53:絶対に笑ってはいけない
「《呪われた強欲》は……クソ共の集まりだ…」
露骨に顔に怒りを浮かべながら、レナードはそう言った。
「お、おい……どうしたんだよそんな顔して。何かあったのか?」
「あいつらは……オイラに《特異系》が発現することになった元凶だ」
「なっ……!」
6つの系統のうち、《回復系》は誰かを助けたいと願ったときに発現する。そしてーー
「《特異系》は、死の淵からーー絶望から脱する力を願ったときに発現する……」
だからこそ、難しい。
俺達はユリウスが小さい頃から訓練してなまじ強くなってしまった分、そんな窮地に陥ることが難しかった。安全第一思考が裏目に出てしまった形だ。
しかもこれ、誰も助けに来てくれないようなヤベー状況じゃないと滅多に発現しないらしい。某野菜の星の王子達みたいに無理やり半殺しにしてもらってパワーアップなんてできない。
だから大半が発現しないまま命を落とすらしいけど、どうやらレナードは無事に発現して今ここにいるようだ。
「よく知ってるじゃねえか。そうだ。まあ《呪われた強欲の奴らとやり合ってるときに発現したわけじゃねえけどな」
「その話、聞いてもいいのか?」
なかなかデリケートな部分っぽいし、どうだろう。なんせ命に関わることだもんな。あまり話したくないかもしれない。
「いいぜ。あいつらのことを思い出すと腹立つけどよ、これもオイラの武勇伝の一つだからな。特別に話してやるよ」
レナードは誇らしげに、そしてやや自慢げにそう言った。
なんだろう、実はこいつはそんなに悪いやつじゃないんじゃないか。俺達と戦ったときの凶暴さはすっかり鳴りを潜めていた。
「お願いするよ。言いづらいことがあったら言わなくていいからさ」
「おう。まず、オイラの実家は料亭なんだ」
「ブフッ」
「ふんっ!!」
「いだっ?!」
殴られた。頭をグーで殴られました。
俺に笑いが込み上げた瞬間に振り上げてなかったか?なんて反応速度だ……!
というより、レナードの実家が料亭って。狼人族の誇り!って言ってたのに実家が料亭ってのはギャップが面白すぎる。
「オイラがガキの頃から、今のてめえみてえに笑う奴が多かった。誇り高い狼人族なんてものはもういねえってな」
「そ、そうだったのか。ごめん……」
「周りの奴らにどれだけ笑われてもオイラは認めなかった。そんな奴らは一発殴ったら黙りやがるからな」
俺は黙って頷いた。一発殴られたから黙ってるんじゃないぞ。真面目な話だからね。
「けど、それじゃダメだって気づいた。あいつらには根っこが足りねえんだ。狼人族の誇りって根っこがよ」
「だからオイラは2年前ぐらいに家を飛び出した。この世界で一番の偉業っつったら塔を制覇することだ。だからオイラが塔を制覇してよ、今の狼人族のバカどもに言ってやるんだ。どうだ!オイラ達の血はすげえだろ!ってな」
「オイラが根っこになってやる。そんでもって全ての狼人族が自分に誇りを持てるようにするのさ」
「ま、そんなわけで塔制覇を目指したわけだ。肝心の願い事ってやつは考えてねえんだけどよ」
一旦レナードが話を終えた。
感想をくれって顔をしている。わざわざそんな顔しなくても言うのにさ……。
「……なんか、すごいな。一族のためにとか。俺、レナードのこと勘違いしてたよ」
正直、めちゃくちゃバカっぽい願い事があるんだと思ってた。世界一のお金持ち!とか、モッテモテのハーレム王!とか。まあ、この話を聞くまでにも印象はだいぶ変わってたんだけどね。
それが、実際どうだ。願い事はない。塔制覇を一族再興の手段として使うなんて。やることが極端と言えばそうかもしれない。けど、それが誰かのためにって動機ならカッコいいんだ。
「ハーハハハ!オイラはすげえぞ!もっと褒めろ!」
「おお!あのときのレナードだ!」
パチパチパチと拍手を送った。
戦闘中のレナードの笑い声はめちゃくちゃ癇に障ったけど、本当の人間性を知れば問題なくなった。
「ヨッ!狼人族の導き手!」
「ハーハハハ!そうだそうだ!オイラが一番だ!」
「ヨッ!俺達の命の恩人!」
「ハーハハハ!もっと感謝してもいいんだぞ!」
なんだか拍手をしているうちに楽しい気分になってしまった。
思いつく限りレナードを褒め散らかしているとーー
「治療院ではお静かにお願いします!!」
看護師さんに怒られてしまった……。
ピシャリとドアを閉められ、部屋に沈黙が訪れる。
「えーと……さっきの続きを頼むよ」
「あ、ああ。オイラがここに来るまでを話したんだったな」
「そうそう。そっからどうして《呪われた強欲》に出会ったのさ」
「最初はそんなこと知らなかったんだ。あるとき、オイラに2人の只人が近づいてきやがった」
雲行きが怪しくなってきたぞ……。
レナードと《呪われた強欲》、その関係やいかに……!
すでにお気づきかと思いますが、アキトはふつうに失礼なことを考えたり、わりと常識がないところが多いです。




