君の甘さに誘われて
「……それにしても、あのケーキは本当に驚いたよ。まさか君が作ったとは」
お茶会も中盤に差し掛かり、ショートケーキを食べ終えた王子が、隣のテーブルに移ってきた。
「まさか、などと。わたくし、こう見えても器用なほうなのですわ」
「それはもう知ってるよ。見た目も完璧、中身も完璧。非の打ち所がないって感じだね」
「……過分なお言葉、ありがとうございますわ」
にこり、と完璧な令嬢の笑みで応じるリリー。しかし内心では、ひとつ、ふたつとフラグカウンターが上がっていく音が聞こえる気がした。
(ねえ、これ絶対攻略ルートじゃない? “非の打ち所がない”とかフラグよね!?)
「それに……」
王子はちら、と横目でリリーを見やると、ふっと微笑んだ。
「君の作る甘いお菓子、どこか懐かしい感じがする。……なんというか、優しくて、ほっとするんだ」
その言葉に、リリーの指先がぴくりと震えた。
「それは……たぶん、家庭の味、だから……ですわ」
言い淀みながらそう答えた自分に、ハッとする。公爵令嬢としてあるまじき、“迷い”が声に出てしまった。
しかし王子は追及せず、ただ穏やかに頷くだけだった。
「……君らしいと思うよ」
その一言が、なぜか心に柔らかく沈んでいった。
(アリステリオン殿下……あなた、やっぱりただの王子様じゃありませんわ……!)
気を抜けば、簡単に足をすくわれてしまいそうな笑顔。その危うさに、リリーはそっと背筋を正した。
──これは、令嬢としての試練。
攻略対象が次々に現れるゲームの世界で、“破滅”を回避するための一手一手を打ち続ける日々。
けれど、それでも。
ほんの少しだけ、胸の奥があたたかくなるのを止めることは、できなかった。




