後日譚5 ヒロインのその後は…
閑話としては、今回が最後の番外編となります。第三者視点となっています。
タイトル通り、ヒロインのその後のお話ですね。
※今回は…過激な言動はないと思いますが。一応、ご注意くださいませ。
留置所から連行された鮎莉は、孤島の収監所に入れられた。此処はごく一般的な刑務所ではなく、孤島の離れ小島の中にあり、他に住民も住んで居なくて、観光客も全く訪れない為に、『地獄の収監所』と呼ばれている。刑に服する者も看守も、全て女性だけの収監所であり、人が滅多に訪れない場所でもある。
収監所から脱獄出来たとしても、この土地には全く住民が居ない為、誰かの手助けを借りれない。またこの島は、他の島からかなり離れており、どんなに泳げる者でも…溺れるほどに波が激しい為、泳いで逃亡することも不可能だ。そういう脱獄不可能な収監所として有名な所であり、別名『女性専用収監所』とも呼ばれている。
此処を訪れる人間は、この収監所に物資を運ぶ関係者しか来なかった。それについても、半年以上から1年ぐらいの間に、たった1回程度の割合である。この物資を運んだりする関係者は、その殆どが中高年ばかりの男性達が多く、若い男性が訪ねて来ることは滅多にない。
収容されている囚人は、若者から年配の女性まで、幅広く収容されているのだが、その殆どが凶悪犯というよりは、斎野宮家のような家柄に依って、裁判もされずに送られて来た者が多かった。つまり、本来ならば…軽い罪になりそうな罪人だったが、権力者を本気で怒らせてしまったばかりに、此処に送られて来た者が大部分を占めていた。だから、幅広い年齢層はいても、収容人数はそう多くない。
囚人も毎月来ることはなく、1年に1度、1~2人ぐらい増える程度だったのだ。1年に3人ぐらい来ることもあれば、0人だった年もある。毎月どころか毎年でさえ、誰も収監されないこともあるのだ。今年は今のところ、鮎莉1人である。
乙女ゲームの通りにイベントを全て熟していれば、本来ならば大学1年生が終わる3月が、ゲームの終了時期である。無論その時に、悪役令嬢も処罰されることになる。鮎莉はヒロインであった為、まだゲームが終了しない筈の中途半端な時期に、まさか自分が処罰されることになろうとは、思いも寄らなかった。攻略対象全員と対決したあの時、そのまま刑務所の留置所に入ることとなり、両親や伯父とは会えなくなったままである。
次の日には孤島に連行され、家族に何も言えないままとなっていた。此処に来た当時はまだ、彼女も安直に考えていた。前世の世界の記憶がある彼女には、こういう処罰がこの世界では認められるとは、知らずに…。樹の判断だと徳樹から聞かされても、信じられなかったのだ。徳樹が嘘を吐いている、と思い込んで。
前世では、裁判前に刑務所に送られることもない。上位の家柄からの圧力はあっても、裁判もなしに送られることも、上位の家が直接処罰する権利も、ない。精々が留置所止まりである。
だから、彼女は直ぐに釈放されると、例え裁判になっても無罪だと、斎野宮家が下す個人的な罰くらいだと思っていた。収監所に連れて来られても、何かの間違いだと思い込んで。しかしその考えは、段々と…否定されて行く。他の受刑者や看守達がする噂話で…。
「あんた、馬鹿だねえ。斎野宮家の息子を怒らせたんだって?…あの息子の収監所送りは、有名だよ。あんたの他にも、此処とは違う特別な拘置所送りに、しているらしいよ。婚約者に嫌がらせしただけで、短期で此処に送り込まれた娘も居たっけ…。その娘は、直ぐ反省したから此処を出られたけど、二度と顔を合わせないよう、海外に移住させられたらしいよ。」
そう話すのは、年配の受刑者だ。本人の話に依ると、彼女は斎野宮家と並ぶ家柄の人物に怪我をさせ、此処に送り込まれたらしい。他の受刑者たちも同様に、上位の家柄の相手に歯向かっただけであり、一生涯を此処で過ごす程の罪状ではなかったのだ。それなのに、彼女達はもう何年も、長ければ10年以上過ごす者もいた。
鮎莉は…内心で焦った。自分が処罰を受けるのは、変だ。終了時期も、まだ半年以上残っている。これはきっと…樹ルートのイベントかも…と、そう納得することで全てを全否定していた。だから…樹が現れるのを、只管待っていた鮎莉。
そうこうしているうちに、彼女が来てから半年近く経っていた。もうすぐ…ゲームの期限が来て、乙女ゲームが終了してしまう。こんな筈では…なかったわ。
もう待てないとばかりに、暇さえあれば看守に「樹さんを呼んで!」と、頼み込む毎日で。肝心の看守からは、受刑者に命令されたと感じるほどで。他の受刑者達に「もう、諦めなよ。」と忠告され呆れられ、それでも毎日食い下がり…。そうして漸く、その希望を叶えられ……。
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鮎莉の期待は、樹本人により裏切られた。面会にやって来た樹は、非常に冷たい態度を見せつけ、冷酷な現実を突きつけて、鋭利な言葉を置き土産に去って行く。何もかも自分が正しいと信じていた、鮎莉。返す言葉もなくし、呆然と彼の後ろ姿を見つめた。現実の彼は、乙女ゲームの彼とは違っていた。鮎莉が漸く、現実を見た瞬間でもある。その後の鮎莉は、何もする気が起きず、受刑者として決められた日課以外、呆然と過ごしていた。そうして、数年経っていき……。
ある日、彼女の前に見知らぬ青年が現れた。青年は、収監所である建物の壊れた部分を直しに来た、工事関係者の1人であり、一時的にこの島に住むこととなった。彼は鮎莉と目が合う度に、にっこり笑いかけて来た。同年代の青年に会ったのは久しぶりで、鮎莉は時めいていた。自分好みのイケメンに微笑まれ、自分は…やはりヒロインなんだと、再認識したりして。
その日の夜、前世の夢を見た鮎莉。早朝に1人、ガバッと飛び起きる。胸の鼓動がドキドキと早鐘のように動き、彼女の顔は真っ青になっていた。それもその筈だ。この収監所が乙女ゲームの舞台だと、鮎莉は思い出したのだから。然も…自分はヒロインなどではなく、今回は…悪役令嬢なのだと。その乙女ゲームは前回のゲーム関係者が、面白半分で作成したおまけ的なゲームだったのだ。
「悪女化したヒロインが、バットエンドを迎えた後、収監所に入れられた先で、悪役令嬢の役をしたら…」という売り文句で、完全なお遊び要素で作られたゲームである。前回の悪役令嬢キャラ・麻衣沙の人気が上がり過ぎて、そういう要望が顧客からあったらしい。つまり、今回の乙女ゲームでは、麻衣沙がヒロインとなる。誰かに嵌められた麻衣沙が、この収監所に入ったところから始まり、それを助けに来るのが…あの工事関係者の青年だ。
青年は麻衣沙の幼馴染であり、麻衣沙を信じて新犯人を捜しており、この収監所に来たのは…その調査の一環で、という設定だ。新ヒロインの外見は麻衣沙でも、名前も異なる完全な別人である。悪役令嬢キャラの鮎莉も同様に、外見は鮎莉でも名前の違う別人だ。
この世界は乙女ゲームではなく、麻衣沙も此処には来ておらず、別の人物がゲーム同様に嵌められていたようだ。鮎莉はそのことに気付けず、自分の立場が真逆となることで、恐れ慄く。ゲーム上では、鮎莉の役が黒幕の駒であったから……。
イケメン青年に気があるものの、ゲームの強制力を恐れるあまり、自分からは近づけなくなる。その頃になって…漸く、瑠々華達悪役令嬢の気持ちが理解できるようになり。断罪される側が、こんなにも恐ろしいなんて…。前回は強制力がなかったけれど、今回は…どうなるの?
このオマケゲームには興味がなくて、実際にゲームしていない。自分が処罰を受けて此処に居るよりも、悪役として存在している今の方が、ずっとずっと怖い……。どうしてこうなったの…。神様、私…間違っていたよね?…これからは、真面目な人間になる!…だから、死ぬのだけは…嫌っ!!…良い子にするから、助けて…。
その後の鮎莉は、ヒロインが誰なのかを知らないので、必死で青年と関わらないようにし、威張らないようにと気を付け、我が儘を言わないように我慢して、彼女なりに頑張った。イケメン青年のことはスッパリと諦め、言葉も交わしていない。
ところが、鮎莉にとっては実に呆気なく、解決してしまう。あのイケメン青年の正体は大企業の令息で、この収監所にも口を出す権利を持つ程だ。彼は乙女ゲーム同様、彼の幼馴染でヒロインと思われる女性を、見事助け出して。そうして2人は…仲良くこの地を、去って行ったのだった。
鮎莉は心から、ホッとした。本来の彼女の性質であれば色々と邪魔をして、それこそ…あの青年の恨みを買っていただろうに。私は…生き残ったのよ。そう感じた彼女は神に感謝し、その後は真面目にお勤めしたのである。樹に一生出られないと言われていたが、彼女が20代後半になった頃、漸く釈放されることになって…。
久しぶりに娑婆に出た鮎莉は、あまりにも変わった風景に目を細め、街を眺めた。収監所に居る時に、会社を継いだ樹と瑠々華が結婚し、また岬と麻衣沙も結婚したと、噂で聞いて知っている。身分の違い過ぎる彼らとは、もう会うこともないだろう…とも理解している。自分がまた、愚かなことを仕出かさない限り。
久しぶりに自宅に帰れば、年老いた両親がいた。結婚した兄弟もおり、自分には甥や姪も出来ていた。自分の罪が、彼らに迷惑をかけているかもしれないと、本気で悔やんでいた。しかし彼らは何も知らず、何も変わっていなくて、変わったのは…自分の人生だけで。
両親や伯父さんには一杯迷惑を掛けたから、何もお咎めがなくて、良かったな…。樹さん達の恩赦に報いるよう、今後は…真面目に生きるよ。そう決意した鮎莉は、残りの人生を周りの人達と共に、前向きに生きて行くのであった。
決して…自分勝手にならないよう、身勝手な振る舞いをしないよう、自分にとって大事な人達のために……。まだ、やり直せる未来に向かって。
~~ 終わり ~~
元ヒロイン・鮎莉側の事情を含んだ第三者視点であり、敢えて鮎莉視点を外した次第です。完全に、本編後の後日談となりました。
前回で樹が呼び出された原因が、これでハッキリしましたね。完全にヒロインの所為でした…。一応元ヒロインが別のゲームで、悪役キャラに変身したことに依り、漸くルル達の立場が分かって改心し、8~10年ほどで釈放されました。処罰は、このぐらいが妥当かと…。
※今回こそ、最終話…と言いたいのですが、若干の急ぎ足となり、後1話追加するのも限界ですので、次回は…補足という形を取りたいと思います。因みにオマケ要素で、その後の主人公達の番外編も、追加したいと思います。…ということで、次回こそ間違いなく、完結扱いとなります。
※以前、この作品が完全終了する頃に、Twitterの方で登場人物に関するアンケートを実施する計画を、後書きにてお知らせ致しましたが、本日実施することとなりました。1人でも多くの方々に、ご参加していただけましたら幸いです。宜しければご協力のほど、よろしくお願い致します。




