第21話 ヒロインになりたくない
いつも通り、瑠々華視点となります。
漸く、樹さんルートでのイベントだと、気付くことになります。
私の家を突然訪問された樹さんと、私の通うダンス教室に出席致しまして、彼と何曲か踊り捲りましたのよ。以前から樹さんとは、ペアで何度も踊ったことがございますので、「息もピッタリだねえ。」と、ダンス講師にも褒められました程ですわ。そう言えば、先日までは光条さまとも踊っておりましたけれど、彼も中々にお上手で、私も踊りやすかったですわね。
ただ…どちらかと言いますと、樹さんの方がより上手く、私をリードしてくださいますかしら…。子供の頃からのお付き合いですからね、きっと私の癖なども、知り尽くしておみえなのでしょうね。子供の頃は、岬さんとも踊ったことがありましたわね。岬さんもお上手ではありますが、彼とは会話が続かず、単にご一緒に踊るだけ…ということも多くて、それが苦痛でしたわね…。岬さんは…愛想笑いもされませんし、無言で真顔は…キツイですよ…。
麻衣沙と踊られる時も、基本的に無言で真顔ですけれども、麻衣沙はよく耐えられますわね…。会話はなくとも、踊っている最中は…スマイルが基本なのですのよ。樹さんと光条さまは、その点は全く問題ございませんので、踊りやすいのですわ。私の婚約者が…樹さんで、良かったですわ。…いやいや、やっぱり…樹さんではなくて、勿論他の攻略対象者でもなくて、モブ以下のお人を望みます。樹さんも光条さまも、ハッピーエンドは恐ろしいので。
他の攻略対象ルートのハッピーエンドに、私が関係するかは…分かりませんが、樹さんと岬さんと光条さま以外のお3人には、各々恋人がおられまして。私達1年の担任である羽生崎教授は、もうすぐ結婚されるのだと、最近になって知りました。この3名に関しては、例のヒロインだろうと、Newヒロインだろうと、揺らぐことはないでしょう。
…いいなあ~。彼らルートの悪役令嬢さん達は…。攻略対象者と既に恋仲になっておりますし、余程の事態にならない限り、ヒロインのハッピーエンドには…成功しないでしょう。私と麻衣沙は現在、乙女ゲームと同じ設定になっておりますので、今更逃れられない上に、例のヒロインとは言えども、既に…私達に関わって来ておりますもの。
…などと…現実逃避しておりますが、現在の私は、オープンしたばかりのデザートのお店に、樹さんに連れられて来店しておりまして。どれも美味しそうで迷っておりますと、「今日のおすすめメニューが良いよ。」と、樹さんが教えてくださるので。その時の樹さんのセリフに、私の頬は…真っ赤なリンゴのように、なりましたのよ。…ひゃあ。イケメン攻略対象者の甘~いセリフを、ご頂戴…致しました。
「ルル、また一緒に…2人だけで来ようね?…絶対に、約束だよ?」
…んん?…このセリフに、聞き覚えがあるような、ないような…。そう言えば、あの乙女ゲームにも、似たようなシ~ンがあったような……。あれ、あれれっ?…これってもしかして、乙女ゲームの樹さんルートのイベントなの?!
…忘れてた!…すっかり、忘れていましたわ!…これ…間違いなく、樹さんルートでのイベントですわね…。…あ~あ、やってしまいました……。私、ヒロインのイベントを熟しているようです…。これではまるで、私がヒロインでは…ないですか~!?…ええっ!?…私が何故に、ヒロインのイベント熟してるの?!…ヒロインになりたくないのに!!
樹さんルートでは、ダンス教室のイベントはなかった筈です。エリちゃんが言ってらした通り、このダンスイベントは多分、光城さまのルートなのでしょう。それがどうして…こうなった?!…これではまるで…私が二股しているみたいじゃないかしら?…そうだよねえ?…他人から見ましたら、そう見えますわよね?…ガ~ン。私…そういうつもりはないのに…。どうしましょう?!
落ち着け…瑠々華。え~と、元々の樹さんルートでは、ヒロインとデザート店に来たのは。…う~む、そうでした。確か他の攻略対象達を、ある程度攻略して仲良くなると、樹さんがヤキモチを焼き、ヒロインをお店に誘う…という行動に出るのでしたわ。そうそう、先程みたいに…他の攻略対象の前で、仲が良いのをアピールしてから、掻っ攫うように連れ去るのです。
………。あれっ?…この状況、先程の状況に…似ていたりして…。嫌な予感が…。もしかしなくても、私…冗談抜きで本当に、ヒロインの立場に立っている…ということなの?!
Newヒロインは…私だったの?!…いやいや、それはおかしい…って。他の攻略対象とは接触していないし、光城さまとはそういう関係ではないし。…あ~もう、何が何だか…全然、分からないよお~!!
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さて、エリちゃんも漸く夏休みに入りまして、今度私達とご一緒に、最後の攻略対象のルートの悪役令嬢さんに、お会いしに行くこととなりました。専用運転手を抱えた私と麻衣沙は、何時でも会いに行けますが、極一般的な市民である彼のヒロインは、そう簡単に行ける距離ではないですね。乙女ゲームではその住んでいる場所の情報は、一切何も出て来ない訳ですし、最後の攻略対象である矢倉君が、何処から引っ越して来たのかは、全く情報がなかった筈ですわ。
結果的に、矢倉君は引っ越して来ておりませんし、今現在の住んでいる場所を知るする方法は、一般市民のヒロインには特定が難しいでしょうね。…という考えが、私達3人の共通の認識なのでして。
今は、その矢倉君ルートでの悪役令嬢こと、霧島さんに会いに行こう…という、計画を立てている最中です。その合間に、私は先日の出来事、樹さんとの『デザート店でのデートイベント』と思われるお話を、致しましたのよ。自分で言うのも恥ずかしいですが、「これ、樹さんルートでのイベントですわよね?」と、思い切って伺います。すると、麻衣沙もエリちゃんまでもが、首を縦にコクコクと振りながら、私の問いを肯定されましたわ。……やっぱり、そうなのですね…。私の記憶は…間違えではなかったかあ…。
「…ルルお姉様。見事にヒロインのイベント、熟されていますね。光城さんと言い、斎野宮さんと言い、ルルお姉様はモテモテですね?」
「…ち、違いますわよ。光城さまには、面白がられているだけですもの。樹さんも、誰にでも優しいお人だけで…。そういう意味はありませんのよ。」
「………。ルルお姉様って、お会いした頃から思ってましたけど、そういう方面は前世から苦手だったんのでしょうね。私の場合は鈍いと言うより、年齢差があるので分が悪くて、最初から諦めていたんです。その方がヒロインに盗られた時も、冷静でいられるから…と思い込んでいたので。でも…ルルお姉様は、私とは…何となく違う気がします。」
「そうですわね。ルルは鈍いと言うよりも、根本から理解していない、という感じでしょうか。ですから、ルルを中心としたイベントが、起こるのでしょうね。」
…何か、エリちゃんと麻衣沙に、可哀そうな子を見るような目で、見られてしまいましたわ。…ええ~~!…何でえ~!…私がヒロインのイベントを熟していることで、呆れられちゃいましたの?!…それより、エリちゃんは右堂さんが、ずっと好きだったのですね。記憶を思い出して、早めに彼を諦めた…と。最後は乙女ゲーム通りに、ヒロインに盗られる…と。なるほど……フムフム。確かにこれは、私の場合とは異なりますけれども。
え~と。2人だけで…会話を勧めないで、くださいな~。…おかしいですわねえ。お2人の仰りたいことが、私に…伝わって来ませんのよ。明らかに何か…誤魔化しておられませんか?…それに、私の言い分には、お2人共無視されておられますわよ…。私にも分かる言葉で、お話してくださいよお~。
「それで、その後はどうなったんですか?…デザートは、『今日のおすすめ』を食べられたんですよね?」
「えっ?…ああ、樹さんとのお話ね。ええ、勿論、食べましたわよ。とても美味しかったですわ。ですから、また来ようということになりまして、私も…もう少しで、流されそうになりましたけれど、お忙しい樹さんの手を煩わせることは出来ない、とお断り致しましたわ。」
「あらっ?…よくそれで、樹さんがご納得されましたわね?…いつもでしたら、ルルに何か遭ったらいけないから…と仰って、ゴリ押しされますのにねえ。」
「………。」
私の話は、デザートを頼んだところで中断しておりまして、エリちゃんに続きがどうなったのかと聞かれましたのよ。取り敢えず、お断りを申し出たところまでと、ご報告したのですが。麻衣沙には…見透かされておりますわね…。麻衣沙は意味ありげな表情をされ、私の顔をジッと見つめられまして。……うっ。嘘は…吐けそうもありません……。
「そのご様子では、やはり樹さんに、ゴリ押しされましたのね?…それで結局は樹さんとご一緒にしか、そのお店にはいけないということですのね?…ふふふっ。それでは仕方ございませんわねえ。わたくし、そのお店の割引券を手に入れましたのですけれど、ルルは…誘えませんわ。残念ですわね…。それならば、エリさんと2人で行きましょうか?」
「まあ!誘ってくださるんですか?…マイお姉様からのお誘い、嬉しいです!…絶対に行きます!」
「……えっ?……私も……。」
「ルルは駄目ですわ。樹さんとの大事なお約束なのでしょう?…わたくし、樹さんを…本気で、敵には回したくございませんの。まだ…死にたくありませんもの。ごめんなさいね、瑠々華さん。」
さて、前半で漸く、樹さんルートでのイベントだと、気付いたルルなのですが、ヒロインになりたくない気持ちが強過ぎて、現実を直視できません…。
麻衣沙が瑠々華に対して、他人行儀な態度を取っている部分がありますが、単に友人を揶揄っているだけで。当の本人は…それどころではないですが…。
また、麻衣沙が物騒なセリフを言っていますが、これも…冗談というか、大袈裟に言っている、と言いますか…。流石に、麻衣沙に手を出せば、瑠々華が起こったり悲しんだりする為、樹も…本気ではしない筈……?




