第9話 婚約者達のお怒りモード
前回からの続きです。いつも通り瑠々華視点となります。
「俺達は、君の名前も知らないというのに、何処で聞き知ったのか知らないが、俺達の下の名前を…気安く、呼ばないでくれないかな?」
「そんな……。私、名前…名乗ったのに…。私、『和田 鮎莉』です。私のことも、下の名で呼んでくれていいですよ!」
「悪いが、君の名前を…今後も覚える気はない。さっさと、この場から消えてくれ。今後、俺達の婚約者の悪口を言えば、その時には…容赦しない。」
樹さん、このヒロインの名前…知らなかったんですのね?……名前も知らない相手に、下の名前で気安く呼ばれましたら、気持ちがお悪いですわよね?…目の前に居るヒロインも一応は名乗ったようですが、めげずに名乗るところは、空気読んでいませんよね…。樹さん達は、このヒロインが…余程お気に召さないのでしょう。
岬さんが、ヒロインの言葉をぶった切るようにして、拒否されます。ヒロインの名前を覚える気は全くないのだと言い切られまして、私達婚約者を庇われるようなお言葉を、仰ってくださいました。岬さんも、私達悪役令嬢に…優しいです。
横に立っておられます麻衣沙を振り返り、お顔を拝見致しますと、彼女のお顔はほんのり赤くなっておられました。…うふふふっ。麻衣沙も…嬉しいですわよね?
彼女は、自分のお気持ちはあまり吐露されませんので、誤解をされやすいのですが、本当はお優しくて思いやりのある、芯の強い女性なのですのよ。そして…同時に、傷つきやすい繊細なお人なのですわ。普段は感情を押し殺されて、無理をしてでも冷静なフリをされておられます。
実は…私も、ちょっぴり感動しておりますの。樹さんと岬さんが必死に私達を守ってくださっているのが、そのお気持ちが…伝わって参りまして。本気でヒロインのセリフに怒ってみえて、ヒロインと決別される行為は、嬉しくなりましたわ。
まあ、それも…Newヒロインが登場するまで、かもしれませんが。それでも良いのだと、私は…顔が笑いそうになりながらも、必死に表情を保っておりました。
「………そんな……。騙されているのよ、2人共。私の話を聞いて!」
ヒロインはまだ、自分が正しいと言いたげですね。ヒロインは…電波系タイプですね。人の話を全く聞かず、自分の都合の良いように理解するお人でしょう。
厄介なタイプですね、ヒロインは…。この世界は私の為の世界だとか、ヒロインは何をやっても許されるとか、この世界はゲームの世界なので、自分は好かれるのが当たり前とか、きっと…思い込んでいるのでしょう。…うわあ。お馬鹿で電波系…ですか…。本当に救いようがない、ヒロインですよね…。
「…和田さんと言ったよね。何を根拠に俺と岬の婚約者を、貶めているのかな?見たところ、君は一般市民だよね?…俺と岬の婚約者は…君と違い、大財閥のご令嬢なんだよ。その違いが分かっているのかな?…君の名誉ぐらいなら、大したことはなさそうだけど、彼女達の名誉棄損で、君が訴えられた時は、そのお金を支払えるの?…君の今の態度では、確実にそうなるよ?」
「……えっ?!…………名誉棄損?…私が訴えられる?」
「…そうだ。君は、彼女達を侮辱し過ぎている。賠償金が支払えないのならば、君は刑務所に入ることになるだろう。」
相当なお怒りモードだった樹さんですが、彼女が一般市民で私達がお嬢様という違いから、ただ追い返す方向から脅しに変更された模様ですわね…。…う~む。
あまり使いたくはない方法ではありますが、彼女みたいな空気読まなくて、自分が絶対的なお人には、こちらの方が効果はあるかもしれませんね。但し、意味が分かればですが。
岬さんも同意見でいらっしゃるのか、一層リアルな言葉でヒロインを追い詰めようと、されておられますわね。岬さんも、普段の柔らかい表情の彼とは異なり、今は表情を硬くされていて、樹さん同様に怒りモードなのが分かります。
ヒロインも漸く状況が理解出来たのか、お顔の色が青ざめていき、頬をひくつかせておられましてよ。それでも、まだ彼女は何かを言おうとして…。その時、彼女の後方から、大声で怒鳴りつける声がして…。
「鮎莉!!…こんな所で、お前は一体何をしているんだ!『まだ…就職したくない。来年こそは大学に入学したい。』と我が儘を言うから、態々俺が特別に勉強を見てやっているのに…。それなのにお前は、本気で勉強するつもりがあるのか!…このままだと受かる大学は、1つもないぞ!…本当に分かっているのか、鮎莉!」
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「お、伯父さん……どうして、此処に…。」
「…どうして此処にいるかだと!?…いつものようにお前の姿が見えなくなり、お前が行きそうな場所を、虱潰しに1つ1つ当たってみたら、やっぱりお前の好む堀倉学園付属大学の関係だったな。まさか…大学の合宿先にまで押し掛けているとは、思わなかったぞ。その意欲が勉強の方に移せれば、来年は何処かの大学に入れるだろうに…。兎に角、時間の無駄だ。今日中に帰れなくなる前に、帰るぞ!」
大声でヒロインを怒鳴ったお人は、ヒロインの伯父さんでしたのね…。大学のこの合宿先にまで、ヒロインを迎えに来られるとは、お疲れ様です…。高速道路を利用して、何時間も掛かって来られたのに、観光もせずにとんぼ帰りされるのですね。思わぬ伯父さまの登場で、真っ青になっておられたヒロインでしたが、最後の抵抗とばかりにヒロインは「待って、伯父さん!」と叫んでおられます。
そして…彼女は、「伯父さん、私…受験に落ちた理由が分かったわ!あのね、それは…ね。実は……。」と、言葉を続けようとしたヒロインでしたが、その伯父さまの後ろから現れた女性に、ヒロインは肩をビクッと揺らし、目を大きく開いて…。
「あんたって子は…昔から妄想癖があって、嘘ばかり吐くダメな子だったけど、まさか…ここまで、馬鹿な子だとは思わなかったわ。…今すぐ、家に帰るわよ!…鮎莉!!」
「………お母…さん…。………。」
ヒロインの前に現れた女性は、ヒロインに似ている…と思いました。…いえ、この目の前のケバいヒロインに似ているのではなく、乙女ゲームのヒロインの姿に。
ヒロインがそのまま、年を取ったような姿でしたのよ。年齢的には、丁度ヒロインの母親ぐらいの雰囲気ですね。そしてその女性は鬼の形相で、ケバいヒロインに命令して、彼女は伯父さまと母親に連れられ、悄悄と帰って行かれました。
帰られる時には、伯父さまとヒロイン母は、「ご迷惑をお掛けしました。」と私達には頭を下げられ、「お騒がせ致しました。」と、周りの人々にも謝られていて。うむ…。こんな常識のある人達の家から、何故…あんなにも、自分勝手のヒロインが、生まれて来たのでしょう。…ああ。やはり…転生者だからなのかしら?
彼女の前世が、そういうお人だったのでしょうね…。
母親である女性が、ゲームのヒロインに似ているのならば、ケバいヒロインの素顔も、ゲームのヒロインのご容姿で間違いないのでしょう。それにも拘らず、あのケバい程のお化粧と派手な服装は、何を考えられましたら、ああなってしまったのでしょうか…。残念過ぎます。ゲームのヒロインのご容姿ならば、そのまま素顔の方が断然モテますでしょうに。
「2人共、大丈夫だったか?」
「ルル、大丈夫だった?…あの女に睨まれていたけど、怖くなかった?」
ヒロイン達が完全に帰って行きますと、岬さんは、私達2人を心配してくださいます。樹さんはこういう時には、私だけに声を掛けられ、婚約者を優先されるのですのよ。樹さんが誰にでも優しいお人でなかったら、勘違いして好きになってしまうところですわね…。逆に岬さんは、こういう時でも私も含めて心配されるという、婚約者以外にも気を配られるお人なのですわ。樹さんの(表向きの)婚約者でなければ、これまた…勘違いして、好きになってしまいそうですわね。
流石は…乙女ゲームの攻略対象者です。気遣いが、半端ではありませんもの。
ヒロインも是非とも、見習ってもらいたいレベルですわよ。そうでなければ、すんなりと婚約者の立場を引き渡せませんわね。(※あのヒロイン限定です。)
Newヒロインさんには、乙女ゲームレベルの好印象のお人を、募集致しますわ!
「わたくし達は大丈夫ですわ、岬さん。樹さん。ルルは今、心此処にあらずの状態ですので、話し掛けられても無駄ですわねえ。」
麻衣沙はそんな私をチラッと目にして、私に代わって答えてくださっていますが。心此処にあらずでも、ちゃんと聞こえておりますよ、今は。(※聞こえているだけで、聞き流している状況でもある為、暫くしたら直ぐ忘れます。)
「…くくっ。マイペースのルルらしいなあ。何時でも何処でも自分の世界に入れるルルは、凄いよね。まあ、そこも可愛いんだけど。でも…あの女が、最後に言い掛けた言葉が、何とな~く気になるんだよね〜。どうしたものかな?」
「そういうことでしたら、わたくしは彼女が何を言われたいのか、何となくですが分かりましたわ。ここでは…言えませんけれど。」
麻衣沙の応答に対し、樹さんは私が大丈夫だと安心されたようで、代わりに…ヒロインの言いかけた言葉を、気にされておられるようですわね。麻衣沙は、その樹さんの疑問に対して、心当たりがあると告げられまして。…えっ?!…それ…私も超気になります!…そこでやっと覚醒した私は、麻衣沙に食い突くように、彼女の方を振り返りましたの。
「私も!…ぜひ知りたいですわ!」
「…あらっ?…いつもよりお早い復帰ですこと。今回は、耳に入っておられましたのね?」
ヒロインの所為で、樹と岬が爆発寸前のお怒りです。
電波系のヒロイン書いていると、何となく……な気分ですね…。
瑠々華の設定は、本来天然ではない筈なのですが、何だが天然っぽい…?




