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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第三章~悪の組織襲撃編~

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第34話 ここにきて実力隠し系キャラだとは思わないじゃん?

「きゃぁっ!? なんなのアレ!?」

「おいおい、どうなってんだよ?」

「なんか……ヤバくね……?」

「あ、あんな量のバケモン見たことねぇぞ!」


 悲鳴を聞いたのは望と妃菜だけではない。

 堤防にいた人々は、皆揃って慌てた様子で同じ場所へ視線を向けている。


 グニャグニャと汚泥のような液体とも気体とも言えない黒いモノが、河川敷の一点から溢れ出すようにしてみるみる広がっていっている。


 そんな現実味を感じられない光景を愕然と眺めていた面々も――――


「逃げろっ……逃げろぉおおお!!」


 河川敷から堤防まで駆け上がって避難してきた人達の鬼気迫るような声と形相に、ようやく恐怖を自覚し、身体が動き出す。


「う、うぁあああ!?」

「早く逃げるぞっ!」

「いやぁあああ!!」

「ママぁ~!!」

「ヤバいってぇえええ!」


 一人が後退ったのを皮切りに、それまで立ち尽くしていた人達が一斉に走って堤防から――川から避難していく。


 その場に残ったのは、望と陽葵の二人だけだった。


「妃菜、アレ……どう見てもいつも自然発生しているシャドウとは違う雰囲気なんだが……」


 もう何度かシャドウとの戦いを見てきた望だが、今までにない緊張感を感じて思わず口角を吊り上げてしまいながら呟く。


 隣に立っていた妃菜も、険しい表情を浮かべていた。


「た、確かに川っていうのは一つの恐怖の対象でもあって、シャドウが自然発生することも珍しくはないけど……あんな量と密度の黒魔力は、とても自然のものだとは思えないよ……」

「とすると、人為的な……」


 望は以前魔法少女協会でテュカが『悪の組織の活動が活発になっている』と言っていたことを思い出していた。


(ここにも来たってことか……?)


 望は冷や汗を浮かべながら、ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出し、登録してあった連絡先をタップして耳に当てる。


 コール音をそう繰り返さないうちに応答があり、騒がしめの雑音と共に少女の声が聞こえてきた。


『はいっ、テュカですぅ……!』

「もしもし、望だけど。今、川で――」

『――膨大な黒魔力発生に伴うシャドウの出現ですよねぇ……!? 今こちらでも観測したところですぅ……!』


 どうやらテュカの声の後ろから聞こえてくる雑音は、そのせいで協会が慌ただしくなっているからのようだ。


「話が早くて助かる。どうすればいいか教えてくれ」

『今対応出来る魔法少女達を当たって向かわせていますが、到着まで多少時間は掛かりますぅ。なので、望ちゃんと妃菜ちゃんにはそれまでシャドウの進行を出来る限り食い止めてほしいのです……!』


 通話している今もなお、混沌と渦巻く黒魔力は広がりを続け、川の流れをドロッと粘性を帯びた黒いモノへと塗り替えていっている。


 その周辺からは次から次へと形状様々なシャドウが生まれ続けている。


『もちろん無茶はしないでくださいねぇ……!? あくまで時間稼ぎで、増援が到着次第殲滅という流れでお願いしますぅ……!』

「了解」


 望はスマホを仕舞い、妃菜の隣に立つ。


「増援到着次第殲滅。それまで無茶せず時間稼ぎしてくれってさ」


 テュカからの指示を伝えた望。

 妃菜はやや強張った表情を見せながらも、僅かに口角を持ち上げてみせた。


 身体が発光し、瞬く間に魔法少女の装束を纏って変身する。


 右手を宙にかざして、どこからともなく取り出した細い長杖を掴み、カツンと柄尻で地面を突いて音を鳴らす。


「あの量を相手に時間稼ぎって……無茶するなっていうのが無茶だよねぇ……」


 呆れたような乾いた笑みを浮かべる妃菜。


「でもまぁ、仕方ないよね」

「だな。俺も精一杯サポートする」

「ふふっ、ありがと……」


 妃菜が左手の小指で、ちょんと望の右手に触れた。


「じゃあ、やろっか」

「あぁ」


 堤防の上から河川敷一帯にうようよ出現したシャドウに長杖の先端を向けた妃菜。


「えぇっと、一応時間稼ぎってことだったけど……別にアレを倒し切っちゃっても良いんだよね?」

「無茶はしてほしくないけどな」

「ふふ、望くんがいるから平気だよ」


 妃菜が屈託のない笑顔を向けてきたので、望もそれに応えるように口角を上げると、触れた指を介して魔力を送った。


 望の魔力容量では一日に二回、頑張って三回魔力補助するのが精一杯。


 それでも初手でこうして貴重な魔力を送ったのは――――


「じゃ、デカいのぶちかましてやれ」

「うん、任せて」


 あらゆるバトル作品において初手で大技を使うのはタブーだ。


 一撃で決着をつけてしまえば見せ場が不足して物語が面白くない。


 しかし、そんなものは関係ない。

 街の平穏とそこに住まう人々の営みの守護者として、魔法少女は勝つために最適解を取る。


 次から次へと湧いて出る大量のシャドウを、一体一体ちまちま相手取っている余裕はない。


 初手で出来得る限り数を減らす――望と妃菜の狙いは一致していた。


「他人も建物もないのが不幸中の幸いだね。ちょっと河川敷の形状が変わっちゃうかもだけど、《《いつもみたいに》》火力を加減しなくて済むよ」

「……え?」


 ふとした妃菜の発言に引っ掛かりを覚えた望が声を漏らすが、疑問を確認する間はなかった。


 ブワッ、と望から送られてきた魔力も合わさって、妃菜の身体から魔力が溢れて風を起こす。


 杖の先端だけでなく、自身の周囲にもいくつか魔法陣が展開され――――


「ふぅ……いけっ!!」


 カッ――――


 計五門。

 一瞬の視界の白熱と共に、展開された魔法陣から魔力の砲撃が飛ぶ。


 川の中心に一発。

 手前と対岸の河川敷に二発ずつ。


 ズダァァアアアアアアアンッ!!


 地を揺らし大気を震わせる轟音が鳴り響き、河川敷には四つのクレーターが作られて、舞い上がった川の水が雨の如く降り注いでいた。


 すでに百体前後は生まれていたであろうシャドウの軍勢のおよそ八割以上が跡形もなく消し飛んでしまった。


「ま、マジかぁっ……!?」


 これは流石に想像以上の威力だったので、絶句してしまった望が口を開け広げたままギギギ……と錆びついた首を動かして隣に立つ妃菜を見る。


 すると、一作業終えた程度の息を「ふぅ」と吐く魔法少女の姿があった。


「ん?」


 少しして望の視線気に付いた妃菜が顔を向ける。


 望が驚愕のあまり絶句したまま妃菜見つめ続けていると、妃菜は次第に頬を赤らめていって、視線を右へ左へ泳がせたあと、ギュッと胸の前で長杖を握って呟いた。


「そ、そんなにジッと見つめられると、恥ずかしいよ……」


 そういうつもりで見つめてないんだよ、と心の中でツッコミを入れざるを得ない望であった――――

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