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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第65話 そうならそうと早く言ってくれませんかね?

「……ついてませんね、貴方」


 日差しが遮られ薄暗くなった境内。

 木々の合間から不穏な空気と共に続々とシャドウが姿を現す。


 少女は頬杖をついて眠る望にそっと手を伸ばし――――


 むぎゅっ……!


「――うぃっててて痛ってぇ!?」

「いつまで寝ているつもりですか」


 少女に頬を強く摘ままれた望の意識が一気に覚醒。と同時に、片方の頬がジンジンと痛むので、少し潤んだ目を戸惑いがちにパチクリさせる。


「な、なにすんだよ痛いなぁ……」

「起こしてあげたんですよ」

「最悪の目覚めなんだが……」

「それは私にではなく、回りを見てから言ってはどうでしょうか」


 少女がそう言って顔を上げるので、望はその視線を辿るように境内を見渡した。すると、周囲をぐるりと囲うように茂っている木々の影に揺らめている何体ものシャドウの姿が見える。


「……なるほど、最悪の目覚めだ」


 望は先程よりも声のトーンを低くして、頬を擦りながら立ち上がる。


「どうします?」

「どうもこうも、逃げる一択だろ」


 今は傍に妃菜がいない。

 この状況で魔法少女協会に通報しても、魔法少女が到着する頃にはもう襲われたあとだろう。


「走るぞっ!」

「ちょっ……」


 望は迷わず少女の手を取り、社から飛び出すように駆ける。山を下りる階段を目指して鳥居へ真っ直ぐ走っていくが――――


 タタッ、タタッ!


「ガルゥゥ……!」

「くっそ……!」


 茂みから四つ足で駆けてきた狼のような形のシャドウが望と少女の行く手に立ち塞がり、身を低くして構える。


 きちんと整備された道はこの階段一本。しかし、それが使えないとなると草木を掻き分けてでも他の逃げ道を探すしかない。


 しかし…………


(わらわら湧いてきやがって……)


 右を見ても左を見てもシャドウ。

 よく見掛ける人型シャドウが過半数。

 あとは目の前に立ち塞がるのと同じ狼型と、大きめのカラスのようなシャドウが鳥居にとまっていたり、頭上を旋回したりしていた。


 狼型のシャドウが更に二体、鳥居を通すまいと唸りながら合流し、望は少女を背に庇うように立ちながらザリッ……と足元の砂利を転がして後退りする。


 人型シャドウも木陰から境内に足を踏み入れてきて、望達を取り囲もうとする。


 望は冷や汗を浮かべながらぎこちなく笑う。


「こりゃ、二人一緒に逃げたらまとめて追っかけてくるな……」

「……一人、囮になりますか」

「それしかないな」


 望は握ってた少女の手をそっと離した。

 少女は無感情に望の背中を見つめる。


 もし仮に、隣に立っているのが家族や親友、恋人といったような大切な存在であれば、自分を犠牲にしてでも守りたいと思う勇気ある人もいるだろう。


 しかし、それが出逢ったばかりでよく知りもしない少女であればどうだろう。自分の身と、素性も知らなければ生意気な性格で口を開けば毒を吐くような少女、どちらを優先するか。


 当然の結論です――と、少女は行きつく答えに特に悲しみを覚えることもなく静かに目を伏せた。


 だが、


「頑張ってコイツらを出来るだけ多く引きつけるから、その隙にお前は反対方向に逃げろ。良いな?」

「……は?」


 ここにきて誰でも正答出来そうな問題に対して答えを外していく望に、少女は不覚にも間抜けな声を溢してしまった。


「行くぞ? 三、二――」

「――ちょ、ま、待ってください!」


 頭の中が真っ白になっている間に望が構わずカウントダウンを始めたので、少女は慌ててその服の裾を引っ張った。


「な、なんだよ!?」

「それこっちの台詞です! 何なんですか貴方」


 戸惑い顔を振り返らせる望に、少女はその表情をしたいのはこちらだと言わんばかりに眉を顰める。


「見知らぬ少女を助けるために自分が囮になる? 馬鹿なんですか。一体どんな思考を経たらそんな結論に至るのか理解に苦しみます。何ですか、自己犠牲カッコイイみたいに思ってる痛い人ですか? そんなものは価値判断すら正常に出来ないただの愚か者ですよ」


 この緊迫した状況で、捲し立てるように早口で言われた内容をすべて理解出来たかと聞かれると頷きがたい部分がある。取り敢えず罵倒されたことだけは確実にわかった。


 しかし、それでも望の考えは変わらなかった。


「知るか。馬鹿かもしれんし愚か者かもしれんが、この場所にお前を連れてきたのは俺だ。なら、無事に帰すのも俺の責任だろ」

「か、勝手に責任を感じられても迷惑です」

「今更。俺は最初から迷惑だっただろ?」

「減らず口を……!」


 苛立って表情を歪める少女。

 望は飄々と笑ってみせながら、少女の手に触れて掴んでいた服の裾を離させる。


「ほら、わかったら黙って逃げる準備」

「っ、撫でないでくださいっ……!」


 ポン、と頭に置かれた望の手を、ペシッと振り払う少女。


「あぁもうっ、貴方といるとほんっとうにペースを崩されます……!」


 少女は腹立たしそうに細めた紫炎色の瞳で望を睨んでから、望の腕を掴んで引っ張った。突然のことに望は「うおっ」と間抜けに驚いて躓きそうになりながら少女の後ろへ。


「いいですか? これはこの場所に連れて来てくれた借りを返すためです。間違っても貴方を守るためだとか勘違いも甚だしいことは思わないでくださいね」

「な、何言って――おい!」


 少女が何を言っているのかわからず怪訝な表情を作る望。その目の先で、低く唸る狼型シャドウの方へ少女が一歩踏み出したので、望は咄嗟に連れ戻そうと手を伸ばすが、その影を掴み損ねた。


「黙ってそこに立っていなさい」


 そう言って少女が更に一歩踏み出した瞬間、ブワッと禍々しい魔力が巻き上がった。


 少女を中心に八方向へ長く伸びた影が落ち、それらが立ち上がって檻のように少女を取り囲むと、そのまま暗闇へと沈めていった。


 壁も天井も存在しない常闇の世界に立ち入った瞬間に衣服は溶け消え、ベールが申し訳程度に覆う。

 少女が灰色の髪を撫でると瞬く間に長く伸び、影が肢体に纏わりつくようにして形を成し、黒と紫を基調としたドレスへと変わる。生脚は指先から闇に染まるように太腿までを黒く覆われ、同じように中指の根元から二の腕も包まれた。


 閉じていた目蓋を開けば紫炎色の瞳が薄明るく輝き、片手を一閃横薙ぎに払って空間を裂く。その亀裂へと落ちるようにして元いた地面へと、カツッとヒールを鳴らして降り立てば、どこからともなく取り出した黒銀のアイマスクで目元を覆った。


 最後に足元からズズズとせり出してきた大鎌の柄を片手で握って、器用に回転させて構える。


「お、お前……マジかっ……!?」


 背後で望が驚いて声を絞り出しているのを聞いて、変身した少女は愉快そうに薄っすら口元を緩めた。


七罪冠(ヘプタハマルティア)が一翼【強欲(アフィスティア)】……ふっ、最後まで私だと気付きませんでしたね。お馬鹿さん」

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