後日譚4 漸く春が来た俺は…
前回と同じ人物の視点の、後日譚です。前日譚の部分も含みます。
※一部、少々過激な言動が見られるかも…しれません。ご注意くださいませ。
こうして俺とルルは、漸く両想いとなったのである。俺は嬉し過ぎて、締まりのない顔をしていたようだった。蛇に噛まれたその日の夕方には、ルルを含めた女性陣は藤野花家に移動した。俺はルルが居なくなってからも、若気ていたようで。
岬も光条も誰も何も言わなかったけれど、「…坊ちゃま。大体は見当がつきますけれども、お顔が…隙だらけですよ。」と真登里から言われて、漸く気付いた俺…。他の皆にも、バレバレだったかも…。真登里にもすっかり、呆れられたようだよ。ハハハハッ…。(※誤魔化し笑い中)
ううっ…。ダメだ、ダメだ…。別に、思い出した訳ではなくても、顔が自然に若気て行くようで。…ふう~。やっと…積年の恋が実ったばかりなのだから、少しばかりは見逃してほしいかな…。いや、やはり、ダメだ…。俺は今から、悪女の処罰を考えなければならない。若気ている場合では、ない。
「他の皆は、自分の彼女に被害が及ばないならば、俺達に任せてくれるそうだ。樹は…結論が出たのか?」
「…そうだな。俺も、考えを改めたよ。あの悪女には、思い切り後悔してもらいたい。それには岬が言う通り、生きていてもらわなければ…ね。」
「ああ。その通りだ。漸くいつもの樹に戻ったな…。先程まで、変だっだぞ…。大体の予想は、出来るが……。」
「………。コホン…(※気まずいので、咳払いをした)。まあ、そういう事だから、後の手配は岬に任せたよ。」
「ああ…。他の者達には、俺から話を通して置こう。」
そう告げて、岬はこの部屋から出て行く。やはり、完全に顔に出ていたようだな。岬にもバレていたな…。光条が今朝早くに帰って行ったと聞き、翌朝起きてから知らされ、光条の目の前で浮かれていて、悪いことをしたな…と反省する。流石に、恋敵の恋が明らかに成就した様子を見せられ、その恋敵の家に1晩宿泊するのは、気が滅入ったことだろうな…。光条、済まない……。
俺は積年の恋が実り、嬉しくて嬉しくて…つい、我を忘れてしまった。自分のことで手一杯で、相手のことを思いやることが…出来なかったのだ。そんな余裕もないなんて。…はあ~。反省しないとな…。
今回の活躍で、光条が案外と良い奴だと知った。見た目で判断していた俺は、間違いだった。光条は本当に、ルルのことが好きになっていたのだろう。しかし俺が相手だからと、すんなりと身を引いた。ルルが振り返る可能性も低いと、判断したのだろう。それでも告白しないまま、諦めてくれた。優しいルルが、気にしないように…と。
今後、光条が恋でもしたら、俺が手助けしてやろう、とさえ思っている。今回彼には、ルルの事で世話になったのだから、そのぐらいは当然だ。しかし…結局彼は、自分で大事な人を見つけた。ルルとは反対に、目立たない大人しい女性だけれど、磨けば光る原石のような女性だと思う。光条にはその女性の方が、お似合いだよ。ルルは結構なお転婆だからね。ルルには、俺しか…付き合い切れないと、思うよ。くくくくっ……。(※声を押さえて笑う)
「樹さん。私、貴方には…はっきりと、申し上げて置きたいことが、ございますのよ。」
「…何かな、ルル?……何か、嫌な予感がするけれど。」
「私、前世の夢を少しだけ…見ましたの。それで思い出したのですけれど、私の一番の推しキャラは…実は、麻衣沙でしたのっ!」
俺達は…とあるレストランの個室で、一緒に食事をしている最中である。何もかも全てが終わり、俺達も漸く恋人らしいデートをしていたら、何の前触れもなく唐突に、ルルが一大事という風に告げて来る。前世のゲームでの推しキャラが、麻衣沙嬢だと告げたのだ。俺は思わず、顔を強張らせてしまう。
彼女のあまりにも衝撃的な告白に、俺は持っていたフォークを、ポトッと床に落とし…。俺は蒼白な顔色をして、彼女を…ジッと見つめる。ま、まさか…同性が本命だとか、言わないよね…?
「………。まさか、君が好きなのが…同性だと気付いて、婚約破棄するとか…では、ないよね?」
「……はい?……いいえ。私は、前世での一番の推しが麻衣沙だと、お伝えしたかっただけですよ。」
「……はあ~。良かった…。でもそれは、友達として推しというだけで、異性の俺よりも推しだとか…という意味では、ないよね?」
…はあ~。安心した、そういう意味ではなくて…。どういう意味かと言えば、ルルが麻衣沙嬢に恋をしている…と、恋愛対象が女性であるという意味に、聞こえた訳だよ。推しキャラが俺だと聞かされていたから、ちょっぴり…ショックではあるけど、いや…恋愛対象ではないならば、友達の推しと異性の推しでは、違うよね…。本当に…ルルは何を言い出すか、全く予想がつかないよ…。
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俺は話の途中で立ち上がり、彼女の隣の席に座り直す。ルルが同性を好む訳ではないと、ホッと胸を撫で下ろしている時、ルルは今頃になって、俺が隣に座っているのに気付いたようである。ルルのそういう抜けた部分に、俺は…笑いが込み上げて来て、思わずフッと噴き出すと、彼女は口を尖らせた。…うん。こういう怒った顔も、可愛いよなあ…。
「ルルは本当に、何を言い出すやら…。全く目が離せないよ…。本気で同性が好きなんだと言われても、ルルなら…有り得そうだよ。」
「流石に、今は…麻衣沙のことは大好きでも、お友達としてですわ。…そうでなければ、いくら何でも……プロポーズに、簡単には…OK致しませんでしたわ…。お相手が…樹さんでしたから、OK…致しましたのよ。」
ルルならば十分に有り得ると告げれば、ルルは完全に否定して来た。その否定の言葉だけでも、ホッとしたのに。彼女は勇気を振り縛るように、自分の本心を…打ち明けてくれたのである。顔を真っ赤に染めながら。
俺は…感極まってしまい、ついつい思い切り抱き締めて。その後、長めのディープキスも…して。それから、ソファーに押し倒し…××……と。
「……んん!?……ちょっと、待って!!…い、息が…!?…ぎゃあっ!!……押し倒さないで!…ヘルプ、ヘルプ!!」
彼女が叫ばなければ、今回も…理性を失う寸前で。危ない、危ない…。ついつい…調子に乗ってしまった…。此処はレストランの個室である為、従業員や誰かが入って来たらどうするのかと、ルルには本気で怒られてしまった…。
俺が悪戯し過ぎた所為で、彼女の髪のセットや衣装が乱れてしまい、暫くの間…彼女の機嫌が直らなくて…。ルルには直ぐに謝ったけれど、中々…許してもらえそうにない。今後は、十分に気を付けよう…。このままだと、本気で嫌われてしまうかも。ルルに本気で嫌われたら、立ち直れなくなりそうだよ…。
その後、岬と麻衣沙嬢も正式に、恋人として付き合うことになった。麻衣沙嬢も嬉しそうにはにかんで、ルルと2人で報告し合っていた。お互いにおめでとう…と、祝福し合い…。俺と岬は、彼女達の近くで聞きながら。俺もルルにデレデレしているけど、岬も…人のことは、言えないだろ…。
平和な毎日を過ごす中で、俺は用事で近くまで出掛けたのもあり、地獄の収監所に顔を出すことにした。確認したいことが、出来たからだ。俺が面会に現れた途端、悪女は嬉しそうな顔で俺を出迎える。逆に俺は、胸糞悪い気分となって行く。
俺が好き好んで、悪女になんか会いに来るものか。収監所の刑務官から、嫌と言うほど悪女の話を聞かされた所為で、仕方なく訪れただけである。俺は仏頂面になって、元ヒロインと面会したにも拘らず、目の前の相手はご機嫌だ。此処から出られるとでも、思っているのだろうか?…相変わらず、理解不能な相手である。
「樹さん!…やっぱり私に、会いに来てくれたのね?…私…信じてたわ!…毎日のように、待っていたのよ。」
「お前は…馬鹿なのか?…俺が本心で、会いに来る訳がない。毎日俺の名前を出して騒いでいるようだが、二度と…俺の名をその口から出すな。俺も岬も…婚約者と結婚することが、正式に決まった。漸く、ルルがプロポーズを受けてくれたよ。俺はお前なんかに、構っている暇はないんだ。」
「…えっ?……そんな…。本当は私、樹さんが本命だったのよ!…漸くまた会えたと、思ったのに…。」
何が…本命だ。他の攻略対象達も、堕とそうとしていたくせに。乙女ゲームだと思い込んで、好き勝手していたくせに。俺の本音にも、全く気付こうとしないのに。ルルは天然だけど…ああ見えて、俺が悩んでいると何気なく、俺の傍に寄り添ってくれるのだ。普段は、逃げ惑っているのに、そういう時だけ寄り添ってくれて。
「お前の気持ちなど、今更どうでもいい。お前は一生、この孤島の収監所からは出られない。逃げることもままならないこの孤島で、一生を送ることになる。本当は俺は極刑を望んだが、岬に反対された。罪を犯せば厳罰になると分からせる為だけに、このような罰となった。俺は…お前を一生、許さない。俺の命より大事な、ルルを傷つけたお前を…。」
「………違う。…乙女ゲームの樹さんは、ここまで…腹黒くない……。」
普段以上の低い声音で告げれば、悪女はビクッとし、漸く…俺の腹黒さに気付いたようだ。当たり前だ…。乙女ゲームの俺と現実の俺は、別人なんだ。ルルもそうであれば、お前もそうであろうに。俺は悪女を…ニヤッと嘲笑い、高圧的な態度を取りながらも、去り際に言い捨てるようにして、俺は此処を去って行く。
「これで…永遠にお別れだ。二度と顔を合わせることは、ないよ。さようなら、乙女ゲームの元ヒロイン『和田 鮎莉』さん。」
悪女がどういう顔をしていたかは、定かではない。だが、俺にはもう…関係のない話である。さて…早く帰って、ルルに会いたいなあ…。この荒んだ気持ちを、ルルに慰めてもらおうかな…。
樹視点での続きで、後半の途中までは前日譚の内容となりますが、こちらもメインはその後である為、後日譚としています。
全体的にほのぼのムードとなっていますが、途中で再度元ヒロインのご登場で、樹のご機嫌が腹黒マックスに…。
ルルは結構、心の声が漏れていますね…。筆者が思っているよりも、天然…?
※一部、少々過激な言動が見られたかも…しれません。気分が悪くならなければ、良いのですが…。
※これで最終話…としたいところですが、後もう1名、どうしても書きたくて…。
そういうことで、次回が最終話となる予定です。




