゴブリンはもがくことなく生を終えた。


「クッ!? シセル大丈夫か!?」


 シセルの状態はかなり酷かった。

 彼女の身を包んでいたはずの軽装鎧は、無理矢理引き剥がされたようにひしゃげて散乱している。

 肩当ては砕け、レギンスは裂け、胸元の留め具から引きちぎられていた。晒された肌には、爪か刃による引っかき傷が無数に走り、泥と血に塗れている。

 その身体は、ひとつでも多くの命を守る盾にしてきた証だった。


「うっ……まにあった、っぽ」


 歯を食いしばりながらも、シセルは倒れたまま、俺を見上げた。

 片目は腫れ、唇は切れているのに、しっかりと俺の姿を見据えている。


「おそ、かったじゃん……お姫さま守るの、ていっぱいで、あやうかったし……」


 血の滲むような、擦れた声だった。

 喉の奥が焼けるように掠れていて、それでもしっかりと届いた。

 間に合った。遅くとも、取り返しがつかない前には届いた。


「あと、た、の……で、いい?」


 そういう少女なのだ。

 仲間のために己を犠牲にしてしまうほど危うい。そういうどこまでも優しい設定の子なのだ。

 意識が今にも砕けそうなほど揺れていて。それでもなお、少女の瞳には色が宿っている。

 俺は、痛ましいほど弱った少女の耳にそっと頷く。


「任せておけ。次に目を覚ますときに見るのは、小麦と花の香りがうんとする部屋の天井だ」


 その一言に、彼女の口元がわずかに緩む。

 けれど、その微笑みは終わりきらないまま。


「なに、それ……さいきょうじゃ、ん……」


 シセルは崩れるように力を失った。

 辛うじて起こしていた頭が沈む。それを俺は支えて肩に抱きとめる。

 折れた鳥のように軽い、と思った。逆にこの命がとても、とても重く感じる。

 体温の抜けていく細い身体を、俺はそっと胸元に抱き寄せた。


「なにせこのヴェル・エグゾディア世界には、勇者がいるんだからな!」




※つづく

(次話への区切りなし)

最後までご覧いただきありがとうございました!!!

もし気に入っていただけたのであればひと手間いただけると嬉しいです!!!

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― 新着の感想 ―
古傷のある老練な剣士のおっさんwww それに比べてシセル(´;ω;`)ウゥゥ 軽そうな性格のわりにホントに無茶する・・・ 無事だよね?心配・・・(;゜д゜)ゴクリ… ナエナエっちは一体どんなスキル…
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