第10話 ハピエンはトラウマです!
前回からの続きですが、前半と後半の視点が変わります。
いつも通り、前半は瑠々華視点となります。
「麻衣沙ったら、失礼ですわねえ。私、こう見えましても、大事なことはきちんと伺っていましてよ。」
「あらっ?…それでしたら、貴方の婚約者である樹さんが仰ったお話は、聞いておられましたの?」
麻衣沙ったら、本当に私相手だと、言いたい放題なのですもの。…んん?…樹さんの…お話?…私は何を言われたのか分からず、首を傾げて考えます。…ああ、あれのことね!
「勿論、お聞き致しておりましたわ。樹さんが心配してくださったことですわよね?…樹さん、ご心配をお掛け致したようで、申し訳ありませんでした。私は見ての通り、大丈夫ですわ。」
「……ああ、うん…。そうだよね…。」
「…??…」
そう言いましたら、私はまだ樹さんに、ご返事しておりませんでしたわ。慌てて…ではなく、令嬢らしくゆっくりと樹さんに向き直り、先程のご返答を致しましたのよ。ですが、肝心の樹さんは、何かを期待されていたご様子でして、私の返答に明らかに…ガッカリされたようでした。すっかり肩を落としておられます。
…え〜と、何なのでしょう?…私、何か…期待させるような素振りを、致しましたかしらねえ?
その後は、麻衣沙のお話の続きは、合宿先の宿に着いてからと言うことになりました。今は先程のヒロインのことは忘れて、折角の大学の旅行ということで、楽しむことにしたのです。同じグループのお友達と一緒に、色々と回ったり買物をしたりと、楽しく過ごしましたのよ。
これで…樹さん達と別行動でしたら、もっと自由を満喫出来ましたのに。…と考えないでもありませんけれども。先程のヒロインは、樹さんと岬さんが彼女を拒否する度に、私達の方をチラッと牽制するような目を、寄越して来たのですよねえ。
彼女の伯父さまや母親と立ち去る時にも、私達…と言うよりも、私をひと睨みしてから、去って行ったのです。その時のヒロインの顔が、般若の如く…酷いお顔でしたのよ。あれには私も…顔が引き攣るぐらいに、恐怖を感じましたわね…。
やっぱり彼女は、私達よりも素晴らしい悪役が、熟せそうですわねえ。
今からでも、交代してもらえないものかしらね?……なんちゃって。
まあ、あのヒロインが悪役令嬢に、自らシフトする訳がないですわよ。自分はヒロインなのだと思い込んでいて、何でもして良いと思っているご様子ですものね。
性格が物凄く悪そうでしたもの。昔読んだ物語の中に、ヒロインと悪役令嬢の立場が逆転する話がありましたけれど、あのヒロインならそうなりそうですわよ。
いや~、子供の時から麻衣沙と協力して、樹さんや岬さんと友好関係を築いて置いて良かったわあ。あのヒロインに溺愛された樹さん達から、私達が酷い目に遭わされるというのは、割に合わないですからね。
「ルルは、それが気に入ったの?」
「…んん?……あれっ?…樹さん?………あれっ?…麻衣沙は?…同じグループの…他の女子は?…皆さん…何処に?」
「うん?…麻衣沙嬢なら、岬と一緒に居ると思うよ。他の女子は、俺達のグループの男子と2人組になって、一緒に行動しているみたいだね。」
「………はい?…えっ?…それって、男女ペアで…?」
「うん。そうだね。男女のペアだね。俺とルルも…ペアだよね。」
「………。」
いっ、いつの間に………。ああ……。私が考え込んでいた間に…ですよね…。
や…やられた……。選りにも選って…この合宿イベントで、樹さんと2人っきりにされるとは。麻衣沙~、ヘルプ・ミー!…カムバックして来て!…樹さんと2人っきりなんて…ヤダよ~~~。……本気で泣きそう。
何でここまで…樹さんを嫌がるのか、それは…彼のルートでのハッピーエンドで、私こと悪役令嬢の瑠々華に対して、彼が酷い仕打ちをするからである。ゲームの彼は、普段は穏やかで優しいのですが、その分…瑠々華に対しての態度は物凄く冷たくて、悪役令嬢への最後の復習が…正直言って怖かった。それに彼のバットエンドでも、ヒロインの軟禁とかあったりして、ヤンデル化するのですよね…。
バットエンドでは、悪役令嬢として嫌われて捨てられるぐらい、ですけれどね…。
やはり問題は、ハッピーエンドの方ですわよね…。これまで悪役令嬢として行って来た悪事を全て暴かれ、殺された方がマシという扱いを受けるんですよ。
勿論、死亡するルートもありましてよ。一時的に監禁されて、暴力と言いますか…何と言いますか、言葉攻めとかもありますし、鞭打ちみたいな罰もありますし。
そういう訳でして、彼に…物凄く恐怖感を、持っている訳ですのよ、私は。
死亡ルートはその延長線上にありますので、一種のトラウマになっているのかも…しれませんねえ…。……がっくし。
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瑠々華と樹さんが2人っきりにされている一方で、わたくしと岬さんもご一緒に2人っきりで回っておりました。今頃…ルルは、妄想から戻っていらっしゃる頃かしら?…それでしたらきっと、樹さんと2人っきりになって、再び…妄想で、現実逃避されていらっしゃることでしょうね?…まあ、彼女に比べましたら、わたくしの方が、マシな待遇なのでしょうけれども。
少し先を歩いていらっしゃる岬さんに、わたくしは目を向けながらも、乙女ゲームでの岬さんルートについて、考えておりましたわ。樹さんのルートほど鬼畜ではございませんけれども、岬さんルートも、中々に嫌なルートでしたのよ。ルルの場合とは異なりまして、バットエンドでの悪役令嬢・麻衣沙の場合、岬さんと添い遂げることになりますので、こちらについては…何も、問題はございませんのよ。
問題は…ハッピーエンドですのよね…。
岬さんルートに於けるハッピーエンドでは、わたくし…麻衣沙は、事故に巻き込まれての死亡ですわ。現実の瑠々は単純な…ええと、人を信じやすいお人ですから、単なる事故死だと思っておられるので、まだわたくしの方がマシな待遇だと、心より思っておられるのですが、実はあれは…ゲームでの岬さんの画策だと、わたくしは思っておりましてよ。ゲームでの岬さん、結構な裏があるお人のようですもの。単なる事故に見せかけた事故死と、わたくしには感じられますのよ。
だって…伊達に…ゲームでの岬さんを、推し捲っておりました訳ではございませんものね。要は、岬さんが一押しでしたのよ。
ゲームを攻略した覚えはございませんのに、何故か推しキャラが存在したという、不思議な現象ですわね…。まあ、それは…置いておきまして。悪役令嬢の事故死には、色々なパターンがございましたのよ。先ず典型的なパターンである、車に撥ねられての事故死。道を歩いていましたら、知らないガラの悪い人物に因縁をつけられて、車の前に飛び出したという理由でしたわね。次に多かったパターンは、何処かの建物の屋上から落ちる、という事故死。これも同様に、誰かに追いかけられて逃げるという理由でして、追い掛ける人物がガラの悪い男性から、今迄虐めていたと思われる女子生徒達に、変わっていたぐらいですわね。
他にも、何かが倒れて来てその下敷きになったとか、何処かのビルに迷い込んだら閉じ込められてしまって…とか、お買物中に通り魔に偶然刺されて…とか。
そういう事故死も、岬さんの進むルートによっては、ございましたわね。一応は全て、事故死として扱われておりました。ですが…ゲームでの岬さんは、現実の岬さんよりもずっと腹黒いお人のようでして、ほぼ間違いなく…ゲームの岬さんの復讐だと思われましてよ。あのゲームの彼ならば、有り得なくはない…ですものね?
「麻衣沙?…さっきから黙っているが、やっぱり…瑠々華さんのことが心配なのか?…そういうことなら、2人の所に戻ろうか?…樹は、機嫌が悪くなるだろうけどな…。」
わたくしが考え事をしながら歩いておりましたことに、岬さんは勘違いされたご様子でした。岬さんは、ルルが樹さんを怖がっておられるのを、何となくご存じなのですわ。ですから、わたくしが心配申し上げておりますと、思われたのでしょう。現実のわたくしは確かに、同じく現実の岬さんに対して、距離をある程度置いておりますわよ。ですが…ルルほどではございません。ルルは隠し事が出来ないくらいに、樹さんに対して引き攣られておりますものね。本当に…馬鹿正直ですもの。
外ではこうして、考え込まないようにしておりましたのに。考え込んだわたくしを心配されたようでして、岬さんはルル達の元に戻るかと、聞いてくださいまして。そうですね。戻りたい気持ちもございますけれど、今戻りましたら…きっと間違いなく、ルルは安心されるでしょうが、樹さんは…ご機嫌が麗しくなくなられますわよね…。そういう時の樹さんは、わたくしにも嫌みを言われたりしますのよ。
ですが…ご親友と言いますかご悪友と言いますか、主に棘が向かう先は…岬さんなのですよね…。そうなんですのよ。現実では、腹黒いのは樹さんの方でして、岬さんは真面目で寛容なご性格なのですわ。全く腹黒くない…とは申しませんけれど。
「いいえ、戻りませんわ。ルルには申し訳ございませんけれども、樹さんのご機嫌が頗る悪くなられるのは、合宿中は控えていただきたいですわ。ですからわたくしも…合宿中に於いては、邪魔は致しませんのよ。」
「はははっ。そうだよな。でもまあ、樹が傍に居る以上、何か不測の事態が起きても、瑠々華さんは大丈夫だろうからね。」
「……確かに…そうですわね。…ふふふふふっ。」
まあ、確かに…ヒロインの攻撃ならば、大丈夫そうですわ。岬さんには…本当の理由は、理解出来かねますわよね…。………ふっ。(※苦笑です)
前半は瑠々華、後半は麻衣沙視点となっています。
今回は、樹と岬のルートでの彼女達の最終結末を、具体的に述べています。
要は、ヒロインに於けるハッピーエンド時ですね。大抵は悪役令嬢にとっては、
バットエンドとなりますので、その辺を纏めてみました。




