第22話 イベント④ 岬ルート
今回は、ダブル主人公の麻衣沙視点となります。
副タイトルは、岬さんルートでのイベントであることを、意味しております。
※今回は、ちょっとした暴力行為が見られます。気分等が悪くならない様、お気をつけくださいませ。
瑠々には…ああ申し上げましたものの、かなりショックのご様子でしたかしら。余程…わたくし達と、ご一緒したかったのでしょう。あの後、一気に無言になられたかと思いましたら、ふらふらと立ち上がられて、「…私…帰ります。」とたった一言だけ言い置かれて、本当にご自宅に帰られてしまいましたのよ。あんなにも、エリさんのお宅にお邪魔するのを、楽しみにされておられましたのに…。そのエリさんが引き止められても、全く見えていないというご様子でして…。
「あの…マイお姉様。本当にルルお姉様がお帰りになられたのですけど、よろしかったんですか?」
「…ええ。あの状態のルルは、何も…目に入りませんし、何も…お聞きになっておられませんのよ。ですから、ご自宅にお帰りになられた方が、元気になると思いましてよ。藤野花家の使用人達は、優秀ですものね。」
「……そうなのですか。…残念ですわ。もっと、ルルお姉様が喜ばれる、御もてなしを…したかったのに。」
「…ええ。ごめんなさいね。…わたくしが断ったからですわね…。ですが、樹さんは…敵に回すには、恐ろしいお人なのですもの。それに…バレた時に、ルルの方が…不都合ですわ。ルルが…軟禁される恐れが、あるのですもの。」
「ああ!…あの…王子ルートでの、ヒロインのバットエンドですね?…ルルお姉様がヒロインのルートで攻略されているならば、王子に軟禁される可能性は、大ですよねえ…。…で以て、隠しキャラルートも進まれているようですし、本当に…洒落になりませんよ…。」
…そうでしたわ。本当に…洒落になりませんのよ。ルルは今、危ない橋を渡っている状態なのですわ。あの…樹さんの目は、ルルに対する執着の表れは、吉と出るかor凶と出るか…というところで。然も…あのヒロインですからね、救いにもなりません。彼女は、樹さんが最も嫌いなタイプでしてよ。
突如としてルルが居なくなられ、わたくしとエリさんとで勝手に日程を決定し、今日は解散となりました。予定よりも解散が早くなりましたので、わたくしは寄り道をして行くことに致しまして。本来は…ルルと共に寄ろうと思っておりましたが、ショックを受けられたルルへのお土産にと、わたくしは1人で街中を、買物することにしたのですが…。
「よおよお、姉ちゃん。1人で買物してんの?…良かったら、俺が他の店も案内してやろうか?」
「………。」
…はあ~。変な人物に、目をつけられてしまったみたいですわ。ナンパというものだとは、前世から見聞きしておりますし、よおく知っておりますわ。こういう時には、どういう対処をしたら…良いのかしら?…などと、考え込んでおりましたら、無視されたと思った男が、意外な行動に出て参りまして…。
「……無視すんなよなあ、綺麗な…お姉ちゃん。暇なんだろ?…俺が案内してやるって!…人が親切に言ってやってるんだから、従うのが筋だろ?」
「…!……痛っ!……離してくださいませっ!…警察を…呼びますわよ!」
目の前のナンパ男が、わたくしの手首を…思いっきり握りましたのよ!…痛いっ!わたくしも、危機感と恐怖が…募って参りまして、ともすれば…震えそうになる声と身体に、必死で力を振り絞って、普段は出さないような大きめの声を、張り上げましたのよ。ですが、目の前のこの男には、通じなさそうですわ…。どう…致しましょう……。
わたくしの顔色は多分、真っ青になっておりましたでしょう。何とか…歯を食い縛りまして、身体が震えるのを我慢しておりますのよ。この相手に怖がっているのを知られたら、この男の思う壺でしょうし…。絶対に…負けたくございませんのよ。わたくしはルルと同じお嬢様でも、根本的に違いますわ。ルルならばこの男のセリフを鵜呑みにしそうですが、わたくしは…この男が、何の目的でわたくしを狙っているのか、的確に…把握しておりますもの。ですから、本当は…怖くて仕方がありませんの…。神様、わたくしを…助けてくださいませ…。
「警察なんて呼ばせる訳がないだろ。さあさ、行こうぜ?……って、いってえ!何しやがんだ、この野郎!…てめえ~、誰だ!!」
「……何をしているのか、と言うならば、それは…俺のセリフだと思うのだが。このまま骨を折っても、俺は全く構わないのだがな…。少なくとも、か弱い女性に手を出した事については、きっちりと罰を受けてもらおうか?」
****************************
……えっ?!…何が…起こって…おりますの?!
わたくしが祈りに近い言葉を、心の中で唱えましたら、願いが…叶いましたの?…この最低男が、馬鹿げた言葉を吐いている最中に、男の手を掴み上げる人物が現れたのです。私の手首を掴んでいたナンパ男の手を、何方かが押さえてくださったお陰で、解放されましたのよ。ナンパ男が痛みでわたくしの手を離しても、助けてくださったお人は、ナンパ男の手を…更に上に捻ったのです。ナンパ男は、痛みで顔を顰めながらも、大声で文句を叫んでおりましたわ。そして、ナンパ男の手を捻り上げるように掴んでおられたのは、何と…岬さんでしたのよ。…えっ?…何故…岬さんが、此処に…いらっしゃるの?
「…何だよ、てめえ~!!関係ない奴は、引っ込ん出ろっ!!」
「…関係なくは…ないんだな、これが。彼女は、俺の婚約者だ。…自分の婚約者に手を出されて、黙っているような奴はいない。何なら、警察より…地獄を…見せてやろうか?…二度と馬鹿な事が、出来ないように………。」
「……なっ!……うぐっ!…いてえ~!!………ゆ、許してくれ~!…か、勘弁…してくれ~!!」
「これぐらいで、根を上げるとは……大したことがないな…。そのくせに…絡む相手を、間違えたよな…。」
「……ひいい~~!!……もう、ゆ、ゆるしてくれ~~!!」
…ううっ。此方にいらっしゃるのは、間違いなく…岬さん…ですよね?…わたくしの目が…おかしくなったのかしら?…樹さんに…見えますのよ……。声も…姿も…岬さんなのですが、中身が…樹さんにしか、思えませんのよ…。いつもは落ち着いていらして、どんな暴力にも言葉で戦うイメージの岬さん。その彼が…わたくしの目の前では、暴力を…振るわれておられますのよ…。嘘……。こんな岬さん、初めて…拝見致します……。相手の男を掴んだ手を離さないまま、お相手の大事な箇所に膝蹴りを入れられたり、ナンパ男を掴んでいないもう片方の手で、拳を握ってからお相手のお腹に、思いっきりパンチされたり、結構…手加減なしの罰だと、お見受け致します…。
相手のナンパ男はもう…涙目でして、先程の偉そうな口ぶりは、勢いを失くしておりました…。それでも、岬さんはこのナンパ男の手を決して離さず、バタバタと慌ててやって来た警備員に、漸く…このナンパ男を引き渡されまして。警備員さん、遅いですわよ…。岬さんが…ボコボコにされた後でしてよ。わたくしは…ただただ圧倒されて、それまで…岬さんがボコボコにされるシーンを、呆然とした状態で眺めておりましたわ。
「…麻衣沙、大丈夫だったか?…兎に角、何処か…休める所へ行こう。」
わたくしに話し掛けられた岬さんは、もう…いつもの岬さんでしたわ。今迄の出来事は…わたくしの夢なの?…きっと…そうですわよね?…わたくしが心から助けて欲しいと願いました途端に、選りにも選って、婚約者である岬さんが駆け付けてくださるなんて……。
あまりにも…わたくしに都合が良過ぎて、夢としか思えませんわ。ですが…わたくしの肩を、そっと押して移動を促される行動は、良く岬さんがされる行動の1つでして……。そっと…横を歩かれている岬さんを見上げますと、岬さんのお顔は…いつもとは、全く違っておられたのです。眉をギュッと顰めて、怒ったようなお顔をされていらして…。
現実の出来事なのだ…と、徐々に理解致しましたわたくしは、何となく…嫌な予感になりましたのよ。何故、こんな所に…おられましたの?…何故、都合よく…わたくしを助けられましたの?…何故、そんなにも…怒っておられますの?
「麻衣沙が落ち着くまで、此処で少し休もう。君が落ち着いたら、俺の家の車で一緒に帰ろう。」
「……いえ、わたくしの車を…待たせておりますから………。」
「いや、このまま…1人で帰す訳には、いかないな。君の運転手には、今から連絡して置けば良い。後から、俺の家の車で送る。」
そう仰られながらスマホを取り出し、何処かへ掛けられますが。…えっ?…何故、わたくしの運転手の電話番号を…?…まさか、本当に…運転手に、掛けられておられますの?…先程、わたくしにも仰られた通りに、自分が送るからと仰って電話を切られます。…ええっ?……本当に?…知ってみえますの?
「俺の運転手が、警備員を呼んで来た。今は…その警備員と共に、あの男を縛り上げて尋問していることだろう。どちらにしろ、まだ時間が掛かる。終わったら連絡が来ることになっているから、それまでは此処で休めばいい。」
……ああ。そういうことでしたのね…。騒ぎに気が付いた者も…何人かおられましても、巻き込まれたくないと、見て見ぬ振りをされたのでしょう。駆け付けてくださった岬さんと、岬さんの専属運転手さんが、助けてくださったのですね。
「…申し訳ございません、岬さん。ご迷惑を…お掛け致しましたわ。」
「何で、君が…謝るんだ?…君は謝るようなことは、何1つしていない。俺は…君を助けたかったから、助けただけなんだ。もしも、以前大学にも現れた和田という女性だったならば、俺は…助けていないだろう。」
前半でショックを受けたルルが、先に帰ってしまったので、暫く麻衣沙視点と…なっております。
本来の麻衣沙ならば、街中で1人で買物などしませんが、どうしてもルルを喜ばせたくて、買物に行ってしまった、というのが理由です。ルルに断ってしまった所為で、ルルが落ち込んだことに、本当は…心を痛めている彼女でした。




