コミックス第1巻発売記念SS▶恋は突然に!(※カイル視点)
いつも応援いただき、誠にありがとうございます。
この度、河原シノ先生が描く『手違いの妻』コミックス第1巻が発売になったため、その報告にやってきた瑞貴です!
漫画版『手違いの妻』は、マーガレットとユリオス他、おなじみのキャラたちが本当に生き生きと活躍し、超絶面白いので、よかったら今だけ無料の1話だけでも読んでみてくださいね!
ちなみに今回のSSは、コミックス第1巻の内容に合わせ、マーガレットとカイルの出会いのシーンを、なんとカイル視点でお届けします!
2人の出会いは、私の大好きなシーンなので、ぜひお楽しみください!
「ああ~、案外早く見つかって、良かった!」
ギャビン副隊長の探し人は、明らかに僕のようだ。
遠征の疲れを癒そうと、寮の談話室のソファに座ってくつろいでいる僕に、あからさまな視線を向けているいるのだから、疑う余地はない。
目じりを下げる副隊長は、少年のようなオーラを漂わせ、相手を油断させるのが天性の才能だと思っている。
その割に鋭い判断を下す人物なので、副隊長の人柄を知る者は皆、笑顔を見せているときほど警戒しない者はいない。
珍しく寮の中まで入って来たギャビン副隊長が、いつも以上に神々しい笑顔を見せているせいで、恐ろしいほどに怪しい。
今の僕が、腰をどっかりと下ろしていなければ、間違いなく気づかない振りをして逃げていただろう。
そう僕に思わせるほど、策士のギャビン副隊長が、どこか嬉しそうにしているのが伝わる。
冷静な副隊長の感情を昂らせる、何かが起きているのは間違いない。
どのような用件かわからないが、これから面倒な業務命令を遂行せねばならない覚悟を決め、立ち上がった。
「副隊長が息を切らせながら誰かを探すなんて、珍しいですね。何かありましたか?」
「ベン様の遣いで、薬草師がカイルを訪ねて来ているから対応してほしくて」
「……わかりました。でもまた、適当な薬を高値で売りつける、イカさま業者なんでしょうし、副隊長が適当に追い返せば良かったのに」
「さすがに今回は無理かな。っていうのも、かわいらしい薬草師が、カイルを名指ししていたからね」
なぜか、にっこりと笑っているギャビン副隊長に違和感を覚えたものの、同時にかつての出来事を思い出した。それは、遠征帰りのタイミングを見計らったように、胡散臭い行商が訪ねてきたときの苦々しい記憶なのだが、売り子の女性に絡まれて大変だった……。
あのときも確か、屋敷を訪ねた悪徳業者を追い払うだけではつまらないと考えた父が、「寮にいるカイルを訪ねろ」と、適当なことを告げて遊んでいたのだ。
「すみません。うちの父の悪ふざけで、副隊長まで走らせてしまったようですね。また今回も、薬を買ってもらえると、ぬか喜びしている業者が、無駄に歩かされてきたんでしょうね」
やれやれと呆れて深いため息が出てしまう。
遠征帰りで疲れているというのに、父ときたら、またこれか……。
人を揶揄って楽しむ父の遊びにギャビン副隊長まで巻き込み情けなくなり、乾いた笑みを浮かべるのが、やっとだった。
「いや、今回はベン様のお眼鏡にかなった逸材を、未来永劫逃がさないための画策でしょうね」
「はい?」
聞き間違いかと思い、疑問がそのまま口をついた。
「元副隊長の目利きは、確かですからね。私からの命令です。負傷者に薬が届くように、マーガレットさんのサポートをしてください」
「えっと……。それはどういう意味ですか?」
「マーガレットさんに会えばカイルもすぐにわかるよ。絶対に欲しくなる逸材ですからね」
そう言ってウインクをしたギャビン副隊長は、次の仕事があるからと踵を返し、歩き去ろうとしていた。
「待ってください」
と引き留めたのだが、副隊長に僕の声は届かず、そのまま部屋から去ってしまった。
父は僕に、薬草師とお見合いをしろと言っている気がしてならない……。
自分の相手は僕自身の目で見て決めたいのに、父が余計なことを企んでいるのか……。
「……まったく父は、面倒なことばかり、やってくれるんだから……」
わざわざここまで来てくれた女性を傷つけたくない。
参ったな……。
ほんの少しだけ気鬱になった僕は、父が送り込んできたマーガレットさんを見ようと窓から外を覗く。
すると、想像とは全く別の女性が佇んでいて、ドキッと胸が大きく跳ねた。
純朴そのものの雰囲気の女性が、耳まで真っ赤にして、柱の陰に隠れているのだ。
彼女は、自分の前を通りすぎる兵士の視線から隠れているつもりなのだろう。
だが、大半の兵士はこの寮の中にいるのだから、他の男の目からは、ちっとも隠れていないのに。
「かわいいな……」
彼女は緊張しているのだろう。カゴを持つ手がわずかに震えている。
きっと僕の父が、彼女にとんでもないことをお願いしたに違いない。
そう思う僕は、少し前とは打って変わって足取りも軽く、マーガレットさんの元へと向かっていた。
寮の入り口の扉を開けると、頬を赤らめる彼女がすぐに振り向き、想像以上に不安げな表情を見せた。
そんな彼女とは裏腹に、対面した途端、顔がほころぶ僕の口からは、すらすらと言葉が溢れる。
「マーガレットさんですね。どうせ僕の父があなたに無理を言ったのでしょうね。父に代わってお詫びしますね。ですが、薬を持ってきていただいたのは、本当に助かります。重いでしょうから、カゴは僕が持ちますよ」
一瞬、驚いた顔を見せたが、次に彼女から飛び出した言葉で納得もした。
「カイルさんは、ベンさんに少しも似ていないですね」
「よく言われます。マーガレットさん、僕のことはカイルと呼び捨てで良いですよ。副隊長から聞きました、薬草師の方なんですって。そのような方に気を遣われると、僕の気が引けます」
「薬草師ではないわよ。趣味で林の中に入ったり、山に登ったりして薬草を集めて、薬を作っているだけだもの」
「……趣味? ざっと10種類以上ありますよね、この薬……」
薬作りを女性の趣味とするには、いささか裏がありそうだが……。どういうことだ……?
「それが違う薬だって、よく分かったわね。……でも、持ってきたのは20種類ね。その場で混ぜ合わせることも出来るし、それだけあれば、大体何とかなると思うわ」
「……凄いですね。父はお代を払ったのでしょうか? これだけの量の薬、僕の給金の何か月分なんだろう……」
「お金? そんなのいらないでしょう。必要な人に分けるために、好きで作っているだけだもの」
満面の笑みでそう言った彼女の姿がすごく輝いて見え、マーガレットさんのことをもっと知りたいという欲が、とめどなく溢れてくる。
「マーガレットさん、恋人はいますか?」
「いないわよ、そんな人は」
「次の薬草採り、僕が一緒にお供しますよ。何でも言ってください」
こんな胸の奥から熱い感情が湧き上がるのは、初めてだ。
これが一目ぼれだということを、疑うわけもなかった。
手放してはいけない人を見た瞬間。人はなりふり構わず本能で動く動物なのだと理解した。
僕の理想そのものの彼女に、恋人がいないなんて、これは運命かもしれない。
きっと彼女は恋愛に疎いのだろう。
露骨に気持ちを伝えているにも関わらず、するすると躱されてしまう。
まあなんとしても、親密な関係になりたいと思う僕は、逃すわけはないのだけれど。
マーガレットが辺境伯と結婚していると知ったときのカイルの絶望は、海より深いものだったが、それはまた別のお話──。
2026年8月5日に発売になりましたコミックス第1巻も、よろしければお手に取ってお楽しみください。









