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新しいお友達、カタリナ

お茶会の会場は、陽の光が差し込む華やかな温室庭園。白いテーブルクロスが風にそよぎ、繊細なティーセットが優雅に並んでいた。甘やかな果実の香りと、焼きたてのパイの匂いがあたりに漂い、どこを見ても花のような笑顔を浮かべた小さな令嬢たちが談笑していた。

リリサンドラ・ヴァレンティーナ――リリーは、深く息を吸い込んだ。

(大丈夫。今日は「お友達」を作る日……そう、落ち着いて、リリサンドラ)

家族以外の年頃の子供たちと触れ合う機会は、これまでほとんどなかった。公爵令嬢として、常に周囲の視線を背にしてきた彼女にとって、友達を作ることは何よりも新鮮で、そして少しだけ怖いことでもあった。

そうして辺りを見回していたリリーの目に留まったのは、温室の隅、パーテーションの陰に立つひとりの少女だった。

淡いミントブルーのドレスに、栗色の髪を二つに結った華奢な子。きょろきょろと辺りを見回しては、しきりに指をもじもじさせている。

(……あら?)

リリーは迷わず足を向けた。近づいてみると、少女ははっとして小さく肩をすくめた。


「あの……だ、だれかしら……?」


「ごきげんよう。わたくし、リリサンドラ・ヴァレンティーナと申しますの。お困りかしら?」


「え、ええと……」


少女は一瞬、ためらうように目を伏せたが、やがて震える声で名乗った。


「……カタリナ・アルベールと申します。初めての場所で……どこに行ったらいいのか分からなくて……」


うるんだ瞳が少し潤み、今にも泣き出しそうだ。リリーは、ふと昔の自分を思い出した。どこか似ている――そう思った瞬間、自然と手が伸びていた。


「よろしければ、ご一緒にまいりませんか?」


カタリナはぱちりと目を見開いて、まるで救いを見たかのようにリリーを見上げた。


「……はい、ぜひ……!」


その声は、心の底から安堵が滲んだように優しく、控えめだった。

リリーはにっこりと微笑むと、そっと彼女の手を取った。


「それでは、行きましょう。お菓子もたくさんあるみたいですし、お紅茶もいただかなくてはなりませんわね?」


「う、うん……!」


カタリナの頬に、ほんのりと笑みが浮かんだ。そのまま二人は連れ立って、テーブルの合間をゆっくりと歩いていく。お菓子を一緒に選びながら、ぎこちないながらも言葉を交わしていった。

気づけば、リリーの心から緊張は消えていた。隣で控えめに微笑む少女の存在が、彼女にとってかけがえのない“はじめて”をもたらしてくれていたからだ。



カタリナと並んで、温室のテーブルへと歩き出したときのことだった。緊張気味にそれでも嬉しそうに微笑んでいたカタリナの足取りが、ふと止まった。


「……あの、さっき……リリサンドラ・ヴァレンティーナ、って……お名前、言ってましたよね……?」


「ええ、そうですわ。皆さまには、リリーと呼ばれておりますのよ」


にこやかに返したリリーだったが、その瞬間、カタリナの顔色がさっと青ざめたように変わった。


「リ、リリサンドラ様って……あの、王家に次ぐ、セレスティアでいちばん高位の……ヴァレンティーナ公爵家の……!?」


「え……ええ、まあ、そうなりますかしら」


突然、ぴたりと歩みを止めたカタリナが、ぱたぱたと手を振り始めた。


「ご、ごめんなさいっ、わたし、そんな……お声をかけていただくなんて恐れ多くて……っ! 本当に申し訳ありませんでしたっ……!!」


(あら……?)

リリーは、思わず微笑ましくなるのを堪えた。どこまでも礼儀正しく、しかしおどおどとする姿はまるで小動物のようで――


「まあまあ、そんなに恐縮なさらなくてよくてよ。カタリナさん?」


「は、はいぃ……っ」


「わたくし、お立場なんて気になさらなくてもよろしくてよ。今日は、お友達を作るために参りましたの。ですから、ね?」


カタリナはおずおずと顔を上げ、恐る恐るといった様子でリリーの瞳を見つめた。そこには、冷ややかな公爵令嬢の威圧感など微塵もなく、ただ真摯で優しい、穏やかな光が宿っていた。


「……リリー様って……とても……やさしいんですね……」


「ふふ、ありがとうございます。ですが“リリー様”ではなく、“リリー”とお呼びになってくださらない?」


「え……ええと……じゃあ……リ、リリー……さん……?」


「まあ! それでよろしくてよ。ふふ、うれしいですわ」


そうして、ふたりの距離は一気に縮まっていった。


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