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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第三章~悪の組織襲撃編~

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第33話 春うららかに影一つ

「へぇ、この辺昔と何も変わってなかったんだなぁ」


 春の日和の中、望は妃菜と住宅街の外を流れる川の堤防を歩いていた。


 堤防の脇には等間隔に桜の木が植えられており、春の息吹に揺れる梢には大きく膨らんだ蕾の他にも、既に所々ピンク色が散りばめられていた。


 そんな景色を横目に、隣を歩く妃菜がコテンと首を傾げてくる。


「昔?」

「あぁ、そういえば妃菜は知らないよな」


 これまで特に話す機会がなかったし、そこまでたいした情報でもないので自分から語ることはしなかったが、この辺りで説明しておくのが自然な流れかもしれない。


 望は周りの景色へどこか懐かしい視線を送りながら口を開いた。


「俺、この辺り出身ではあるけど、小四から中学卒業するまでは田舎に住んでたんだよ。だから、戻ってきたの去年で割と最近なんだよな」

「えっ、そうなの!?」


 妃菜がリアクション満点に目を丸くするので、望は思わずクスッと笑ってしまった。


 自分の中学校では見掛けなかったにせよ、どこかその周辺にある他の中学校出身だと思っていたのだろう。


 大学ならともかく、高校で遠方の中学出身という生徒の割合はそう多くないので、当然と言えば当然だ。


「えっと、あんま気まずくならずに聞いてくれればいいんだけど、実は小四の頃に事故で両親失くしてるんだよ、俺。だから、高校入学を機にここに戻ってくるまでは、田舎で祖父母と一緒に暮らしてたんだ」


 軽い口調を心掛けて語り、隣を見やれば、妃菜が複雑な表情で目を伏せていた。


 望はそんな妃菜の頭に手を伸ばし、ポンポンと優しく叩く。


「重く受け止めなくていーの。当時はともかく、今はもう全然大丈夫だから。な?」

「……そう?」

「今は妃菜がいてくれるしな」

「えっ……?」


 はたと妃菜が足を止めたので、望も一歩分先に行ったところでつられて歩みを止めて振り返る。


 すると、口元に両手を寄せた妃菜がじわりと顔を赤らめていた。


「それって……私が、家族って……こと?」

「あっ、や! そういう意味じゃなくて!」


 確かに家族がいなくなったという話の流れで今は妃菜がいるということを伝えれば、それは新しい家族という認識で妃菜を見ていると受け取ることも出来なくはない。


(……いやまぁ、ちょっと無理あると思うけど!?)


 望は曲解気味な妃菜の勘違いを慌てて正す。


「今は妃菜と一緒に住んでて一人じゃないから寂しくないしって意味であって、特に他意はないぞ……!?」


 決して俺の家族になってくれ的な意味を含んだ回りくどいプロポーズをしているワケではない。


「あ……な、なるほど……」

「お、おう」

「そっか……」

「おぉ……」


 誤解が解けて良かったはずなのに、妃菜がどこか残念そうに微笑んで視線を下げる。


(な、何でそんな顔するんですかね……!?)


 まるで誤解でなかった方が良かったような――と、一瞬望の頭にそんな解釈が芽生えたが、すぐに首を横に振って否定する。


「そ、そういえばさ!」


 この話はここでお終いとするように、望は新たな話題を切り出すことにした。


「特訓の甲斐あって、これくらいの距離ならまだ全然妃菜との魔力パスの繋がりが感じられるようになったぞ」


 辛い特訓だった――主に理性が。


 抱き締め合って互いの身体を密着させた状態で魔力的な繋がりを知覚したあと、次は両手を握った状態で、その次は片手、指先を触れ合わせるだけ、髪の毛の房を持って、髪の毛一本を摘まんで――と徐々に物理的に接触する面積を減らしていきながら、魔力パスを感じ続けられるようにしていった。


 それからは、完全に物理的な接触を失くした状態で、徐々に離れた状態でも妃菜との繋がりを知覚出来るようにしていった。

 これからはその距離をどんどん伸ばしていくのが目標だ。


 ただ、彼我の距離に比例して自分の中に鮮明に妃菜の存在を感じていなければいけないので、日頃から出来るだけ多くスキンシップ――もとい関わるようにする必要がある。


「せめて五十メートルと言わずその半分くらいの距離でも魔力補助出来るようになれば、実戦でも役に立つと思うんだけど……それは俺の頑張り次第だな」

「ふふっ、じゃあ……望くんがもっと私との繋がりを感じられるように、協力してあげるね……?」


 恥じらい混じりに微笑んだ妃菜が、スルッと望の腕に自身の腕を絡める。


「ちょっ、外で……!?」

「誰も気にしてないから大丈夫だよ」

「もし知り合いに見られたら……」

「学校で噂されちゃうね?」

「そして俺が夜道で背中を刺される」

「そのときは私が守ってあげる」

「そうならないようにしてくれません!?」


 考えてみれば、すでに並んで一緒に歩いているので知り合い――同じ学校の生徒に見られた時点で噂はされるだろう。


 しかし、ただ一緒に歩いていたのと腕を組んで歩いていたのでは、その噂の内容は大きく関わってくるだろうし、言い訳も出来なくなる。


 なので、こういったスキンシップはせめて家の中限定にするのが一番安心ではあるのだが…………


「えぇ~? 今はもっと鮮明に魔力パスを感じられるようにする方が大事でしょ?」

「うっ……」


 それを言われると反論も出来ない。


 一学校で噂されるかどうかよりも、街を守る魔法少女を支えられるようになる方が重要に決まっている。


「わ、わかった……ただ、流石に知り合いを見付けたら離れるからな?」


 その答えに満足したようで、妃菜は表情を綻ばせて頷いた。


 平和で、平穏で、安穏で。

 望と妃菜はもちろん、すれ違うように堤防を歩く人達や河川敷で遊んでいる子供達も、誰一人暗い表情をしていない。


 だが、春の日差しのように温かなそんな光景の儚さを思い知らせるように、一筋の亀裂が走った。


「きゃぁあああああッ!?」


 少し離れた河川敷から聞こえてきた女性の悲鳴。


 望と妃菜が同時に向けた視線の先で、尋常でない量の黒魔力が混沌と渦巻いていた――――

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