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神谷戦記  作者: 八角の奇児
2007年篇
12/16

記録番号二二五番 —匠の武器—

 三月十六日。サクヤウヤ達が鍛冶屋のワイストンに武器を依頼してちょうど二週間が経った。もう春が目の前まで来ているのか、以前まで感じていた指先が凍りついてしまうような寒さは遠ざかっているようだった。サクヤウヤ達の寝室の窓辺においてある花瓶には、梅に代わり菜の花が挿されていた。

 腹を(こしら)え、サクヤウヤ達は大田街区の鍛冶場に向かうために外へ出た。とは言え、南千住から太田街区。ましてや羽田ほどではないもののかなり南に位置する大井と言う町へ向かうには東京をほぼ縦断するのと同じ距離を歩くこととなる。当然、彼らは一番近い道を選ぶ。丁度いい機会なので、彼らの歩く町々を紹介してみようと思う。南千住から隅田川に沿って南下していくとこれでもかと言うほど大きな教会が見えてくる。そう、東京の教会の総本山、浅草(せんそう)教会だ。この教会は神の降臨以前、分かりやすく言えば紀元前より存在している。世界の全てを神が司ると信じる宗教、仮に最高神の名前を取ってキューチ教と名付けよう、この宗教の聖地としても数えられるほど重要な教会だ。一説にはここがキューチ教発祥の地とも言われるほどだ。それともう一つ、この教会は他のところとは違い、信仰目的でない一般人も少なからず来ている。年齢層は、ある程度自由の効く若者だろうか。教会の敷地内に出店がずらりと並んでいることから食べ歩きや日用品などのちょっとした買い物もできてしまうため、幅広い年齢層の心を捉えられている。他にも、若者がそこに惹かれる所以があり、それは遊園地なるものが建設されていると言うことだ。やはり、若者というのは新しいものに目がないらしい。観覧車なる円状の枠に幾つかの籠がくっついたものに、誰も彼も興味を持っていた。

 更に隅田川を南下し、浅草橋を渡った所で南西南を見てみると、東京一の高さがあり、東京一豪勢な建造物を望むことができる。皇城。正式な名称があるかはわからないが庶民の間ではそう言われている。金色に輝く外壁に包まれ、ところどころに色付き硝子で彩られた大窓が目立っている。城の周りには見張り台と思われる塔が城を囲むように六つほど建っている。

 皇城の建つ千代田街区には、帝国の重要機関が沢山ある。例えば帝国軍の本部がある。本部には死神隊や魔神隊、吸血鬼隊などの特殊部隊が駐在しており、当然ながら最高司令官やその他重鎮がその身を置いている。

 港街区や品川街区から東を見てみると、領土の拡張の為に埋め立て作業をしているのが分かる。以前にも、そこには埋立地があったようで、今の作業は、その埋立地の上から土を被せているところらしい。


 そんなこんなでサクヤウヤ達三人は大田街区の例の鍛冶屋に到着した。

「ワイストンさん?いますかー?」

トキャーケイは二週間前と同じように鍛冶屋の中まで通るように声を発した。

「あぁ、トキャーケイか。入れ」

ワイストンは気だるそうに表へ顔を出し、サクヤウヤ達に向かって手招きをした。

 鍛冶屋の中は外観より一回りほど小さく、大部分を炉と金床が占めている。蓋の開いた樽にはこれから刃物になるであろう金属の棒が無数に入っていた。

「ほれ、これを」

ワイストンは愛用している椅子に腰を下ろし、一本の剣を差し出した。

「これはあれじゃ。名付けるなら雷神。どうじゃ、お前さんにピッタリだろう?」

「ああ」

サクヤウヤはその剣『雷神』を手に取り剣身を眺めた。

「柄の先を見てくれ。そこに宝石があるだろう?お前さんは魔法を使うと聞いたから横浜から魔法の石とやらを取り寄せてみたのじゃ」

サクヤウヤはその剣の柄の先を見た。確かに、そこには緑色の石が()め込まれていた。

「ふむ、それで?」

「恐らくの話だが、お前さんがこの剣に雷を当てることが出来たなら、剣は雷を帯びるかもしれん。じゃが、それは雷の……あーなんて言えばいいんじゃろうかなぁ……」

ワイストンは言葉を喉に詰まらせ「うーむ」と唸った。

「雷撃のことだろう?」

サクヤウヤはビシッとワイストンを指差した。

「ああ!そうじゃ。雷撃の逃げ場がない時は雷を帯びることができるのじゃよ。つまりはの、空中にいる時だけその力が使えるのじゃ」

すると、ワイストンは右手で自分の顎髭を弄り出した。

「剣が雷を帯びている時に地上に足をつけるとどうなるかわかるかの?」

「雷撃は地に逃げていくだろうな」

サクヤウヤはビシッとワイストンを指差した。

「じゃあその時お前さんはどうなるんじゃ?」

ワイストンは問う。

「身体中に雷が走って焼け焦げるか灰の山と化すだろうな」

サクヤウヤは唸った。彼は自分で言った言葉を見返してみて、失敗すれば死と言う恐ろしさに気付いてしまい、格好つけるのはやめようと思った。

「ま、気をつけることじゃな」

ワイストンはサクヤウヤに同情し、うんうんと頷きながら微笑を浮かべた。

「ああ……わかったよ。あと、いい加減この剣を懐にしまってしまいたいのだが」

サクヤウヤは剣先を下に向け、杖のように持っていた。

「おっと、これはすまんな。えーっと……ほれ、これにしまっとけ」

ワイストンは鞘を取り出し、サクヤウヤに投げ渡した。発達した上腕の筋肉から投げられた鞘は勢いよくサクヤウヤの胸に飛び込んだ。

「ぐぇ……感謝する」

サクヤウヤは鞘の衝撃で一歩後ろに下がった。

「そこの片腕の変なの。ほれ」

 ワイストンはトミンに目掛けて戦斧を投げた。見た目にこれといった特徴はないが、刃の部分にはちょっとした文字列が刻みこまれていた。

「この文字は何?」

トミンはその文字列を怪訝そうに睨んだ。ワイストンはふぉっふぉっと笑う。

「まじないの様なものじゃ。ほれ、なまくらじゃ危ないじゃろ。これで刃を包んどれ」

彼は斧の刃を包む革をトミンに投げつけた。トミンはそれを胸で受け止め、足で蹴り上げて口に咥えた。すると地べたに座り込み、丁寧にその革で斧の刃を覆った。

「大事に使うんじゃぞ」

「まあ、壊れたら困るから大事に使う。僕はそんなガサツじゃないけどね」

トミンは不気味に笑った。その目の奥にあるのは何なのか、狂気か、欲望か、判らなかった。

「トキャーケイ、お前の剣じゃ」

 トミンの笑みを他所にワイストンはトキャーケイに短剣を手渡した。その短剣には芸術的価値などありはしない単純な見た目だが、その分無駄を削ぎ落とされており、扱い易く、それでいて頼りになるものだった。

「戦いもしない俺のために、ありがとうございます」

「いつ、誰に襲われてもいいように武器を持っておくことは有効じゃからな。お前さんでも、必要な代物じゃ。大事にな」

トキャーケイは「はい」と頷くとその短剣を鞘に納め、腰に据えた。

「どうもありがとうございました、ワイストンさん。そういえば、見返りは求めないのですね」

彼は聞かなくて良いことを聞いてしまったことに少しばかりの後悔を覚えた。自分の誠実さが醜いと彼は思った。

「ハハハ! トキャーケイ、忘れたのかいお前さん。儂は前にお前さんたちに言うたぞ、『対価は今後のお前たちのやることの結果』じゃとな。金銭を要求しても良いんじゃぞ?」

「いえ、結構ですよ」

ワイストンの言葉でトキャーケイは内心ではホッとした。サクヤウヤは彼の肩に手を置いて笑った。

「どうも助かった。結果は必ず出してみせる」

「その心意気じゃ」

サクヤウヤはワイストンに手を振りトミン・ナーガと店を出て行った。

「道具壊れたら、またぁ頼むわい」

「わかりました。その時は持ってきてくださいね。では、お元気で」


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