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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第七章~無自覚好意編~

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第75話 流石ポンコツなのは運動神経だけの女……

「(もしかしてひなちーって、ミモリンのこと好きなの~?)」

「ち、違うよっ……!?」

「えぇ~? えへへ~?」


 突然耳打ちでされた質問に驚く妃菜。

 香澄は栗色の瞳を好奇心たっぷりに細めて、ニヤニヤと笑っている。


(な、何で香澄ちゃんまでテュカと同じことをっ……!?)


 まさかこの短期間に同じ指摘を喰らうことになるとは微塵も思っていなかった妃菜は、不覚にも顔を熱くして動揺してしまう。


 しかし、そのまま容易く砕かれてしまうほど、妃菜が作り上げてきた外行きの美少女像の仮面も薄くない。


 すぐにニコッと可愛らしい笑みを取って貼りつけ、小首を傾げてみせる。


「だって、私と望くんが同じクラスになってからまだ一ヶ月くらいだよ? それで、すっ、好き……とかに、なるかな?」


 口馴染みのない言葉。

 好きと短い一言を言うだけで無性に胸の奥がざわざわしてしまうのを感じながらも、妃菜は何とかその動揺を表に出さないようにした。


 しかし、香澄はキョトンとして――――


「え、だってひなちー、学校外でもミモリンと仲良くしてるでしょ?」

「へっ!? 何でそれを――あっ……!」


 香澄に鎌を掛けたつもりはないだろうが、それでも妃菜は驚きのあまりつい肯定するような反応をしてしまった。慌てて口を手で押さえるが、時すでに遅し。


 そんな様子の妃菜を前に、香澄は驚く必要はないと言わんばかりに「ちっちっち」と人差し指を左右に振ってドヤ顔をする。


「この不動の学年成績一位香澄ちゃんの洞察力を舐めてもらっちゃあ困るよぉ?」


 一体学力と洞察力にどれほどの相関性があるのかは定かでないが、香澄は自信満々に指摘する。


「ひなちーのミモリンを見る目が明らかに他の人に向けるそれとは違うとか、逆にミモリンはひなちーのこと意識的に見ないようにしてるなぁとか、そういう女の勘的なところももちろんあるんだけど~」


 それではどうとでも言い訳の余地を与えてしまうと考え、香澄はもっと直接的な理由を口にした。


「ひなちーとミモリンのお弁当の日と学食の日が丸被りなんだよね~!」

「そ、それは……」


 たまたまと言えなくもない微妙なライン。

 妃菜がどう躱そうかと思考を巡らせている間に、香澄はさらに付け加えてきた。


「あと、ひなちーのお弁当のおかず。何回か食べさせてもらったけど、これはもう味付けが確定的にミモリンのだよ~」

「うぅっ……」


 けらけら、と楽しげに笑う香澄。


「毎回二人のお弁当の中身が揃わないように工夫してるみたいだけど、それでも似通っちゃってるのはあるし、何より味は誤魔化せないからねぇ~」


 外行きの仮面、陥落。

 逃げ場のない状況に、妃菜は赤くした顔を両手で覆って隠す。


 香澄はそれを可愛がるように、にまぁと笑みを深め、妃菜の脇腹をツンツンと指で突きながら顔を覗き込む。


「ほれほれ、その辺どうなーん? 大人しく白状してみぃ~?」


 プルプルと震える妃菜は、顔を覆う手の指の間から香澄を覗いて確認。


「え、えと……まず、望くんに連絡しても良い……?」


 よかろう、と香澄が演技掛かった口調で答えながら深く頷くので、妃菜はスマホを取り出して望に一言メッセージを送信。



『望くん、私達の関係バレちゃってる』



◇◆◇



 同日、昼休み。

 望、妃菜、香澄、俊也の四人は広い食堂の一角にある長方形のテーブルを囲って座っていた。


 望の左隣に妃菜。テーブルを挟んだ対面に香澄、そしてその隣に俊也の並び。


 望と妃菜、香澄の前にはそれぞれ弁当があり、俊也は食堂で提供されている親子丼から湯気を立ち昇らせている。


 しかし、誰も各々の昼食に手を伸ばそうとしない。特に香澄と俊也は、正面に座る望と妃菜を静かにジッと注視していた。


 そんな二人の視線の先で、望は潜め声で妃菜に確認する。


「(正直メッセージ見たときはビビったけど、バレてるのって俺と妃菜が学校外でも何かしらの関りがあるってことだけ……だよな?)」

「(う、うん、そのはず……)」


 控えめに頷く妃菜を見て、望は「よし」と姿勢を正して正面を見据えた。


「えー、まず結論から」


 口を開いた望に、好奇心に満ち満ちた香澄と今がどういう状況なのかをあまりよく理解していない俊也の視線が集中する。


「スミの言う通り、俺と妃菜が学校外でも関りを持っている」


 えぇえええっ!? と、驚いたのは俊也。

 香澄はわかっていたと言わんばかりに、どこか得意げな顔さえしていた。


「マジで? マジで言ってる!?」

「ああ、マジだな」

「マジかぁ……」


 驚きすぎてマジしか言えなくなっている俊也に、望も語彙力を合わせて肯定。そのうえで説明を重ねる。


「シュン、いつぞや良い仕事を見付けて楽になったみたいな話をしたことがあるだろ?」

「あぁー、そう言えばそんなこと言ってたな……」


 あれはまだ望が妃菜の御使いになったばかりの頃だ。いつもバイト疲れを残している休日明けに、なぜか元気そうな望の様子を俊也が不思議に思ったことがあった。


「実はその仕事って言うのが、妃菜の家で家事をすることだったんだよ」


 望にとって俊也と香澄は充分信用出来る友人だ。しかし、妃菜の正体が魔法少女であることを言うのは憚られる。


 それは魔法少女の関する情報は秘匿されるべきものだということもあるし、何よりそれを伝えることによって二人を片足とは言わず指先一つ分程度でも非日常側の世界へ連れ込んでしまうことになりかねない。


 とはいえ、友人として嘘をつきたくないのもまた素直な感情。なので、最終手段として嘘で誤魔化すことになるかもしれない可能性は考えつつ、どうにか嘘を必要とする前段階で情報を伏せたまま納得させたい。


「だから、シュンとスミは大丈夫でも、万一そのことが他の人に知れたら色々憶測を立てられそうだろ? だから黙ってたんだよ」


 妃菜が学園内で人気なのは周知の事実で、その妃菜を慕う男女比の割合が異性側に傾いているのもまた真実。


 どんな経緯や事情があるにせよ、異性である望が妃菜とプライベートで関りを持っていると知られることになれば、少なからず妬みや嫉みの対象になってしまうだろうし、あらぬ噂を立てられてしまう可能性も十二分にある。


 形式上、妃菜の人気のせいで――と受け取れなくもない言い訳になってしまったのは望としては心苦しいが、念のため隣を確認してみると、妃菜に気分を害した素振りは微塵もなかった。

 それどころか、望の説明にコクコクと何度も首を縦に振っている。


「なるほどねぇ……」


 望の説明を咀嚼するように沈黙を作りながらも、嘘偽りがないかどうかを確かめるように望と妃菜を交互に見やる香澄。


 その隣で俊也は、驚きのあまり「マジかぁ、マジなのかぁ……!」とそれしか言えなくなりながら、天井を仰ぎ見ていた。


 俊也は間違いなくこの説明で納得している。

 驚いてはいるが、疑ってはいない。


 しかし、香澄の反応からは読み取れない。

 なくはない話だ、と思っているのは間違いなさそうだが、その真偽を望や妃菜の挙動や表情から判断しようとしている。


 そして、沈黙が十秒を経過した辺りで、ようやく香澄が口角を吊り上げた口を開く。


「うんうん、なるほどねぇ――」


 ニヤリ、と好奇心を蓄えて細められた瞳が望と妃菜を見つめた――――

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