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虚白のキャンバス  作者: ラクスイ
侯爵家編
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十三話 大魔術師リューディア

「信じられない。あのリューディアが…」

 広間には重苦しい空気が流れていた。ドラヴェス帝国とサングィス朝ラミナの二週間にわたる戦争。それが終わって既に五日が経った。にもかかわらず情報が全くこちら側に流れてこないのだ。唯一分かることは帝国が敗戦したということだけであった。


「旦那様!たった今お手紙が届きました…!」

 使用人が慌てたように広間に入り、マグヌスに小さな紙を手渡した。

「……リューディアからだ」

「本当に!?良かった……!」

 フィオは喜びを抑えきれず、ガタッと席から立ち上がった。しかし、周りを見てみると誰も嬉しそうな顔をしていない。何故だろうか。

「フィオ君。戦時中は検閲が厳しいから、おそらく戦場からこの侯爵家まで手紙が届くのはどんなに早くても一週間はかかる。だから……これは戦の最中に書かれたものだと思う」


「……そう…なんだ…」

 フィオはゆっくり椅子に座り、俯いた。依然として広間は悲痛な空間であった。

「では、読ませてもらうぞ」



 ファルネーゼ侯爵家の者達へ


 リューディアだ。単刀直入に言うと、敵の戦力を見誤った。敵にイカれた魔術師がおる。もしかしたらこの戦いでワタシは死ぬかもしれん。これから書くのは家庭教師としての事務報告であり、遺書でもある。ちなみに、家族や帝都大学には先に書かせてもらった。この手紙が最後だ。まず初めに伝えなければいけないことがある。ワタシと同じ小僧の家庭教師をしておったたエドガー・フューズだが、死亡を確認した。彼だけでなく半数の歩兵部隊が既に敵の大規模魔法で亡き者にされた。ここまで聞いておぬしらが抱いておるであろう疑問に答えよう。今ワタシ達帝国軍は撤退することができん。スカラ川周辺に巨大な結界が張られ、両軍ともに閉じ込められておるのだ。だからワタシは森の中で潜伏しつつ、この手紙を書いておる。結界は人間だけに反応するらしく、伝書鳩は通過できることを先程確認した。さて、前置きの方が長くなってしもうたな。ワタシが言いたいの一つだけだ。フィオ、おぬしはきっと偉大な魔術師になる。逆を言えば、ならなくてはおぬしの願いは叶わんとも言える。呪いを解く手がかりになるであろうものをこの手紙に同封した。役に立ててくれ。では、生きてまた会えるのを楽しみにしておるぞ


追記 ワタシの生存確認をする方法を思いついたので載せておく。この手紙に魔法を付与した。十日が経つとこの赤い魔法陣が発動し、手紙を燃やす仕組みだ。もし魔法陣が消えていれば、ワタシの命は絶たれたということになる。



 手紙と一緒に呪いの手がかりと思われる本のページの切れ端が入っていた。

 皆黙ってマグヌスが手紙を読み上げる声を聞いていた。読み終わってマグヌスが顔を上げると、涙を流すニーナとフィオが目に入った。


「赤い魔法陣なんて……どこにもないよ…」


 手紙は真っ白だった。おそらくリューディアは本当に死んだのだろう。



「僕、リューディア先生じゃないといやだ…魔法を教わるのは…リューディア先生がいい…」

 フィオは涙をいっぱいにしてそう言った。


「そうか……リューディアは本当に…」

 マグヌスも動揺を隠せない様子で両手で顔を覆った。

「父上、その切れ端にはなんて書かれているの?」

 目元を赤くしたニーナがそう聞く。

「ふむ、これは……絵本だ。絵本の切れ端だ。たいりくにねむるあくま、こどもたちにのろいをきざむ。たいりくにねむるまじゅう、こどもたちののろいをたべる。とだけ書いてあるな。これは…私も読んだことがある有名な童話だ。確か……」


「天地創造華神伝、だね。童話にしては仰々しい名前だからよく覚えてるよ」

 ニーナは子供の頃を懐かしんでいるようだ。呪い、呪いといえば……

「リューディア先生の呪いってどんな呪いだったの?」

「それについては私がお答えしましょう。以前彼女の伝記を読ませて頂いたことが御座いますので」

 十六歳で自伝を書くなんて聞いたことが無いがさすがにこの状況では誰も軽口をはさむことはなかった。

「私も多少は知ってるよ。リューディアは有名だからね。あの子には前世の記憶があるんでしょ?」

「三割正解と言った所でしょうか。リューディア様は呪いの影響で体に魂の受け皿が二つ存在していたとのことです」

「それって、普通気づかないよね?」

「はい、正に彼女自身も十歳まで呪いの存在に気づかなかったとか。しかしある日、彼女の中のもう一つの受け皿に迷える魂が載せられてしまったようです。それが五百年前の名も無き大魔術師の魂だったとか」

 衝撃的な話であった。衝撃的な話ではあったが、リューディアの人となりを鑑みると妙に納得できる気もした。

「それでリューディア先生は乗っ取られちゃったっていうこと…?」

「いえ、これは彼女の感覚的な説明によるものなのでハッキリとは言えませんが……二人の精神が融合したらしいのです。乗っ取られたのでも二重人格になったのでもなく、新たな一つの精神が生まれたのだと、リューディア様はそう仰っていました」

 話がかなり難解になってきた。そうなってくると先程のニーナの発言、前世の記憶を持っているという表現が的をいているとも思えてくる。あの変な話し方も太古の魔術師の精神が影響したのだろう。


「そっか……でももう……」


 広間はまた静まり返った。リューディアの話ではもうエドガーもこの世にはいない。もうフィオに授業をしてくれることはないのだ。もう二度と、話すことはできないのだ。

 そう考えるとまた涙が溢れてきた。もうあのガハハと豪快に笑う姿は見られないのか、と。


「やっぱり、戦争なんてダメだ」

 ニーナが唐突に席から立ち上がってそう呟いた。

「戦争なんてものがあるからリューディアみたいな犠牲が生まれるんだ。もうこの国には……うんざり」

 ニーナは少し何かを考える素振りを見せ、マグヌスの方に目をやった。

「父上、今から帝都に行ってくる。おたんこなすの皇帝陛下に文句を言わなきゃ気が済まない」


「……そうか。では御者と護衛を手配しよう」

 マグヌスはニーナの氷のように冷たい目を見ると反対することはできなかった。

「ただし、今までの努力を捨てるような真似はするな。この国にそこまでの価値はない」

「うん、分かってる。じゃあ…行ってくるねフィオ君。お絵描きの授業はしばらくお休みかな」

「う、うん。気をつけてねニーナ先生」

 ニーナはフィオの頭をわしゃわしゃと撫でてそそくさと屋敷から出ていった。


 フィオはどうすれば良かったのだろうか。いや、フィオにはまだ何もできなかった。まだ五歳なのだ、いくら魔法の才能があるからといって今やれることなどたかが知れている。

 強くならなければいけない。呪いを解くためにも、大切な人を守るためにも。

 フィオは拳を握りしめた。


「おー、やはり辛気臭い顔をしとるのうー」

 ………?どこからともなく聞き馴染みのある声が聞こえた。

「はぁ、なんなのだあの魔術師は……ワタシのキャリアが台無しになってしもうたではないか……長生きしすぎるのも地獄であったが……早死にはそれ以上に気が悪いぞ……」


 フィオは驚きで言葉が出てこなかった。突如、広間の壁をすり抜けて半透明のふわふわした何かがやってきたのだ。しかも人の言葉を話しているではないか。

 それに、何故マグヌスやヴァルテルは気にする素振りを見せずに会話しているのだろうか。もしかしてアレに気づいていない………?


 ふわふわした半透明の人語を話すモノと言えば……お化けしか思い浮かばかった。


「で、でたぁぁぁぁぁぁぉぁ!」

「…フィオ様!?どうされました!?」

 ヴァルテルがフィオの元に駆け寄る。

「おっ…お化けっ!お化けが…!リューディア先生のっ!お化けっ!」

 フィオは冷や汗をかきながら何も無い空間を指さしてそう叫んだ。広間の全員が困惑した表情でフィオを見ていた。

「お化け……ですか。マグヌス様……これは…」

「フィオ、リューディアが死んでしまったのは悲しいことだが…そうやって滅茶苦茶なことを言うのは死者を冒涜することに……」

 マグヌスが何か説教めいたことを語り始めたがフィオの耳には一切入ってこなかった。

(こっちを見てる…ちちち、近づいてきた……!)


「驚いた…フィオ・ファルネーゼよ。おぬしは魂となったワタシが視えるのか?」


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