魔法と風とふたりの時間
レオンハルトが初めてリリーのもとを訪れてから、数日が経った。
その間、彼は何度かエリク先生と共に庭を訪れ、リリーの魔法訓練を見学したり、ときには一緒に実技練習をしたりしていた。
「……今日は、少し風の魔法をやってみたいです」
「まあ、それは良い選択ですわね。風は扱いが難しいけれど、日常にも役立ちますもの」
控えめながらもしっかりした意志を感じる声に、リリーは内心で感心していた。
(……最初はあんなにもおどおどしていたのに、今ではちゃんと目を見て話してくれるようになりましたわね)
庭の風に舞う木の葉を的に、小さな風の魔法を飛ばす訓練。 レオンハルトは慣れた手つきで魔力を指先に集中させ、細く鋭い風の流れを生み出す。
「お見事ですわ、レオン。とてもきれいな流れでしたわ」
「そ、そうかな……リリサンドラさんのほうが、もっとすごいけど……」
「ふふ、わたくしのことは“リリー”とお呼びになってもよろしくてよ? せっかくですもの、これからも仲良くしていただきたいの」
「……り、リリー……わ、わかった……」
耳まで赤くなっているレオンハルトに、リリーはにこりと微笑んだ。 どこか弟をあやすような気持ちが混ざっていたが、それでもこうして少しずつ距離が縮まっていくのが、リリーには嬉しかった。
──午後の訓練がひと段落したころ。
「そうですわ、今日は試したい魔法がありましたの。風属性と火属性の融合……《熱風の矢》とでも申しましょうか」
「え、それって中級魔法じゃ……」
「もちろん威力は抑えますわ。庭に穴を開けてしまっては困りますもの」
リリーはすっと手を伸ばし、魔力を指先に集める。炎の精霊と風の精霊、両方に呼びかけ、空気の流れに熱を込めるように集中した。
──そして、ぱしゅん。
「……わあっ!」
レオンハルトが小さく声を上げたときには、花壇の上空をかすめて、小さな熱風の矢がすっと走り抜けていた。
「ふぅ……成功ですわね。いかがかしら?」
「すごい……すごいよリリー……火の圧力を風で均したんだ。あんなこと、僕、教本でしか見たことない……!」
「ふふ、それほどでもなくてよ? ……でも、あなたも試してごらんなさいな。レオンなら、きっとできますわ」
「で、できるかな……」
レオンハルトは不安げに手を差し出し、集中する。火と風、ふたつの魔力を丁寧に重ね……
──ぼふっ!
「わっ!?」
小さな爆風が巻き起こり、レオンハルトの髪がわしゃっと跳ね上がった。
「きゃっ……っ、ふふっ……!」
「うぅ……うまくいかなかった……」
「でもとても惜しかったですわよ。火の発生が少し早すぎただけですもの。次はもっと、穏やかに風の流れをつくってから……」
リリーが身を寄せて助言を送ると、レオンハルトはこくんと頷いた。
──その姿が、あまりに真剣で。
(ああ……なんだか、こうして一緒にいるのが自然になってきましたわね)
攻略対象だったかもしれない、という考えはちらりと浮かんだが、すぐに首を振る。
(いえいえ、そんなわけありませんわ! そんなに都合よく攻略対象がごろごろいるなんて、夢の中だけですもの)
「でも、今は……ただ、お友達が増えて嬉しいですわ」
心からそう思いながら、リリーは笑顔でレオンハルトの隣に立ち、もう一度、ふたりで空へと手を伸ばした。




