2026 W杯の年
ゴールをして振り向くと、鈴がやばいことになっていた。
バツ出してるじゃん!
なんで、続けてんだよ!
律もバツ出してんのに!
審判も鈴も、なんで続けてんだよ!
確かにうちには交代選手も担架要員もいないけど、どう見たってサッカー続けられる状態じゃない。
鈴がこっちを向いて、にっと笑った。
やる気なのだ。
まさか……このバツ、鈴は勘違いしてる?
「やめねーよ」のサインとか?
いや、
やる気なんだ。
さっきの1点で勝つ気なんだ。
没収試合にはしたくない。けど
やばいヤツでしょ?
律!下げないと!
え?
もう監督の顔になってる。
やっぱり律はバカだ。
バカばっかり。
このチームはバカばかりだ。
勝ち点3のために、あと3分足らずのために。
一番バカなのは鈴だ。
審判が鈴に近づく。
「続けられますか?」
鈴は頷いた。
いや、頷くなよ。
ちょっとふらついてるし。
でも。
その顔は、なんか楽しそうだった。
……なんなんだよ。やるしかないじゃん。
「鈴! 左!」
私は叫ぶ。私もバカだ。
鈴が動く。
足はもう重いはずなのに、ちゃんとライン側へ追い込む。
縦を切る。
相手が迷う。
そこを、私が奪う。
また鈴が離れて、パスコースを作る。
反応が少し遅い。
でも、そこにいる。
私は強めにパスを出した。
鈴の身体が少し揺れる。
でも、逃げない。
ワンタッチ。
私の前のスペースへ流れる。
走れる。
ああ、これ。
気持ちいいヤツだ。
試合中なのに、なんか少し笑いそうになった。
最初、鈴は本当に酷かった。
ボールは止まらないし、ターンもできない。
私のパスを怖がってた。
いや、今も怖いとは思う。
でも、挑む。
逃げない。
そして、ちゃんと私を走らせる。
律は、最初からこれをやりたかったのか。
サッカーで壁になるって、「いる」だけじゃない。
怖がらずに、そこに立てることだ。
鈴は、それができる。
私が鈴にイライラしていたのは、自分の未来を重ねてたかもしれない。スピードに頼れなくなった、脚力の劣った自分は、サッカープレイヤーなんだろうか?それをみっともないサッカーと思うのだろうか。
鈴は、そんなん吹っ飛ばしてくれた。
サッカーバカは、バカらしく、サッカーに夢中になってりゃいいんだ。
残り時間は少ない。
相手も前に出てくる。
7人対8人。
広すぎるピッチ。
でも、誰も止まらない。
あっちもこっちも バカばっかり(笑)
DFが叫ぶ。
GKが叫ぶ。
「瑠!行け!!」
わかってるって。
あー!なんか、楽しい!
私は、ボールを蹴って前を見る。
いける。
その瞬間、相手GKが必死に止めに入った。
さんきゅ。
かわしてシュート。
「っしゃぁ!」
ゴール!
ホイッスル。
試合終了。
その瞬間、鈴がその場に膝をついた。
私は思わず走った。
ベンチに帰ろうとする鈴に
「りーん!あいさつ!」律が叫ぶ。
あいつ、鬼だな。
鈴はよろよろしている。
やっぱ限界じゃん。
2-0
審判が勝利の宣言。
あいさつをする。勝ち点をもぎ取った。
肩を支えてベンチに帰りながら、私は言った。
「だから止めろって言ったんだよ」
鈴は、はぁはぁ息をしながら笑う。
「やれって言ったじゃーん」
「バツ出した!」
「あれ、交代なしじゃないの?」
え。
律を見る。
律も固まってる。
「いや俺、止めろのバツ」
「え?」
三人で黙る。
なんだそれ。
バカじゃん。
いや、本当にバカしかいない。
でも。
私は、その瞬間、どうしようもなく笑えてきた。
サッカーって、こんなだったっけ。
もっと殺伐としてて、もっと苦しくて、もっと勝ち負けしかないものだと思ってた。そして、いつまでこのサッカーができるかという苛立ちとの戦い。
でも今は。
勝ったことも嬉しいけど、それより。
このバカたちとサッカーしてるのが、なんか面白い。
「おもしろかったー!!」
気づけば、グラウンドで叫んでいた。
律が笑う。
ベンチも笑う。
鈴も腫れた顔で笑ってるかな。
ああ。
たぶん私は、これからもこのバカたちとサッカーしていくんだと思う。
そうしたいんだ。
日本が優勝するなんて、世界中の多くの人は、まだ本気で信じていない。
でも。
仕事帰りの選手が集まる夜のグラウンドでも、
人数ぎりぎりの草サッカーチームでも、
子どもと大人が同じボールを追う街角でも。
仕事や家庭の隙間で、
ボロボロになりながら、
それでも笑ってボールを追いかける人たちが、
今日も日本のどこかにいる。
たぶん、
サッカーって、そういう場所から強くなる。




